【TPPと農業】東京農業大学小論文の勉強法(第8回)

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学び

(1)はじめに


戦後の国際経済は自由化の流れが促進している、とまとめることができます。

私たちは、現在、スーパーに行けば多くの国から輸入された食材を廉価(れんか)で買い求めることができます。

これは、消費者が貿易の自由化の恩恵を受けているからと言ういうことができるかと思います。

今の私たちの豊かな暮らしは、自由貿易によって支えられているのですが、これは戦後の最初から実現されたものではありません。

諸外国やGATT(関税及び貿易に関する一般協定)やWTO(世界貿易機関)での度重なる交渉の末、保護貿易から自由貿易への流れが徐々に整えられていったのです。

逆に生産者である農家は、自由化が加速するたびに競争相手となる外国から安い農作物は国内に入ってくることになり、それだけ価格や品質で競争が激化し、経営基盤が揺るがされる脅威となります。

いまや、農業は国際経済の構造に組み込まれ、海外の生産者や市場の動向を気にしながら生産する時代になりました。

このような背景から、東京農業大学推薦入試小論文では、近年のTPP(環太平洋経済連携協定)や農作物の自由化について意見を聞かれる機会が増えてきました。

受験生のみなさんはしっかりと準備して入試本番に臨みましょう。

(2)自由貿易(自由化)とは何か





自由貿易(自由化)とは、関税を引き下げ、あるいは撤廃して、輸入品の制限も無くすことで、海外から自由に商品が輸入される状況を指します。逆に見れば、日本の農作物や工業製品、サービス品なども国境を越えて自由に海外に輸出される機会が増えることを意味します。


そうすることで、消費者としては、安い商品を買うことができて生活が楽になります。

一方の、農家などの生産者もそれまでは国内市場向けに作られていた農作物を海外市場に輸出する機会が増え、うまくすると収益の増加が見込まれるチャンスとなることもあります。

このように、自由化が加速すると、国と国どうしによる国際分業の仕組みが出来上がり、緊密な関係を築くことで、戦争を抑止する効果を持つとも言われています。

こうした理由で、第二次世界大戦後の世界では自由貿易(自由化)が進みました。

(3)戦後の日本の自由化の流れ


日本は戦後、最初から自由貿易だったわけではありません。

特に農業分野においては、生産者農家を守るために長く保護貿易が行われていました。

保護貿易とは、自由貿易の逆で、輸入品を制限・禁止をしたり、輸入品に高い関税をかけて国内産業を保護する貿易政策になります。

政府自民党としても、選挙の際に農家の票を獲得する狙いもあって、農家に手厚い補助金を交付したり、公共事業で農道や用水路を整備したりという内政と保護貿易によって、二重三重に日本の農業を守ってきました。

これは、食料安全保障論※の考えも背景にあります。

※食料安全保障論:食料を100%海外からの輸入に頼ってしまうと、世界的な不作や戦争に際して、食料輸入が途絶えて食料危機が起こる。このような事態が起こらないように、食料自給率を高めることが、国の安全保障につながるという考え。

しかし、海外からの自由化の要求には抗えず、しだいに固く閉ざした門戸を徐々に緩めて国内市場を開放する動きが始まります。


●戦後の日本経済と自由化の動き.png

上の表で、特に最下段の「農作物の自由化」の項目が重要です。

従来は、日本の畜産業やみかん農家を保護するために、牛肉やオレンジについては輸入制限がされてきましたが、外圧の前に屈して1991年に「牛肉・オレンジの輸入自由化」が決定されました。

さらに段階的に関税率が引き下げられ、低価格の輸入牛肉が出回ることで牛肉の消費量は増加し、国内産の牛肉価格も値下がりしました。

オレンジも、果汁の輸入量が増加し生産農家に深刻な影響を与えます。

(4)コメの自由化


さらに追い討ちをかけるように、1993年にはコメの自由化が進みます。

その解説をする前に、GATTとWTOについての説明から始めます。

GATTは1947年、第二次大戦後にアメリカを中心として自由貿易を進めるための協議の場として、つくられました。


日本は1955年にGATTに加盟します。

貿易交渉は8回行われましたが、そのなかでも農業問題で重要となるのは1986年-1995年に行われたウルグアイ・ラウンドです。ちなみにラウンドとは、多国間が一堂に会して自由貿易のルールを決める多国間協議のことです。


