業務委託契約を締結する際、「契約書は発注者と受注者のどちらが作成するものなのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?
例えば、企業がフリーランスに業務を委託する場合や、事業者同士で業務委託契約を締結する場合です。
「仕事を依頼する側が契約書を用意するものでは?」
「受注者が契約書を作成しても問題ない?」
「相手方から契約書を提示されない場合はどうすればいい?」
このような疑問を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
実際の取引では、発注者が契約書を用意する場合もあれば、受注者が契約書を用意する場合もあります。
結論からいえば、一般的な業務委託契約について、契約書を必ず発注者が作成しなければならない、あるいは受注者が作成しなければならないという一律の法律上のルールはありません。
ただし、取引内容や当事者の関係によっては、法律上、取引条件を書面や電磁的方法で明示する義務などが生じる場合があります。
今回は、契約書作成を取り扱う行政書士の立場から、業務委託契約書を誰が作成するのか、発注者・受注者それぞれの注意点について、前編・後編に分けて解説します。
前編では、契約書の作成者に関する基本的な考え方を取り上げます。
1.業務委託契約書は誰が作るもの?
業務委託契約書は、発注者・受注者のどちらが作成しても構いません。
一般的な業務委託契約では、契約書の作成者について、民法上の一律の指定はありません。
そのため、次のような方法が考えられます。
発注者が契約書を作成し、受注者に提示する
受注者が契約書を作成し、発注者に提示する
当事者双方で契約条件を整理し、契約書を作成する
行政書士などの専門家に契約書の作成を依頼する
いずれの方法であっても、重要なのは、最終的な契約内容について当事者双方が合意することです。
例えば、発注者が契約書を作成した場合でも、受注者が内容を確認し、必要に応じて修正を求めることができます。
反対に、受注者が作成した契約書についても、発注者が修正を求めることは可能です。
契約書を誰が作成したかよりも、双方が契約内容を理解し、合意しているかが重要です。
2.法律上、契約書の作成義務はある?
一般的な業務委託契約は、必ずしも契約書を作成しなければ成立しないわけではありません。
民法第522条では、法令に特別の定めがある場合を除き、契約の成立には書面の作成その他の方式を必要としないことが定められています。
そのため、一般的な請負契約や準委任契約は、口頭やメールなどによる合意でも成立する場合があります。
ただし、ここで注意したいのが、「契約書がなくても契約が成立すること」と「法律上、取引条件を明示する義務がないこと」は別の問題だという点です。
フリーランス法が適用される場合
フリーランス・事業者間取引適正化等法が適用される取引では、業務委託事業者は、特定受託事業者に対して業務委託をした場合、原則として直ちに取引条件を明示する義務があります。
明示方法は、書面の交付又は電磁的方法です。
この義務は、発注者側に課されます。
ただし、必ずしも「業務委託契約書」という名称の書類を作成する必要があるわけではありません。
法令上必要な事項を、適切な方法で明示することが重要です。
取適法が適用される場合
2026年1月1日から施行された中小受託取引適正化法(取適法)が適用される取引では、委託事業者に発注内容等の明示義務が課されます。
この場合も、法令上の要件を満たす方法で必要事項を明示する必要があります。
なお、フリーランス法や取適法の適用は、取引内容、当事者の事業規模、従業員の使用状況など、法律ごとに定められた要件によって判断されます。
したがって、すべての業務委託契約に同じ義務が生じるわけではありません。
3.発注者が契約書を作成するメリット・注意点
実際の取引では、発注者が契約書を作成するケースがあります。
発注者が契約書を用意することには、一定のメリットがあります。
メリット① 委託する業務内容を明確にできる
発注者は、受注者に依頼したい業務内容や成果物について、契約書に反映させることができます。
例えば、Webサイト制作を委託する場合であれば、次のような事項です。
制作するWebサイトの内容
ページ数や機能
納期
検収方法
修正対応の範囲
これらを明確にすることで、発注者と受注者の認識の違いを減らすことができます。
メリット② 成果物の利用条件を整理できる
システム開発やデザイン制作などでは、成果物の著作権や利用範囲が問題になることがあります。
発注者が契約書を作成する場合、成果物をどのように利用したいのかを踏まえて、必要な権利を確保するための条件を検討できます。
ただし、著作権の譲渡や利用許諾については、受注者が保有する既存の著作物や第三者の権利などにも注意が必要です。
