【二項対立図式として考える環境問題】国際教養大学2016年B日程

記事
学び

(1)問題


次の文を読み、後の間に答えなさい。

① 地球温暖化の問題をはじめとして、環境問題は国際社会のなかでも重要な共通的な問題と認識され、国際協力の場面でも、ただたんに経済的な豊かさを求めるだけでなく、だれもがそのことを考えなければならなくなってきている。そのようななかで、環境問題の解決のためには、いままでの生活スタイルを変えていくことも必要だと一般的にいわれている。環境にかかわる目標値を達成するためには、一般の人、をいかにして巻き込み、意識改革も含め、全人類的に環境問題に取り組むことができるか、大きな課題になっている。そのためにも、徳目として守るべき道徳的な規範が求められている。普遍的に守るべき「環境倫理」が必要とされているのである。
・・・・・〈中略〉・・・・・

② 既存の「環境倫理」を検討しようとすると、その基本的枠組みには、人間vs自然、あるいは、人間中心主義vs人間非中心主義という「二項対立図式」があることに気づかされる。この図式は「環境問題」のとらえ方一般にも染みついている。環境にかかわる問題が立ち上がるたびに、自然を守るのか、それとも人間の生活、とくに利便性を優先するのかと、私たはいつも、自然と人間を対比的に考えることに迫られる。また、自然を破壊する根源には「人間中心主義」があるとされ、私たちは環境の時代のなかでそろそろ人間中心主義的な考え方を改めなければならないのではないかといわれる。しかし、このことはもっともなように見えるが、ちょっと深く考えるといろいろな問題がありそうである。自然を守るためには、ほんとうに人間が利便性や生活を犠牲にしなければならないのか。そのようなことをしてまでどうして自然を守らなくてはならないのか。そもそも自然を守るのは人間の生活を豊かにすることではなかったのか……。人間中心主義とは、そんなに悪いことなのか。どうしてそれを反省しなければならないのか……。突き詰め始めると、疑問は尽きない。
・・・・・(中略)・・・・・

③ 「環境問題」は一般に二項対立図式で語られることが多い。大規模な開発問題は必ずといってよいほど「開発/保護」という図式で語られる。また、公害の時代から、「経済か環境か」というように、その二項対立図式は、どちらかを追求すると、もう片方を犠牲にせざるを得ないような、トレードオフの意味で使われてきた。この構図は、深く考えていくと、「人工物/自然物(天然物)」や「人為/自然」というところまで行き着き、一般的には「人間/自然」という根源的な二項対立図式としてとらえられている。

④ 「環境」の時代にあってはその図式は、倫理的に善悪の問題に還元され、「環境的に」「正しい」あり方は、「自然物(天然物)」や「自然」の側にあるとされることが多かった。ハイテクなどの「近代」技術より「伝統」技術のほうが環境的臨に適正であるというように。もちろん、この倫理的判断に対しては、一方で、一種の「自然主義」として、冷や水が浴びせられたりすることも多く、「ノスタルジー」とか「原始に帰るのか」といういい方もされる。

⑤ この二項対立図式は「環境問題」の解決を困難にする「トレードオフ」という問題にも行き着く。トレードオフの問題を生じるからこそ、「環境問題」は解決がむずかしいといわれるし、それが環境に関する社会的なジレンマであるとされる。「環境問題」はまさに二項対立的な、トレードオフを引き起こすジレンマのなかにあるとされるのである。

⑥ もちろん、一方で、「環境」によるビジネスチャンスや、CSRなど、必ずしも「経済/環境」という二項対立図式に還元されないような企業の取り組みの可能性も出てきた。そこから環境問題の解決をめざす考え方や試みもないわけではない、しかし、これに対しても環境問題は現在の生活や経済をそのままにした技術的な解決ですむのかという根源的な問いかけがなされることも多く、問題はふたたび二項対立図式に舞い戻る。問題はどこまでも二項対立図式のなかに組み込まれる。

(注)CSR… corporate Social Responsibility「企業の社会的責任」鬼頭秀一・福永真弓編(『環境倫理学』(二〇〇九年、東京大学出版会)

問一 何故、環境問題の多くは「トレードオフ」を引き起こすのかを二〇〇字以内で説明しなさい。(三〇点)

問二 筆者は環境問題における「二項対立図式」を批判的に論じつつ、新たな図式を模索しているようです。筆者の問題意識を踏襲しつつ、新たな環境倫理の方向性を四〇〇字以内で論じなさい。(七〇点)

(2)考え方


問二
参考文中の⑥段落「一方で、『環境』によるビジネスチャンスや、CSRなど、必ずしも『経済/環境』という二項対立図式に還元されないような企業の取り組みの可能性も出てきた。」という文章を手掛かりにして考える。
国連のSDGs(持続可能な開発目標)を題材にして書くといいだろう。

環境問題.png

(3)解答例


問一 

環境倫理の基本的枠組みには、人間vs自然、人間中心主義vs人間非中心主義という二項対立図式があり、この二項対立の構図を深く考えていくと「人間/自然」という根源的な二項対立図式として捉えられている。環境問題が起こるたびに、この図式が染みついているため、自然を守るのか、それとも人間の生活、とくに利便性を優先するのかと、私たちはいつも自然と人間をトレードオフの関係として対比的に考えることに迫られるから。
(197字)

問二

 現在、国連はSDGsを展開している。これは2 0 3 0年までに実現させる17の大きな目標であり、この旗印の下に人権の擁護に加えて経済発展と資源や地球環境の持続可能性を世界に訴えている。この開発目標の中に「気候変動に具体的な対策を」「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさも守ろう」などの環境問題に関連するものが多く見られる。これを受けて各国は目標達成に向けてSDGsを推進する一方、企業もこの流れに遅れまいと環境ビジネスを加速している。

 こうした企業の試みは、環境保護を前面にアピールする付加価値の高い商品を開発することで市場の開拓につながる可能性がある。これは、投資家の評価を集めるいっぽう、企業のブランドを高めて企業価値を向上させることにもつながる。

 経済発展と環境の持続可能性を両立させる新たな環境倫理を構築するうえで、SDGsは大きな足掛かりとなることが大いに期待される。(400字)

(4)解説


【研究/SDGs】

・「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。

・2015年9月の国連サミットで採択された。

・国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標。

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