手の震え/書痙/あがり症 克服への体験記3 夜明け前

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手の震えの悩みを一人で孤独に抱える

私は手の震えの症状をありのまま、カウンセラーや精神科医にうちあけられない心苦しさがあった。
効果がないこととあいまって、通うこと自体も。
あたりまえのことだ。
すべてを打ち明けて、はじめて治療のスタートラインにたてるのに、秘密をずっと抑圧し続けていたのだ(だからこそ、症状と決別した今、昔の反動でブログに打ち明けているのかもしれない)。


暴走する神経、イライラと焦り

心療機関に通っている間、私の神経の集中先が、腕だけでなく頭の内部にもとらわれるようになった(それで腕への神経の集中がなくなれば、どんなによかったか! でも現実はセットだった)
頭のどこかにいつも神経が向いているのだ。
重い、苦しい、つらい。
神経がいかれているんじゃないかと疑った。
外科手術で、これらの症状をはずすことが出来ればという夢物語を願った。
こんなものじゃ、とても集中して手術が出来ない。
完全に手術恐怖症になった。
イライラと焦りでいっぱいいっぱいになってしまった。
それでも必死で慎重に進めていき、ぎりぎり失敗はなかった。
これに費やしたエネルギーはとんでもない。
普通の人間は、そのエネルギーを幸福や楽しみのために振り分けているんだろう。


うつ病の兆候も

いつかやばいことになるかも、なったらおしまいだと不安がいっぱいだった。
汗の量もやばかった。
手術に失敗したら、その時は自殺する時とまで思っていた。
うつ病の兆候も出てきたと思う。
イライラし、落ち込みを繰り返し、自律神経失調症の苦しみも続き、感情も死んでいき、憂鬱で暗いことにすべてが支配されていった。
あのまま進んでいたら、完全にうつ病に陥っていただろう。

手術の失敗への恐怖と絶望感

仕事を辞めたとしても、私はそれまで医師になること以外考えてこなかった。
今更、他に何が出来るのだろう? 未来に希望がないことは苦しい。
患者の方は、私の心理的内面はわからないし、私たち医師に安心して任せきっている。
特に外科手術は患者はまったくの受け身だ。
よもや失敗など考えていない。
しかも初歩的な簡単なミスなどあり得ない話だろう。
手が震えて失敗したなんて知られたら、私の人格、積み重ねてきたことすべてを否定されるだろう。


手の震えの秘密を知られたら最後

そして私の本当はこんな体たらくじゃないはずというプライドも許さなかった。
でも、 私が失敗しかねないのは、普通ならありえない初歩的なミスだった。
それも緊張による手の震えによって引き起こされるであろうミスだった。
同僚にも看護師さんにも患者さんにも秘密を悟られるのが怖かった。
もし内面の惨状(手の震え、過緊張症)を悟られたら破滅しかなかった。


孤独と絶望

恥ずかしいことに手が震える。
誰も手を震えている人なんかいない(と当時一人で思っていた)。
ましてや外科医がそうなるなんてありえない話だ。
外科医にあるまじき悩みの症状を私は持ってしまったのだ。
それを必死で隠していた。
でも、張りつめた緊張感に心がクタクタになってしまった。
発狂してしまうんではないかと言うくらい、心が追いつめられていった。
いつもため息で、心が重く苦しくなっていた。


向精神薬に頼る、その不安と不満

心療内科で薬を処方してもらい、どうにか抑えることが出来た一方で、だるくなったり、頭がぼやけたりして、手の震えよりも、そちらの方が危ないと悟った。
薬を飲めばすべてが解決するという甘ったれた希望的観測を持っていたため、ショックが強かった。
医師は簡単に薬を出すと言うが、こちらが患者になってみるとそのとおりだった(だから精神科医に対する不満もよくわかる)。
心のふれあいがなかった。
実は私はあまり心の触れ合いをしたくなくて、外科医を選んだこともあった。
腕一本で生きていけるかっこよさもあったが、黙々と手術をすることへの憧れがあった。


絶望の淵で悩みに抗う

でも、患者としての私は、心をしっかり強く支えてくれる医師やカウンセラーを求めていた。
だから催眠療法をやったり、森田療法の「あるがまま」の理論にあこがれを持ち実践しようとしたが、心のほつれはそう簡単に繕えるものではなかった。
弱点を知られないように知られないように外面だけあわせて、なんとかしのいでいたが、まったく一時しのぎの対策しかとれていなかった。
一時しのぎの代償は、さらなる悪化としわ寄せが来るというが、一時しのぎしかできない状況だった。
私にはそれしかやりようがなく、泥沼にはまるだけだった。
違和感を感じ続けて生きていた。
私には未来への展望なんか思い描けなかったし、暗い暗い現実の中で呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
いや呆然とではなく。いつも心配と不安と苦しみと悩みと焦りと心の傷のうずきを感じていたのだ。
何もできなかった。


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