迷惑なんじゃなくて……悔しい

迷惑なんじゃなくて……悔しい

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コラム
凪は、昇降口の陰に身を潜めるように座り込んでいた。

校舎を満たす放課後のざわめきが、今日はやけに遠い。

(なんで……私なんかに……)

三条の告白。
――「俺は凪を泣かせたりしない。守りたいと思ってる」

クラスがどよめき、スマホを構える子すらいた。

その数秒後から噂は一気に燃え上がり、
三条のファンの女子たちは一斉に凪を睨みつけた。

「なんでよりによって“あの子”なの?」
「地味な癖に調子乗ってない?」
「三条くんの好感度下げないでくれる?」

全部、聞こえていた。

笑い声も、ため息も、嫉妬の視線も――
ぜんぶ、凪の胸に突き刺さる。

(もう……どこにいたらいいのかわからない)

俯いた視界に、涙が一滴落ちた。

その瞬間、影が差し込んだ。

「……凪」

凪は、びくっと肩を震わせる。

聞き慣れた声。
だけど、いつもよりずっと深くて、揺らいでいた。

悠真が立っていた。

「探した。どこにもいなくて……」

凪は慌てて涙を拭った。

「……ごめん……なんか、いろいろ迷惑かけて……」

「迷惑なんて思ったこと、一度もない」

悠真は凪の前にしゃがみ込み、目線を合わせた。
その瞳は、まっすぐで、苦しそうで、でも優しい。

「俺が……守れなかったから、泣かせた。
 だから、迷惑なんじゃなくて……悔しい」

凪の胸が痛む。
でも、同時に少しだけほどけていく。

「……悠真のせいじゃ……」

「俺は嫌だ」

凪の言葉を遮るように、悠真は言った。

「凪がひとりで抱えて泣くの、もう見たくない。
 噂にも、女子の嫌味にも、三条にも……
 全部に怯えてる凪を見るのが……俺は、いちばん嫌なんだ」

声が震えている。

「俺が言わなきゃいけなかったんだ。
 “凪は俺にとって大事な人だから、勝手に傷つけるな”って」

凪は目を丸くした。
悠真の言葉は、怒りでも焦りでもなく――
ただひたすらに「想い」だった。

「……どうして……そこまで……?」

悠真は一瞬迷って、でも逃げずに言った。

「凪だからだよ」

凪の心臓が跳ねた。

「泣くのも、笑うのも、不器用なのも……
 俺は全部、ちゃんと見てきた。
 だから……誰にも渡したくない。
 凪のこと、守りたいって思ってる」

涙がまたこぼれた。

でも今度は、さっきの痛い涙とは違う。
胸の奥に、あたたかい風が吹き込んでくるような――
そんな涙だった。

悠真はそっと凪の手に触れた。

「……帰ろう。
 凪が行きづらいなら……俺も一緒にいる。
 逃げ場所なら、いくらでも作る」

凪は小さく首を振った。

「逃げばなんて……いらない。
 悠真が……いれば、それで……」

声は震えていたけれど、
気持ちだけはまっすぐだった。

悠真は目を見開き、それからそっと凪の手を握り返した。

「……じゃあ、全部乗り越えよう。
 二人で」

夕焼け色の昇降口で、
凪は初めて、繋いだ手を「心の支え」だと思えた。
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