たった二文字なのに。 今日が終わっても、続きがあるような気がした。

たった二文字なのに。 今日が終わっても、続きがあるような気がした。

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コラム
「じゃあ、これ持っていきなさい。」
玄関で、おばあちゃんが小さな紙袋を差し出した。

「え?」

凪が受け取ると、ずしりと重い。

中をのぞく。

「枝豆……。」

「今日採ったやつ。」

おばあちゃんは笑った。

「おうちの人と食べて。」

「でも、こんなに……。」

「いいの、いいの。」

そう言いながら、おばあちゃんは陽菜にも別の袋を渡した。

「陽菜はこっち。」

「私も?」

「当たり前でしょ。」

陽菜が袋をのぞき込む。

「あ、トマト入ってる。」

「好きでしょう。」

「うん。」

そのやり取りを見ながら、凪は思った。

いいな。
何が、とはうまく言えない。

おばあちゃんと陽菜の間に流れている空気。
言葉にしなくても分かっているような距離。

それが、とても温かく見えた。

「今日はありがとうございました。」
凪は玄関で深く頭を下げた。

すると、おばあちゃんが笑った。

「またおいで。」

凪は顔を上げる。

「……いいんですか?」

「もちろん。」

「今度来る頃には、今日まだ小さかった枝豆も大きくなってるよ。」

まだ小さかった枝豆。

凪は畑で聞いた言葉を思い出した。

――まだ早いよ。

ちゃんと待ったら、一番いいときが来る。

「はい。」

今度は、少しだけ大きな声で答えた。

「また来たいです。」

隣で陽菜が笑った。

「じゃあ、また来よう。」

その言葉に、凪の胸が小さく跳ねた。

“また”。

たった二文字なのに。
今日が終わっても、続きがあるような気がした。

二人はおばあちゃんに手を振り、駅へ向かって歩き始めた。

午後の陽射しは少しだけ傾いていた。

田んぼの上を渡ってきた風が、昼間より涼しい。

二人の手には、それぞれ野菜の入った袋。

「重くない?」

陽菜が聞く。

「大丈夫。」

「持とうか?」

「本当に大丈夫。」

凪は笑う。

以前なら、反射的に「全然平気」と答えていたかもしれない。

でも今の「大丈夫」は、少し違った。

無理をしているわけではない。
本当に、自分で持ちたかった。

今日、自分で採った枝豆だから。

二人は並んで歩く。
さっき丘を下りたときと同じように、自然と歩幅がそろっていた。

しばらくして。

凪は、ふと気づいた。

駅が近づいている。
電車に乗れば、今日が終わる。

さっきまであんなに楽しかったのに。

また胸の奥に、少しだけ寂しさが戻ってくる。

でも、今度は、その気持ちから目をそらさなかった。

寂しい。
もう少し一緒にいたい。

「ねえ、陽菜。」

「ん?」

凪は前を向いたまま尋ねた。

「……また来る?おばあちゃんち?」

「うん。」

「来ようよ。」

陽菜は何でもないことのように答えた。

「秋になったら、景色も変わるし。」

「秋……。」

凪は頭の中に、その景色を思い浮かべる。
夏の緑が、少しずつ色を変えていく。

今日歩いたあぜ道。

あの丘。

その景色の中には、当たり前のように陽菜がいた。

凪は自分でも気づかないうちに笑っていた。

「楽しみ。」

陽菜がこちらを見る。

「凪。」

「なに?」

「今日、来てくれてありがとう。」

突然だった。
凪は少し戸惑う。

「私のほうこそ……。」

陽菜は首を横に振った。

「そうじゃなくて。」

少しだけ考えてから、続ける。

「私が好きな場所を、凪にも見てもらえて嬉しかった。」

胸の奥が、また熱くなる。

陽菜の好きな場所。
陽菜の好きな景色。

陽菜の大切なおばあちゃん。

そこへ、自分を連れてきてくれた。
その意味を考えた瞬間。

凪は、聞きたくなった。

「どうして私だったの?」

でも、その質問は、喉のところで止まった。

怖かったわけではない。

ただ、まだ、聞かなくてもいいような気がした。

今日、おばあちゃんから教わったばかりだから。
答えは、急がなくてもいい。

二人はまた歩き始める。

やがて、駅の屋根が見えてきた。

凪はそれを見つめながら思う。
今日が終わるのは寂しい。

でも、前とは少し違う。

今は、次がある。

また会える。
また一緒に歩ける。

そう思えるだけで、別れは少しだけ怖くなくなる。

駅の入り口が近づいた、そのとき。
凪は何気ないふりをして聞いた。

「陽菜。」

「うん?」

「……次は、いつ会える?」

言ってから、凪は、自分で驚いた。

学校に行けば会えるのに。
そんなことは分かっている。

それなのに、聞きたかった。

陽菜は一瞬きょとんとして――

それから、とてもやさしく笑った。

「明日。」

「学校で。」

「……そっか。」

凪も笑う。

当たり前の答えだった。

なのに、その「明日」が、
今までより少しだけ待ち遠しくなっていた。

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