喫茶☆失恋~れ:

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 誰かが何かを言っている。
 大きな声で何かを叫んでいる。
 でも、わかるのは誰かが何かを言っているということだけ。
 私には聞こえない。
 私には音がわからない。
 なにもわからない。
 ねぇ、貴方はなにを言っているの?
 ねぇ、貴方の声を教えて。
 ねぇ、貴方はどうして泣いているの?
 聞きたいけれど聞けない。
 だから泣くね。
 私も泣くね。
 大好きなあなたが、寂しくないように……
 大好きなあなたと、少しでも同じ時間を共有できるように……
 私も泣いた。
 いっぱい泣いた。
 そして……
 私は、あなたの笑顔を見たい。
  それは、私とあなたの最初の物語。
 出逢ったのは4歳。
 音が聞こえない私に何かを言っている男子。
 でも、なにを言っているのかわからない。
 だけど、わかることがある。
 いいことは言っていない。
 だから、私は無視をした。
 聞こえない振りじゃない。
 聞こえないのだ。
 だからごめんね、知らないふりをした。
 そしたら、その男子は私の頭をぱちんと叩いた。
 痛くはない。
 でも、びっくりした。
 だから泣こうとしたとき……
 あなたが現れたの。
 あなたがその男の子に体当たり。
 そして、私が叩かれた倍の数をその男の子を叩いたね。
 そしたら、あなたが叩いた倍の数……
 その男の子に叩かれてあなたは泣いたね。
 だから、私も泣いたよ。
 それから、12年過ぎたね。
 あっという間だった。
 あなたが私と関わるようになってから……
 私の世界は明るくなった。
 闇に包まれた世界。
 なにも聞こえない世界。
 だからかな?
 私は思う。
 私は、今。
 あなたの声が聞きたい。
 私とあなたの会話はメール。
 出逢ったときは筆談だったね。
 私はあなたと話がしたいから字の練習をいっぱいしたんだよ。
 あなたに見てもらいたいから勉強もした。
 私と最初に会話したことを覚えていますか?
 私が、地面に[友だちになってください]って書いたらあなたはこう返してくれたんだよ。
[れ:いいよ]
 私には、[れ:]の意味はわからなかったけど。
 今ならわかるよ。
 [れ:]の意味が……
 気づけばもう高校生だね。
 同じ高校に受験して合格したとき……
 とっても嬉しかったんだよ。
 はぁ。
 もうね、大好き!
 って言っても声が出せない私には告げれない。
 切ないな。
 私が、そんなことを考えるとあなたは私の方を見た。
 そして、すぐにスマホにメールを送ってくれた。
[どうかした?]
 私は、首を横に振った。
[そっか、ならよかった]
 なにがいいのかわからないけど。
 あなたのその文字にはぬくもりがある。
 それがとてもとても嬉しかった。
[風邪引くよ]
 あなたは、そう言ってメールを送ってくれた。
 そして、マフラーを首に巻いてくれた。
 ありがとう。
 でもね、私。
 今まで黙っていたけど毛玉アレルギーなんだ。
 鼻がムズムズする。
 私は、くしゃみをした。
 するとあなたは、コートを脱いで私の肩に被せてくれた。
 優しいね、暖かいね。
 嬉しくて泣いちゃいそうだよ。
 そんなことを思っていると今度はあなたがくしゃみをした。
 私は、スマホにすぐ文字を入力した。
[コート嬉しいけど、あなたが風邪を引いちゃうよ?]
