私のルーツ旅・第5話|戸籍にいない“もう一人のご先祖”──住職のひと言が、旅の地図を塗り替えた

私のルーツ旅・第5話|戸籍にいない“もう一人のご先祖”──住職のひと言が、旅の地図を塗り替えた

記事
コラム

もしかしたら、
何も手がかりを得られないかもしれない。


それでも、行ってみよう。
——そんな気持ちでした。


手紙を出してから1週間ほど経過したある日、
私は思い切って菩提寺に電話を入れました。


受話器の向こうで、
やさしく、あたたかい声が応えてくれます。


ご住職でした。


事情をお伝えすると、
「それはぜひお話ししましょう」と、
驚くほど快く受け入れてくださいました。


受話器を置いた私は、
胸の高鳴りが収まらないのを感じていました。
この電話が、思いもよらぬ方向へ
私を導くことになるとは——。


これが、私の先祖調査の
大きな転機になったのです。


「過去帳は見せられませんが…」その先に

先祖調査の中でも、
菩提寺の調査というのは、
実はとても重要なパートです。


とはいえ、現代は個人情報保護の観点から、
過去帳の自由な閲覧は原則としてできません。


あくまで「お願いベース」で
情報を聞き出していく必要があります。
最初に抱いていたのは、こんな疑問でした。


「寺に先祖につながる過去帳が残っているのか?」
「本家のことまで知ることができるのだろうか?」


境内にある応接に通され、
期待と不安が入り混じった
“ざわざわ”を感じながら
ご住職を待ちます。


しばらくすると、ご住職が現れました。


住)お父さんとお母さんは
元気にされていますか?

私)はい、父も母もおかげさまで
元気にしております。

住)ご先祖の事を調べていらっしゃるんですね。

私)はい、今まで家や先祖の事を
あまり知ろうとしてきませんでした。

自分がこうしていられるのも
ご先祖がつないできてくれたからに
他ならないと気づき、

個人的な興味からちょっと知りたくなりまして。

住)そうでしたか。
ご存じでしょうが、
過去帳をお見せするわけにはいきません。
他の方も載ってますからね。

ここに控えてきましたので、
それをお見せしましょう。


ご住職は静かに話始めます。

記録が、消えた町で語りかけてくる

「実は、昔の津波でね、古い過去帳が流されてしまったんですよ」


ご住職は、ぽつりと、そうおっしゃいました。


その言葉を聞いた瞬間、
私は息を呑みました。


ああ、やっぱり……。
郷土史で読んでいた記述が、
目の前の現実として
重くのしかかってきます。


この町は海沿いで、
古くから漁師が多く住んでいたと聞きました。


波の音とともに生きる日々。
自然の恵みと、同時に脅威とも
向き合いながら暮らしてきた人々。


ご住職が語る中で、こんな話も印象的でした。


昔はね、“口減らし”の風習があって、
村ごとに子どもを他所にやったり、
もらったりしたこともあったんですよ。
『貰いっ子』なんて呼ばれてね……


ただ生き延びるために、漁師として生きる。
そうやってつながれた命が、
今ここに続いているかもしれない——。


そう思ったとき、私は「記録」
というものの重みを改めて感じました。


ご住職は帳面を開きながら、
そっと一枚のメモを取り出します。


「初代 長蔵」


私は、その一言に心を揺さぶられました。


「長蔵」は確か戸籍で判明した6代先の先祖の名だ。
さらにご住職から、もうひとつの名前がわかったという。


それは「由兵衛」だという。「由兵衛」?
戸籍になかった文字だ。


さらに、ご先祖をさかのぼることができた。


それに、気なるのはやはり「初代」という二文字。


過去帳にわざわざ“初代”とつく名が意味するもの。
それは、何かの始まりを担った人物であり、
代々受け継がれる何かを生み出した存在。


漁師は、初代とか言うのだろうか、
やはり鋳物師の線も捨てきれない。
どんな暮らしをしていたのだろう。


などど、頭の中はもう疑問やら好奇心やらで
あふれかえっています。


記録は、たった一つだけ残されていた名前。


この地の津波にも、風習にも、
人の手にも消されなかったその「名前」が、
今、私の中で大きな物語を動かし始めたのです。


ご住職は、さらにこう続けました。


あなたのご先祖の本家さん、
今も檀家さんですよ。
連絡先をお伝えしましょうか?


マジッ!!いや、本当ですか!?


さらに、位牌には「丸に立ち沢潟」の
家紋が彫られていたことも教えてくださいました。


初代長蔵という名前、本家の所在、家紋の種類——
それらは、すべて“記録”として奇跡的に残っていたもの。


けれど、その背後にある町の風景や、
受け継がれた想いは、
ご住職の言葉を通じて、
より深く私に染み込んでいきました。


次へ——つながるその先に

親戚からの情報がなかなか集まらなかったなかで、
この菩提寺訪問は、私のルーツの旅を
大きく前進させる転機となりました。


そして、私の胸には、
あの「初代長蔵」なる人物の名前が
強く残っています。


果たして、彼はどんな人物だったのか?
そして、その“もう一つの家系”では、
どのように記憶されているのか——


私は、手にした連絡先をもとに、
手紙を書き始めました。


果たして、本家の方と、会うことはできるのか?


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