子どもには子どものトレーニング
「子どもの運動神経を良くするために何したらいいですか?」と聞かれたときに、まず真っ先におすすめするのが「鬼ごっこ」です。
そう答えて怪訝(けげん)そうな顔をされたことが何度もあるのですが、そこが素人とプロの視点の違い。聞いた人としては、「相手はプロの運動指導者だから、何か専門的なトレーニングを教えてもらえるのでは…」と思っていたところに、「鬼ごっこ」の答えですから、「え?」となる気持ちもわかります。中には「素人だと思って適当に答えているのかな…」とか「やっぱりお金払わないと教えてくれないか…」なんてことを思っている人もいたかもしれません。
ですが、決してそんなことはありません。「アスリートの能力をどのように高めていく(=積み上げていく)べきなのか」その全体像を理解し、「子ども時代にはどのような能力をどのように開発するべきなのか」を知っているプロだからこそ、の答えなのです。
「鬼ごっこ」は、言ってしまえば、ただの追いかけっこですが、実は、スポーツで活躍するための要素がたくさん詰まっています。
【「鬼ごっこ」で鍛えられる能力】
・スピード
・アジリティー(敏しょう性)
・リアクション(反応)
・駆け引き
・状況判断
どれもこれもアスリートには欠かせない能力ですが、その中でも特に鍛えられるのが「アジリティー」です。
「アジリティー」とは
「アジリティー」とは、素早く移動方向を変えたり、動きのパターンを急に変化させたりすることができる能力のことです。「敏しょう性」とも呼ばれ、学校で行われる体力テストの種目で言えば、「反復横跳び」で測定されるのがこの能力です。
アジリティーを構成する要素としては、小刻みなフットワークや素早い踏み出し、反応や移動のスピード、多様な動きのリズムやタイミング、といったものが挙げられます。
素早い方向転換は、減速と加速という2つの局面から成り立っています。まず現在の移動スピードを落として停止し、間髪入れずに別の方向へとスピードを上げていく。つまり、急減速と急加速が上手な子ほどアジリティーが高くなるということです。一般に、急減速には太もも(大腿四頭筋)の筋力が、急加速には腕振りの巧みさが大きく影響すると言われています。
「鬼ごっこ」は単純そうで奥が深い
追いかけっこですから、スピードのある子=足の速い子が有利であるのは間違いありません。ですが、それじゃあ、50m走のタイムが一番の子が最強かと言ったら、必ずしもそうとは限りません。そこが、鬼ごっこの面白いところであり、奥深いところです。
自分より足の速い鬼に追いかけられたとき、ただまっすぐ走っていれば、やがて追いつかれます。多くの子は、このような状況に陥ってもなお、無策のまま走り続けてつかまってしまいます。ですが、実は、本当の勝負はここから。「あぁ、もう捕まる…」というまさにその瞬間に急激な方向転換をすると、鬼がその動きについてこられなければ、追跡をかわすことができるのです。
この急激な方向転換の能力こそ、さまざまなスポーツで必要とされる「アジリティー」に他なりません。もちろん、逃げるほうがそのような動きでかわそうとすれば、鬼のほうも逃すまいと急激な方向転換をします。ですから、鬼ごっこをやればやるほど、「アジリティー」が高まっていくというわけなのです。
お手本を見せてあげましょう
とは言え、追いかけられればとにかく一生懸命走って逃げたくなるのが自然ですから、最初は「こうやったらかわせるんだよ」というアイディアを、大人が子どもに見せてあげることが大切です。わが子と1対1でも、大勢の子どもたちに混ざってでも構いません。子どもが追いかけてきたら、追いつきそうなスピードで逃げつつ、いざ捕まえようとしたときに、急な方向転換でかわしてみせましょう。
そうやって一緒になって遊んでいると、子どもはマネしようとし始めます。そうなったらしめたもの。いろいろなパターンの方向転換でかわしてあげれば、それらもマスターしようとしますし、そのうち自分なりの工夫も加えて、動きのバリエーションをどんどん増やしていきます。かくして、日々の鬼ごっこで、アジリティー能力がぐんぐん高まっていきます。
子どもがレベルアップしてきたら、それに合わせてより高度なテクニックを導入するようにします。方向転換の直前に逆方向へのフェイク動作(フェイント)を入れると、かわせる確率はより高くなります。さらに、鬼が捕まえようと手を伸ばしたその瞬間に合わせ、絶妙なタイミングで方向転換すれば、鬼はまず対応できないでしょう。このように、子どもに対して常にちょっとした「チャレンジ」を提供するようにすると、飽きずに夢中で楽しんでくれます。
子どもと一緒に「鬼ごっこ」を!
というわけで、わが子を「運動神経のいい子にしたい」「スポーツで活躍できる子にしたい」と思う方は、ぜひ子どもと一緒に「鬼ごっこ」で遊びましょう!
ちなみに、親が本気でかわし続けると、子どもはイヤになって泣いちゃったりしますので、「やりすぎ」にはくれぐれもご注意ください…(笑)