原因不明のジンクスを尊重すべき理由

原因不明のジンクスを尊重すべき理由

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<原因不明なジンクスを無視するか尊重するか>
科学が追いつく前の「知恵」:原因不明のジンクスを尊重すべき理由

幽霊の存在や原因不明の現象など、科学的に証明されていないジンクスや噂に直面したとき、あなたはどうするだろうか。「根拠のない迷信だ」と切り捨てるか、「何か理由があるかもしれない」と慎重に扱うか。
この問いに、歴史の重い教訓が答えを出している。かつて日本を震撼させた「脚気(かっけ)」という病の歴史がそれだ。
江戸の「不治の病」と噂の誕生
脚気は、発症者の1割が死亡するという恐ろしい病だった。特に江戸時代、参勤交代で江戸に滞在する武士の間で流行し、江戸を離れて故郷に帰ると治ることから「江戸煩(エドワズラヒ)」と呼ばれた。
奇妙なことに、この病は玄米を食べる地方の庶民の間ではほとんど見られず、白米を食べる裕福な武士や金持ちの間だけで猛威をふるっていた。そのため、当時は医学的な解明こそされていなかったものの、世間では「脚気は白米に原因がある」という噂がまことしやかに囁かれていたのである。
陸軍と海軍、運命を分けた「選択」
明治に入り、日清・日露戦争を迎えた日本において、兵糧を「白米」にするか「麦」にするかをめぐり、陸軍と海軍の間で大きな方針の違いが生じた。


海軍の判断: 「脚気は白米に原因がある」という原因不明の噂をあえて尊重し、「触らぬ神に祟りなし」として白米ではなく麦を選択した。

陸軍の判断: 「科学的な原因が不明な噂を信じるわけにはいかない」としてそれを無視し、当時の主食であり威信をも示す白米を選択した。
その結果は、あまりにも残酷なものだった。 海軍の脚気死者数がほぼゼロだったのに対し、陸軍は日清戦争で戦死者1千人に対し脚気死者数4千人、日露戦争では脚気患者27万人、脚気死者数2万7千人という甚大な被害を出したのである。ちなみに、東京市の白米が軍に強引に徴収されて枯渇した際、奇妙なことに東京市内の脚気患者が激減したという皮肉な事実もあった。大河ドラマの主人公として知られる蔦屋重三郎も、この脚気によって命を落としている。
噂の正体と、見えないメカニズムの科学
大正時代になり、この「噂」の正体がようやく科学的に解明された。原因は白米そのものではなく、精米による栄養の欠落だった。
米の糖分を身体に吸収するためには、相応量のビタミンB1が必要不可欠だが、ビタミンB1は米の外殻(玄米の部分)に集中している。江戸時代に発達した精米技術によって、白米は見た目が美しくなり苦みが取れた一方で、ビタミンB1が完全に削ぎ落されてしまっていたのだ。その結果、白米ばかりを食べていた金持ちや武士はビタミンB1不足に陥り、筋肉が動かなくなり、最終的には心不全を引き起こして死に至っていたのである。
地方の庶民は精米技術がなかったため玄米を食べており、結果として偶然にも病を免れていた。
私たちが学ぶべき教訓
「原因が分からない」「科学的根拠がない」という理由だけで、長年語り継がれてきたジンクスや経験則を安易に切り捨てるべきではない。当時は「迷信」や「噂」として片付けられていた事象の裏にも、長年の観察から導き出された真実が隠されていることがあるからだ。
合理性を重んじるあまり目に見える理屈だけに頼る態度は、時に致命的な見落としを招く。証明されていない現象に直面したとき、私たちは「無知の証明」を恐れ、先人の経験則に敬意を払う謙虚さを持つべきではないだろうか。
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