 その文字を見た貴方は顔を赤くさせた。
 そして、私のスマホにそっと手を触れて文字を入力した。
 スマホを見るとこう書いてあった。
[いいよ]
 短い文章。
 短いしあわせ。
 ああ、なんで私、あなたのことを好きになってしまったんだろう。
 こんなに人を好きになったのは初めてだよ。
 私がそう思ってスマホの画面を自分に向けたとき。
 背中に強い衝撃がぶつかる。
 いい匂いがする。
 この匂いは……
 愛だ……
 愛って書いて[マナ]って読む。
 愛は誰にも優しくて暖かい。
 それでいてとっても綺麗。
 私は、そんな愛のことも大好きだった。
 多分、あなたも愛のことが好き……なんだよね。
 悲しいけど知っているんだ。
 愛は、私の背中をぎゅっと抱きしめたあと後ろから私のスマートフォンに触れる。
 そして、ゆっくりと文字を入力する。
[朝からラブラブ~
 いいなぁー]
 私の顔が赤くなる。
 ラブラブ。
 他の人から見るとそう見えるのかな?
 そうだったら嬉しいな。
 あなたは、愛の方を見る。
 愛もあなたの方を見る。
 すると小さく笑うとほぼ同時に右手を上げた。
 愛とは、入学式のときに知り合った。
 愛は、可愛くて綺麗だから入学式美少女コンテストで一位になっていた。
 私は、エントリー外。
 対象外。悲しい、寂しい。
 でも、いいんだ。
 私は私だから。
 それに愛は友だちだ。
 愛が私のこと友だちと思ってくれているかはわからない。
 でも、私は愛のことを友だちと思っている。
 愛は、続いて文字を続けた。
[耳、真っ赤だよ]
 愛の体が小さく揺れる。
 きっっと笑っているのだろう。
 私と愛の席は隣だった。
 話しかけてくれたけど返事ができなかった。
 普通は、無視されていると思って怒るんだけど愛は怒らなかった。
 私の前に来て、口をゆっくり話しかけてきた。
 絡まれていると思ったあなたは、愛に話しかけた。
 愛は、驚いた顔をしたあとスマホに文字を入力してそれを見せてくれた。
[私の名前は、高橋 愛だよ]
 私も緊張したけれど自分のスマホに文字を入れた。
 私の名前を見せると[よろしくね]と文字を入れてくれた。
 はじめての同性の友だちだった。
 それから、文通をするようになった。
 愛はクラスの人気者。
 私は日陰者。
 でも、私は嬉しかった。
 友だちがいるってのは嬉しい。
 それだけでしあわせなんだ。
 愛は、ゆっくりと私の手を握りしめる。
 そして、私を引っ張って走って教室に向かった。
 あなたを置いて教室に向かった。
 クラスメイトはまだ少ない。
 愛は、真剣な顔で私にスマホの画面を見せた。
[私、あいつに告白しようと思うんだ]
 あいつとはあなたのこと。
 それはすぐにわかった。
 私は、あなたのことが好き。
 告白したい。
 だけど、私にはそれを伝える術がない。
 文字で伝えたい。
 だけど、私には勇気がない。
 今のままがしあわせ。
 今のままで十分しあわせなんだ。
 私は、下唇をぎゅっと噛んで我慢。
[そっか。
 応援しているね]
 愛ちゃんは、小さく笑う。
 愛ちゃんは、優しい。
[だから、一緒にバレンタインにチョコを渡さない?]