ウルグアイ・ラウンド交渉において、日本はコメを1995~2000年までの6年間、国内消費量の4~8%を段階的に輸入する「コメの部分開放」が決定されました。コメをいきなり自由化するのではなく、初め(1995年)はコメの国内消費量の4%の輸入を日本に義務付ける、翌年は5%というように段階的に自由化を進めました。ただし、この間はコメに対する関税は猶予されます。この最低輸入量を「ミニマム・アクセス」といいます。

そうして、1999年に関税化(自由化)しました。つまり、コメの輸入制限を撤廃する(自由化)のと引き換えに、輸入米に関税をかけることで国内農家を保護する政策に切り替えたのです。

このコメの自由化交渉に際しては、国内の農協を中心に米作農家は激しく反発しました。

海外から安いコメが国内市場に入ってくると、日本のコメは売れなくなる、日本の米作農家はつぶれるというのが反対の理由です。

しかし、蓋を開けてみれば、日本のコメは輸入米に比べて品質においてはるかに優れ、美味しいので、消費者の日本米離れが進むことはなく、コメの自給率は引き続き高い水準で保たれることとなったのです。

GATTはウルグアイ・ラウンドを最後にWTO(世界貿易機関)に発展的に解消されました。

WTOは貿易紛争に際して、これを仲裁する裁判所にあたる役割を持つ国際機関であり、こうした司法的な機能はGATTを継承するものです。


WTOはGATTに比べてより強制力の強い機能を持つものというまとめ方ができるかと思います。

また、GATTやWTOは多国間協定のため、発展途上国と先進国との間の対立が深まり、交渉がまとまらないという課題があり、WTOはドーハラウンド以降、交渉がストップしています。

これに代わって2国間協定のFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)が近年、多く結ばれるようになってきました。

2国間のほうが合意を得られやすく、なおかつ柔軟な対応ができるので、交渉がスピードアップできるなど、メリットが大きいからです。

最近では日本は欧州とアメリカとFTAやEPAを結んでいます。

さらに2019年にはTPPが発効しました。

●日本のFTA,EPAの相手国・地域.png

(5)TPPと農業


①TPP発効の経緯

TPP(環太平洋経済連携協定)は、2006年5月,APEC(アジア太平洋経済協力会議)加盟国であるシンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリの4か国が締結した経済連携協定が原型になります。

2009年11月にアメリカのオバマ大統領が参加の意向を表明したことから新たな自由貿易の枠組みとして注目されるのですが、その後、トランプ大統領になって、TPPからの離脱を表明。

一時は空中分解しかけましたが、その後アメリカ抜きでの交渉が進み、日本は2019年に発効し、2021年現在までに、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア、ベトナムなどの11か国が加盟しています。

②TPPの内容

あわゆる商品の関税完全撤廃が目標になります。

TPPに加わると、鉱工業品・農産物などの関税がほぼ例外なくゼロとなるほか、外国企業、外資、看護師や介護士をはじめとする外国人労働者の受け入れに関する規制ができなくなります。

基準・認証などの非関税障壁の撤廃も迫られます。このため通常の自由貿
易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)よりモノやサービスの取引自由度が高まり、国内に保護すべき産業を抱えている国は協定に加わるハードルが高くなります。

③農業とTPP

TPP発効によって関税の削減・撤廃を機に、食肉や果実を中心に海外からの輸入品が増え、国内農業はかつてない自由化の波にさらされています。

さらには日欧経済連携協定(EPA)が2019年、日米貿易協定が2020年に発効し、海外からの輸入攻勢は強まっています。

豚肉・牛肉がカナダやニュージーランドから。ブドウはオーストラリアやメキシコなどからの増加が目立っています。リンゴも、ニュージーランド産がシェアを大きく伸ばしています。国産のリンゴ農家にとってはシェアを奪われる危機に直面しています。

(6)問題・東京農業大学国際食料情報学部食料環境経済学科2019年





環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が、平成30年中に発効する見通しとなった。TPPが、日本の農業、食品産業、消費者、環境などに与える影響と、それへの対応や対策について述べよ。

TPP.png

(7)考え方


TPPへの対応や対策については、簡単なヒントだけ書きます。

日本の農家は国際競争に勝てるだけの高品質で付加価値の高い農作物をつくる、または、価格競争に勝てるような安い農作物を大量生産する。

このどちらか(あるいは両方)がこれからの農業には必要になります。

そのためには、農業の六次産業化やテクノロジーの導入による省力化で人件費を削減するなどの、なおいっそうの経営努力が求められます。

以上を具体的に考えるには、これまで本講座(東京農業大学小論文の勉強法)で解説したすべての内容が参考になります。

今回の問題は今までの学習の応用問題といっていいでしょう。


解答解説はオンライン個別授業を受講された方に配布しています。



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