じゃあ、私は誰が好きなの?

じゃあ、私は誰が好きなの?

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コラム

家に帰っても、
陽菜の言葉が消えなかった。

「いるって言ったら?」

そして、「凪は、どうする?」

夕食を食べているときも。
お風呂に入っているときも。
髪を乾かしているときも。

何度も、何度も。
同じ場面が頭の中で繰り返された。

どうして、あんなことを聞いたんだろう。

陽菜に好きな人がいたって、私には関係ないはずなのに。

ベッドに座り、凪はスマホを手に取った。

陽菜とのLINEを開く。
一番下には、少し前に届いたメッセージ。

『今日は楽しかったね。また行こう。』

いつもの陽菜らしい、短い言葉。

凪は返信欄を開いた。

『うん。また行きたい。』

と打つ。でも、送らない。

少し考えて、
『今日はありがとう。』と足す。

また消す。

結局、『うん。また行こう😊』
それだけ送った。

すぐに既読がつく。

心臓が小さく跳ねた。

『次はあの青いノート買わないとね笑』

凪は思わず笑った。

覚えてるんだ。

今日、自分が迷っていたノート。

たったそれだけのことなのに、うれしい。

『まだあったらね』
送信。

『なかったら一緒に探す』

また、胸が温かくなる。

凪はスマホを胸の上に置いた。

そして、天井を見つめた。

(……なんなんだろう。)

陽菜からLINEが来るとうれしい。

陽菜が自分のことを覚えていてくれるとうれしい。

陽菜と二人になるとうれしい。

陽菜が誰かと楽しそうにしていると、少し寂しい。

陽菜に好きな人がいるかもしれないと思うと、苦しくなる。

一つ一つ並べてみると、答えはすぐそこにあるような気がした。

でも、凪は、その答えを見るのが怖かった。

枕元にスマホを置く。
目を閉じる。

すると今度は、悠真の顔が浮かんだ。
ずっと好きだと思っていた。

悠真が笑うとうれしかった。
話しかけられれば、その日一日が特別になった。

少し優しくされただけで、何度も思い返した。

あれは嘘じゃない。
確かに好きだった。

たぶん・・・。
今だって、嫌いになったわけじゃない。

なのに・・・。

今日、
陽菜の「好きな人」という言葉を聞いたとき、
悠真のことより、陽菜の気持ちのほうが気になった。

凪は目を開けた。

「……じゃあ。」

誰もいない部屋で、小さな声が出る。

「私は、誰が好きなの?」

言ってしまった。

その瞬間、胸の奥が大きく揺れた。

悠真?

そう答えれば、今まで通りだ。
分かりやすい。
安心できる。

男の子を好きになって、いつか付き合って、
そんな未来を、何となく想像していた。

「じゃあ、陽菜は?」

その名前を心の中で呼んだだけで、
今日のいろいろな場面が浮かんでくる。

雑貨屋で、
「それ、凪っぽい」と言ってくれた顔。

カフェで、レモネードを飲んでいた横顔。

夕暮れの道で、「いるって言ったら?」
と聞いた声。

もっと前のことまで浮かんでくる。

雨の日。
傘の下。
お弁当。
LINE。
畑。
丘。

同じ歩幅。

「もう少しいたかった。」

「私も。」

一つ一つは、本当に小さな出来事だった。

でも、全部の真ん中に、陽菜がいる。

凪は布団を鼻のあたりまで引き上げた。

「……女の子なのに。」

ぽつりと出た。

その言葉に、自分で少し驚いた。

女の子だから、好きにならない。
誰が決めたんだろう。

でも、今まで考えたことがなかった。

だから、怖い。
間違っているからではない。

知らないから。

自分の中に、
今まで知らなかった自分がいるような気がするから。

凪はしばらく黙っていた。

そして、あの日の陽菜を思い出した。

廊下の窓辺。
何も言わず、ただ隣にいてくれた陽菜。

沈黙を埋めなくてもいいと、初めて思えた時間。

だったら、この気持ちも、
今すぐ答えを出さなくていいのかもしれない。

「分からない。」
凪は小さく言った。

でも今度の「分からない」は、
逃げるための言葉ではなかった。

分からないから、もう少し見てみたい。
自分の心を。

陽菜を見たとき、何が起きているのか。

陽菜が笑ったとき、なぜ自分もうれしくなるのか。

陽菜が誰かを好きだと思うと、なぜ苦しくなるのか。

すぐに名前をつけなくてもいい。

でも、なかったことには、もうできない。

スマホが震えた。
陽菜からだった。

『おやすみ。明日ね』

凪は画面を見つめる。

明日ね。

以前なら、ただの挨拶だった言葉。

今は違う。
明日、また陽菜に会える。

そう思っただけで、
胸の奥に小さな灯りがともる。

凪はゆっくり文字を打った。

『おやすみ。明日ね』
送信。

スマホを置く。
部屋の明かりを消す。

暗闇の中で、凪は目を閉じた。

答えは、まだ分からない。

でも、「私は誰が好きなの?」
その問いから、今夜の凪は、もう目をそらさなかった。

恋は、答えを見つけた瞬間に始まるのではなく、

もしかしたら、
自分の心に、本当のことを聞いてみようと思った瞬間から、
始まっているのかもしれない・・・。

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