 私には愛ちゃんの気持ちがわからない。
 怖くはない。
 愛ちゃんはいい人だから……
 でも、たまに何考えているかわかんないんだ。
 何もしなくても時間だけが無情に過ぎていく。
 2月14日なんてあっというまだ。
 私は、彼に手紙を書くことにした。
 怖がられるかもしれない。
 嫌われるかもしれない。
 でも、いいんだ……
 だって私だもん。
 好かれるわけないよ。
 その思いを願いを希望を載せて手紙を書いた。
 ゆっくり丁寧に書いた。
[好きです]
 たったそれだけの言葉を書くだけで何時間も掛かった。
 学校の教室。
 私と愛は、あなたよりひと足早く着いた。
[せーので、渡そうね]
 愛がスマホにそう打った。
 その手は震えていた。
 愛も緊張しているんだ。
 私にはすぐにわかった。
 ああ、愛もあなたのことが好きだったんだなって……
 そして、あなたが来た。
 教室に入ってきた。
 愛が少し早いタイミングであなたにチョコレートを渡した。
 あなたは受け取った。
 なぜだろう。
 わかっていたのに。
 わかっていたのに。
 涙が溢れる。
 悔しくて悲しくて涙が溢れる。
 私は、チョコレートを下に落とすとその場から走って逃げた。
 私は、この日。
 はじめて学校をズル休みした。
 学校には来ている。
 ずっと寒い屋上でうずくまっていた。
 放課後がくる。
 長い時間だった。
 いつもならあっというまなのに。
 私にスマホがバイブする。
 愛ちゃんからだった。
 メールだった。
[手紙は預かった返してほしければ、体育館裏に来なさい]
 愛ちゃんが意地悪に見えた。
 でも、手紙が返してもらおう。
 あなたに見られたらもう私にはなにも残らない。
 悲しいけどつらいけど。
 これが現実なんだ。
 私はボロボロと涙をこぼした。
 私は、走って体育館裏に向かった。
 愛がいた。
 愛がひとり立っていた。
 愛が怖い。
 はじめて愛が怖く見えた。
 愛は、ゆっくりと私に近づいてスマホを見せた。
[手紙、自分であいつに渡しな!]
 びっくりした。
 この人はなにを言っているんだろう。
 自分は告白を受け入れてもらって私に振られるとわかっている告白をしろっていうの?
 私は、悔しくてまた涙を流した。
 すると愛は、私を優しく抱きしめた。
 心臓がドッキン、ドッキンと早く動いている。
 愛も緊張している?
 この鼓動を感じたとき。
 愛に悪意がないことがわかった。
 愛、一瞬でも疑ってごめんね。
 そう思うとまた涙が溢れた。
 するとあなたがゆっくりと現れた。
 愛が、ポンポンと優しく私の肩を叩いた。
 勇気をもらった気がした。
 私は、綺麗なクリアファイルに入った手紙をあなたに渡した。
 クリアファイルは愛が自分で用意してくれたもの。
 手紙にシワがいかないようにクリアファイルに入れてくれたんだね。
 愛の優しさが伝わってきたよ。
 あなたは、震える手で手紙を読んだ。
 そして、震えながら私のスマホにメールを送ってくれた。
[ごめん]
 そう書かれていた。
 私の頭の中が真っ白になった。
 するとすぐにメールが来た。
[ごめん。
 俺のほうが君のこともっと好きだから]
 それはそれで頭の中が真っ白になった。
 そして、嬉しくて嬉しくて頭の中が真っ白になった。
 涙が溢れる。
 ああ、嬉しくても涙がでるんだ。
 そう思っても涙が止まらなかった。
 愛が、ゆっくりと私のスマホを覗き込んだ。
 愛が私の手を握りしめる。
 そして、スマホに手を触れた。
[やったね]
 愛がニッコリと笑っている。
 でも、涙が溢れている。
 ごめんね。
 愛もあなたのこと好きだったんだよね。
 私は愛に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 そして、私とあなたはお付き合いすることになった。
 懐かしいな。
 愛のおかげで私はしあわせになれた。
 だから、今度愛が誰か他に好きになった人が出来たとき……
 私が応援するんだ。
 愛が、私の前で泣いたのはその日だけ。
 それからは、いつも私の側で応援してくれた。
 愛はきっと私の中で親友なんだ。
 私の中でのいちばんの友だち。



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 ……はい。
 これで彼女の物語は終わりです。
 え?失恋していないじゃないかって?
 本当にそう思いますか?
 愛さんが、失恋していますよ。
 好きになる人はひとりだけとは限りません。
 誰かを好きになり結ばれると言うことは……
 誰かの失恋に繋がることもあるのです。
 彼女と彼は、結ばれました。
 ですが、愛さんは失恋しました。
 これも立派な失恋です。
 たまにはこういう話もいいでしょう?
 なにせ失恋も立派な恋なのですから……
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