メリット③ 自社の取引条件を統一しやすい
継続的に外注を行う企業では、共通の業務委託契約書を用意することで、契約条件を管理しやすくなります。
例えば、秘密保持、再委託、損害賠償、契約終了などの基本条件を共通化し、個別の業務内容や報酬を発注書などで定める方法があります。
発注者が注意したいこと
発注者が契約書を作成する場合、自社に有利な条件を盛り込みすぎないことも重要です。
例えば、次のような条項です。
「受注者は、発注者が求める一切の業務を追加報酬なしで実施する。」
このような条項は、業務範囲や報酬について争いが生じる原因になる可能性があります。
また、取引条件によっては、フリーランス法や取適法などとの関係も問題になります。
発注者にとって重要なのは、単に自社に有利な契約書を作ることではなく、実際の取引で双方が履行できる条件を定めることです。
4.受注者が契約書を作成するメリット・注意点
業務委託契約書は、受注者が作成することも可能です。
特に、フリーランスや個人事業主が、自ら提供するサービスの取引条件を明確にしたい場合には、受注者側で契約書を用意する方法が考えられます。
メリット① 業務範囲を明確にできる
受注者にとって重要なのは、どこまでの業務を行う義務があるのかという点です。
例えば、Webサイト制作であれば、制作業務と公開後の保守・更新業務を区別することが考えられます。
契約書に業務範囲を明確に定めることで、当初予定していなかった作業を求められるリスクを減らせます。
メリット② 報酬や追加費用を明確にできる
受注者が契約書を作成する場合、報酬や支払条件についても、自らの業務内容に合わせて整理できます。
例えば、次のような事項です。
報酬額
支払期限
追加業務の料金
仕様変更時の費用
中途解約時の精算方法
特に、追加業務が発生しやすい取引では、追加報酬について明確に定めておくことが重要です。
メリット③ 損害賠償責任を整理できる
受注者側では、損害賠償責任の範囲についても検討する必要があります。
例えば、報酬額に比べて過大な責任を負う契約になっていないか確認することが重要です。
契約内容に応じて、損害賠償額の上限や対象となる損害の範囲を定める方法があります。
受注者が注意したいこと
受注者が契約書を用意した場合でも、発注者がその内容を必ず受け入れるとは限りません。
また、受注者が契約書を作成したことによって、発注者に課される法令上の取引条件明示義務などが当然に免除されるわけではありません。
契約書の作成者と、法律上の義務を負う者は、必ずしも一致しないことに注意が必要です。
5.発注者と受注者、どちらが作成するのがよい?
ここまでの内容を整理すると、次のようになります。
どちらが作成する場合でも、最終的には当事者双方の合意が必要です。
そのため、契約書を作成する側が必ず有利になるわけではありません。
むしろ、取引条件を十分に整理せずに契約書を作成すると、後から修正が必要になることもあります。
6.契約書の作成費用は誰が負担する?
契約書を作成する場合、行政書士などの専門家に依頼する費用が発生することがあります。
この費用についても、一般的な業務委託契約では、発注者・受注者のどちらが必ず負担しなければならないという一律の法律上のルールはありません。
例えば、次のような方法が考えられます。
発注者が専門家に依頼し、費用を負担する
受注者が専門家に依頼し、費用を負担する
当事者双方が合意して費用を分担する
なお、契約書の作成費用と、印紙税などの法令上の負担は別の問題です。
印紙税が課される文書に該当する場合には、印紙税法に基づく取扱いを確認する必要があります。
7.まとめ|業務委託契約書はどちらが作成してもよい
一般的な業務委託契約では、契約書を発注者・受注者のどちらが作成しても構いません。
重要なのは、誰が作成したかではなく、実際の取引内容に合った条件が定められているかという点です。
また、フリーランス法や取適法などが適用される場合には、発注者側に取引条件の明示義務などが課されることがあります。
そのため、契約書の作成者と法律上の義務を区別して考える必要があります。
業務委託契約書は、発注者と受注者のどちらが作成する場合でも、双方の権利と義務を明確にすることが大切です。
後編では、業務委託契約書を実際に作成する際の手順や、雛形を利用する場合の注意点、行政書士に依頼するメリットについて解説します。
業務委託契約書の作成はファビスト行政書士事務所へ
ファビスト行政書士事務所では、個人事業主・フリーランス・中小企業の皆様を対象に、実際の取引内容に合わせた業務委託契約書の作成・修正を承っています。
発注者・受注者のどちらの立場からでも、契約条件を整理し、取引内容に合わせた契約書を作成いたします。
ファビスト行政書士事務所
※本記事は一般的な法制度・契約実務の解説です。個別の契約内容や適用法令については、具体的な事情によって判断が異なります。