ダイエットの願い、その落とし穴
「ふぅ……」
白い雲の上で、神様は深いため息をついた。
手元の巻物には、今日も地上からの願いが、星屑のようにきらめいている。
隣の見習い神様、アマネが不思議そうに首を傾げる。
「どうしたんですか、神様。最近、ため息が多いですが」
「いやね、アマネ。最近の人間どもは、
『理想の自分』への過度な執着が強すぎてねぇ」
神様は巻物の中から、ひときわ明るく光る一点を指さした。
「ほら、ミサキだよ、ミサキ。見てごらん、
こいつの願いの輝き方ときたら……」
ミサキは、神様がよく知っている社会人だ。
数年前は「素敵な恋人ができますように!」と願っていたのに、
最近は願いの内容がガラリと変わった。
神様、ダイエットの願いに直面する
「で、今回は何だ?」
巻物をくるりと広げると、ミサキの願いが光の文字となって浮かび上がった。
『神様!どうか、あと5キロ痩せさせてください!
モデルさんみたいになりたいです!』
神様は、巻物を膝の上に落とし、「またコレか……」と天を仰いだ。
アマネが神様の顔を覗き込む。
「神様、今度は何にそんなに頭を抱えているんです?」
神様は深くため息をつき、アマネに巻物を差し出した。
「これを見てみろ、アマネ。ダイエットだ、ダイエット。努力もせず、ワシらに魔法のように痩せさせてくれと頼んでくるんだから、困ったもんだよ」
アマネは巻物をのぞき込み、少し首をかしげた。
「でも、体が軽くなるのは良いことじゃないんですか?」
「それがねぇ、アマネ。健康や活力のためなら、それは素晴らしいことだが、こいつらは『誰かに羨ましがられたい』とか『完璧な自分になりたい』とか、そういう外側の評価ばかりを求める気持ちが強すぎるんだ。
しまいには、ろくに努力もせずに、ワシらに魔法のように痩せさせてくれと頼んでくるんだから、困ったもんだよ」
神様は、ミサキの魂が放つ光を覗き込んだ。
確かに、ミサキの心の奥底には、
美しく健康でありたいという小さな光があった。
しかし、その周りには、メディアが作り出す「理想の体型」に縛られ、
今の自分を必要以上に否定しているような、不満と焦りの影がちらついていた。
「だいたい、ワシらが簡単にスリムな体を与えたら、
こいつらはどうなると思う?食べる喜びも、運動する達成感も知らずに、
ただ数字や見た目だけを追いかける、空虚な状態になってしまうじゃない
か」
神様は腕を組み、深く考え込んだ。
神様が見つけた「自分を愛する」という本質
「よし、決めた!」神様はパン!と手を叩いた。
「今回は、体重を減らすのはやめる。
代わりに、『ありのままの自分を愛する』というヒントを贈ってやるか」
アマネは目を丸くした。「自分を愛する、ですか?」
「うむ。人間が本当に欲しいのは、数字じゃない。
ありのままの自分を受け入れ、健康的な生活を心から楽しむ、
心の充足感なんだよ」
神様は、巻物からミサキの光に向かって、
そっと「心躍る行動」の風を吹かせた。
それは、ミサキが学生時代に夢中になったダンスのレッスンや、
友人と自然の中を散歩した楽しかった日々を思い出す風だった。
ミサキの日常に吹く変化の兆し
その日、ミサキはいつものように、朝食を抜こうとキッチンに立っていた。
すると、ふと、ある記憶が蘇った。それは、ダンスレッスンで汗を流し、
体が軽くなる喜びを感じた日のことだ。
鏡に映る自分を、体重計の数字ではなく、
「今日はよく動いたな」と誇らしく思った、あの日のことだ。
その時、SNSで友人の投稿が目に入った。
「週末、〇〇公園でヨガしませんか?気持ちいいですよ!」。
普段なら「痩せるため」と義務感で運動していたミサキは、
今回はなぜか心が躍った。ヨガは以前から興味があったものの、
完璧にできない自分を想像して避けていたのだ。
ミサキは、すぐに友人に参加の返信をした。
そして、鏡に映る自分の体を、数字で判断するのではなく、
「健康的に動けたらもっと楽しいかも」という、
前向きな気持ちで見つめ直した。
変化するミサキの心
雲の上で、神様は満足そうに小さく頷いた。
「ほら見ろ。人間ってのは、他人の理想や数字にばかり囚われていると、自分自身の本当の価値や、心身の健康といった本当に大切なものを見失っちまうもんだ。ワシらの仕事は、ただ願いを叶えるだけじゃない。
『自分の中に答えがある』ってことを、思い出させてやるのが仕事なんだよ」
神様は、また巻物を広げ、次なる願いの光に目を向けた。
今度は、仕事で人間関係に悩む男性の光だ。
「よし、これにはちょっとばかり『笑顔のきっかけ』を仕掛けてやるか。
小さな親切が、大きな変化を呼ぶこともあるからな」
神様のお仕事は、今日も続く。願いは常に届いている。
ただ、それをどう料理するかは、神様とほんの少しのひらめき次第なのだ。