介護というと、「要介護認定を受けた時から始まるもの」と思われがちです。
でも実際の家庭では、介護はもっと手前から始まります。
しかも、はっきり「今日から介護です」と線が引かれることは少なく、転倒、入院、物忘れといった出来事をきっかけに、家族の役割が少しずつ増えていく形で始まることが多いのです。
厚生労働省の令和4年国民生活基礎調査では、65歳以上で介護が必要になった主な原因は、総数でみると『認知症16.6%、脳血管疾患16.1%、骨折・転倒13.9%』でした。要介護者に限ると、『認知症23.6%、脳血管疾患19.0%、骨折・転倒13.0%』となっています。
つまり、家族が最初に直面しやすい「物忘れ」や「転倒」は、実際に介護の入口になりやすい出来事なのです。
さらに、要介護認定率は年齢とともに大きく上がります。
厚労省資料では、『70~74歳で5.7%、75~79歳で11.5%、80~84歳で25.3%、85~89歳で47.2%、90歳以上で72.9%』とされています。
だからこそ、親が70代に入った段階では「まだ介護ではない」と思えても、入口になる出来事は十分に起こり得るのです。
介護の始まりとして多いのが「転倒」です
転倒は、家族からするととても分かりやすい『始まり』です。
それまで普通に暮らしていた親が、
家の中でつまずく、外で転ぶ、骨折して入院する。
これだけで、生活は一気に変わることがあります。
厚生労働省の基本チェックリストでも、
階段を手すりなしで上がれるか
何もつかまらずに立ち上がれるか
15分くらい続けて歩けるか
この1年で転んだことがあるか
転倒への不安が大きいか
が、早めに確認したい項目として並んでいます。
転倒は単発の事故というより、足腰やバランス、外出意欲の低下が表面化したサインとして見る必要がある、ということです。
高齢者の筋力や身体機能の低下については、サルコペニアとして整理されており、健康長寿ネットでも、加齢に伴う筋肉量・筋力・身体機能の低下が、歩行困難や活動能力低下につながると説明されています。
転倒そのものより怖いのは、その後に
「もう外に出るのが怖い」
「一人で歩かせるのが不安」
となって、家族の付き添いや見守りが一気に必要になることです。
次の入口が「入院」です
介護は、病気そのものより入院をきっかけに現実化することが少なくありません。
肺炎、脱水、骨折、心不全、感染症。
原因はさまざまでも、入院すると家族はすぐに
入退院の手続き、
説明の同席、
退院後の生活調整、
通院付き添い、
を担うようになります。
しかも高齢者では、入院中の安静そのものが問題になることがあります。
厚労省の2025年の資料では、急性期医療における高齢者のADL悪化を防ぐ取組は喫緊の課題とされ、急性期病棟での対応充実が必要だとされています。
つまり、病気が落ち着いても、入院をきっかけに「以前のようには動けない」状態になることがある、ということです。
また、厚労省の2026年の通知でも、急性疾患等に伴う安静によって廃用症候群が生じうることが前提になっており、場合によっては入院初日からリハビリ対象となるケースも示されています。
健康長寿ネットでも、廃用症候群は過度な安静や活動性低下によって起こると説明されています。
つまり入院は、病気の治療の場であると同時に、介護の入口になることがあるのです。
家族からすると、ここで初めて
「退院しても一人暮らしは難しいかもしれない」
「通院や買い物を誰かが支えないと無理かもしれない」
と現実味が出てきます。
この段階で、介護はかなり始まっています。
もう一つの始まりが「物忘れ」です
物忘れは、家族がいちばん迷いやすい入口です。
なぜなら、年齢相応の物忘れと、支援が必要になる変化の境目が、とても分かりにくいからです。
厚生労働省の基本チェックリストでは、
周りの人から「いつも同じ事を聞く」などの物忘れがあると言われるか
自分で電話番号を調べて電話をかけることをしているか
今日が何月何日かわからない時があるか
が確認項目になっています。
つまり、見るべきなのは単なる「忘れた」ではなく、段取りが崩れてきたか、自分で調べて動く力が落ちていないかです。
家族が最初に気づきやすいのも、ここです。
同じ話を何度もする。
病院の予約を忘れる。
薬が余っている。
通帳や保険証の場所が分からない。
電話や書類の手続きが怪しくなる。
こうした変化は、まだ「介護」という言葉を使うほどではないように見えても、実際には家族の見守りや確認が増え始める段階です。
厚労省も、認知症については早めに相談し、適切な支援や受診につなげることを案内しており、地域包括支援センターを相談先として示しています。
介護は、一つの出来事より「その後の連鎖」で始まる
ここがとても大事だと思います。
介護は、転んだ瞬間に始まるのでも、入院した瞬間に始まるのでも、物忘れが一度あった瞬間に始まるのでもありません。
本当に始まるのは、その後に
誰かが付き添うようになる、
薬や通院を家族が確認するようになる、
買い物やお金の管理を手伝うようになる、
実家へ行く回数が増える、
家族の頭の中に「この先どうしよう」が住みつく、
そうした小さな支援の連鎖が始まった時です。
だから、介護の始まりは制度の線引きより前にあります。
家族が「少しずつ支える役割」に入った時点で、もう入口に立っているのです。
だから大事なのは、「何が起きたら要注意か」を家族が知っておくことです
介護は突然始まるように見えます。
でも実際には、前触れはあることが多い。
その前触れに気づけるかどうかで、その後の混乱はかなり違ってきます。
転倒があった。
入院して前より動けなくなった。
物忘れだけでなく、段取りやお金や電話対応が怪しくなった。
こうした時に、
「まだ大丈夫かな」で止まるのか、
「ここが入口かもしれない」と考えられるのか。
この差が大きいのです。
今やっておきたいことは3つです
一つ目は、転倒・入院・物忘れを『別々の出来事』として見ないことです。
どれも、その後に家族の支援が増えやすい入口です。
要介護の主な原因としても、認知症や骨折・転倒は上位にあります。
二つ目は、親に何か起きた時の初動を決めておくことです。
病院からの連絡先、家族の役割分担、通院先、薬、保険証や重要書類の場所。ここが整理されていると、仕事へのダメージも小さくしやすくなります。相談先としては、地域包括支援センターが高齢者と家族介護者への総合相談窓口です。
三つ目は、『まだ介護ではない』段階で相談することをためらわないことです。
地域包括支援センターは、介護認定が出てからだけでなく、初期段階の相談も受ける窓口として位置づけられています。
まとめ
介護は、要介護認定の日から始まるとは限りません。
多くの家庭では、
転倒
入院
物忘れ
をきっかけに、家族の支援が少しずつ増える形で始まります。
だからこそ、親が70歳を過ぎたら大切なのは、「まだ介護ではない」と安心しきることではなく、どこが入口になりやすいのかを先に知っておくことです。
第23話では、
「親の通院・服薬管理が怪しくなったら要注意」
というテーマで、家族が見逃しやすい『もっと日常的なサイン』を掘り下げていきます。
まずは、親に何を・どの順番で・どう話せばよいかを一緒に整理してみませんか?
ご相談お待ちしております!!