■ 4月11日、世界が微笑んだ日。歯を剥き出しにして。
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コラム
午前4時11分。
目覚ましは鳴らなかった。代わりに、壁が微かに呻き声を上げた。
この街では4月11日は祝日だ。誰もそれが何の祝日なのかを知らない。ただ、全員がそれを祝わねばならないという共通認識だけがある。
コンビニは焼け落ちていた。だが、いつも通り弁当は温かく、棚には「おめでとうございます」のタグがぶら下がっていた。レジには誰もいないが、支払いをしないと自分の指が減っていく仕組みらしい。倫理も法律も、今日は休みをとっている。
カラスが逆さまに空を飛び、通りではサラリーマンたちが一斉に笑っていた。
その笑顔の下から、もう一つの顔が覗いていた。
たぶん本当の顔。いや、もっと正確に言えば、4月11日用の顔。
「ねえ、覚えてる?去年の4月11日、君は心をどこかに落としたでしょう?」
彼女はそう言って、バスタブに浮かぶ赤黒い液体の中から現れた。泡立ちの代わりに、小さな手がぷかぷか浮いていた。彼女は美しかった。だが、目がなかった。目があると見えてしまうから、という理由らしい。
この日だけは、時計が前にも後ろにも進む。
この日だけは、死者が選挙に参加し、生者が投票される。
この日だけは、鏡が本当のことを言う。黙っていても、音を立てて真実を漏らす。
そして、夜。
4月11日の夜。
誰もが部屋のドアを内側から釘で打ちつける。
なぜなら、正確に23時11分に、ノックがあるからだ。
一回、二回、三回。
それは貴方の名前を呼ぶノック。
でも、どうか開けないでほしい。
去年、開けた人の顔は、今も壁に染みついたままだ。
おめでとう、4月11日。今日もまた、狂気がきらめく季節がやってきた。