#175 パナソニックが「価格指定制」導入拡大、

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パナソニックが「価格指定制」導入拡大、どよめく家電量販店の本音


 「こちらの商品は、メーカーとの関係でお値引きができないんです」。
家電量販店の接客スタッフが発したその言葉に、都内に住む30代の男性は思わず耳を疑った。



家電量販店での買い物の際、価格交渉をした経験のある人は多いのではないだろうか。
この男性も、「周辺の量販店を何度も回り、いちばん安い価格を提示してきた店舗で購入するのが当たり前だった」と語る。



 ところが、そんな「当たり前」に変化が起きている。
総合家電大手のパナソニックが、新たな取引形態の導入を進めているのだ。




■競争力のある製品から導入拡大

 その取引形態は、パナソニックが在庫リスクを負担する代わりに、価格決定権を持つというもの。
同社の指定した金額で販売価格が統一されるため、消費者にとってはどの販売店で買っても同じとなる。
メーカーは販売店側で必要な数量だけ商品を納入し、売れなければ返品に応じる。



 2020年から導入を始め、2021年度には同社の家電製品の8%、白物家電に限定すると15%がこの形態で取引されている。
ヘアドライヤーの「ナノケア」など競争力のある製品が主な対象となっており、今後もそうした製品で導入を拡大させていく方針だ。
 メーカーが流通業者の販売価格を拘束することは、独占禁止法で違法とされている。




一方でパナソニックのスキームは、同社が在庫リスクを負うことでメーカーが直接販売していることになり、販売価格を決めても違法とはならない。
 「この動きは30年ぶりの転換点だ」。




競争政策を専門とする、東京大学大学院経済学研究科の大橋弘教授はそう指摘する。
 アメリカが対日貿易赤字の解消のため、日本に国内市場の開放を求めた日米構造協議。
それを受けて公正取引委員会は1991年に「流通・取引慣行ガイドライン」を制定した。
これにより、メーカーが流通業者の販売価格を指定することが原則違法となった。




 パナソニックが導入を進める新たな取引形態は、このときにメーカーが失った価格決定権を取り戻す動きと言える。
まさに30年ぶりの転換と位置づけられるわけだ。




 大橋教授によれば「10年ほど前から流通・取引慣行ガイドラインを見直す動きがあった」という。
EC(ネット通販)の普及により、最安値で販売されるケースが大幅に増えたことが背景にある。
新製品の投資回収ができないような販売価格が浸透してしまうケースもあり、メーカー側に価格決定権を持たせることについて、限定的であれば許容すべきという声も出ていた。



そうした中、同ガイドラインも2010年代にたびたび改正されてきた。こうした流れを受けたメーカーの取り組みが、「今、新たに具体的な動きとして出てきた」(大橋教授)わけだ。



■品田社長は「三方よし」と強調

 ガイドラインの制定以前、メーカー側の力が非常に強かった時代もあった。
流通史において有名なのが、1964年から30年にわたって続いた「ダイエー・松下戦争」だ。



 「価格破壊」で名を馳せた当時のダイエーは、松下電器産業(現パナソニック)の製品を2割引で販売しようとした。
対する松下電器はダイエーへの商品出荷を停止。



それにダイエーが反発し、独占禁止法に抵触するとして松下電器を裁判所に告訴するまでに至った。
両者の取引が再開されたのは、1994年のことだった。
 ダイエー創業者の中内㓛氏には「価格の決定権は消費者にある」との信念があった。



一方、松下電器創業者の松下幸之助氏は「適正利潤の確保を重視する」との姿勢を崩さなかった。
当時は松下電器製品の不買運動まで起きたが、今であれば松下氏の姿勢を理解する消費者も少なくないだろう。
 「消費者はお店を回って価格交渉をするロスがなくなる。
販売店はしっかり粗利を取ることができる。三方よしに近い」。
パナソニックの品田正弘社長は6月3日の合同取材の場で、新たな取引形態をそう自画自賛した。



 実際、好意的な反応を示す販売店もある。
ある大手家電量販店の幹部は、「価格だけで競う時代は終わっている。
販売店としても、厚い利幅を得られる高付加価値な製品を作ってもらうほうがありがたい」と語る。




 これまでは年末などの商戦ごとに、販売価格が段階的に下がっていくのが通例だった。
メーカー視点からすると、売れ残った商品は販売店に販売奨励金を出して在庫をさばいてもらう。
このような中でメーカーが利益を上げるためには、1年ごとに新製品を投入し、下落した価格をリセットする必要がある。




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