「契約書なら生成AIに作ってもらえばいいのでは?」
最近では、このように考える方も増えているのではないでしょうか。
以前は、契約書を自分で作成しようとすると、インターネットでひな形を探し、それを自社の取引に合わせて修正する方法が一般的でした。
しかし現在では、生成AIに、
「業務委託契約書を作って」
と指示するだけでも、短時間でそれらしい契約書を作成できるようになっています。
さらに、業務内容、報酬、契約期間などを詳しく入力すれば、それらを反映した契約書を作成することもできます。
では、生成AIで契約書を作成できる時代に、わざわざ専門家へ契約書作成を依頼する意味はあるのでしょうか。
結論からいえば、生成AIは契約書作成の非常に便利なツールです。
一方で、「契約書の文章を作ること」と「その取引に適した契約内容を設計すること」は必ずしも同じではありません。
今回は、生成AI時代の契約書作成について、5つのポイントから解説します。
1.生成AIは「契約書を書くこと」は得意になっている
まず前提として、生成AIを契約書作成に利用すること自体を否定する必要はありません。
生成AIを利用すれば、
・一般的な契約書の構成を作る
・必要と思われる条項を列挙する
・条文の表現を整える
・既存の条項を修正する
・契約書のたたき台を作る
といったことが短時間でできます。
以前であれば、ネット上のひな形をいくつも探して比較していた作業を、生成AIとのやり取りによって効率化できるようになりました。
契約書作成においても、生成AIは非常に有用なツールです。
しかし、ここで注意したいのが、
「文章として契約書を作成できること」と「自社の取引に適した契約書になっていること」は別問題
という点です。
2.生成AIに何を指示すればよいのかを判断する必要がある
生成AIから適切な回答を得るためには、前提となる情報を正しく伝える必要があります。
例えば、「業務委託契約書を作って」と指示するだけでは、
・具体的な業務範囲
・請負なのか準委任なのか
・報酬が発生する条件
・成果物の有無
・検収の要否
・中途解約の条件
・再委託の可否
・著作権などの知的財産権
・損害賠償の範囲
・契約終了後の処理
など、その取引固有の事情までは十分に反映されない可能性があります。
もちろん、生成AIから質問してもらいながら条件を整理することもできます。
それでも最終的には、
「この取引では何が法的・実務的なリスクになるのか」
を把握したうえで、何を契約書に盛り込むべきか判断する必要があります。
つまり、生成AIを使いこなす場合でも、契約内容を設計するための知識や判断が重要になります。
3.契約書で難しいのは「文章」より「条件設計」
契約書作成というと、難しい法律用語を使って条文を書く仕事と思われることがあります。
しかし、実務では条文を書く前の条件設計が非常に重要です。
例えば、業務委託契約であれば、
「中途解約を認めるのか」
だけではなく、
「いつまでに通知すれば解約できるのか」
「すでに行った業務の報酬はどうするのか」
「人員や資材を確保していた場合の費用はどうするのか」
といったところまで検討する必要があります。
システム開発契約なら、
「著作権は発注者に帰属する」
と定めるだけではなく、
「いつ権利を移転するのか」
「受託者が従前から保有していたプログラム等はどうするのか」
「第三者のライブラリ等が含まれている場合はどうするのか」
まで検討する必要があります。
契約書作成で重要なのは、きれいな条文を書くことだけではありません。
「どのような条件にすれば、自社の取引に適したリスク配分になるのか」を考えることが重要です。
4.生成された条項が自社に有利とは限らない
生成AIが作成した契約書に法的にもっともらしい条項が入っていたとしても、それが自社にとって適切とは限りません。
契約には当事者双方の利害が存在するからです。
例えば、損害賠償について、
「損害賠償額の上限を直近6か月分の委託料とする」
という条項があったとします。
受託者側から見れば、損害賠償リスクを限定できるため、有利な場合があります。
一方、委託者側からすれば、大きな損害が発生した場合でも十分な賠償を受けられなくなる可能性があります。
同じことは、
・中途解約
・契約不適合責任
・知的財産権
・再委託
・競業避止
・秘密保持
・違約金
・成果保証
などにも当てはまります。
重要なのは、単に「条項が入っているか」ではありません。
その条項によって誰がどのようなリスクを負うことになるのかを理解したうえで、自社の立場に適した内容になっているかを判断することです。
5.生成AIの回答を「正しい」と思い込まないことが重要
生成AIが作成する文章は非常に自然です。
そのため、法律に詳しくない方が読むと、
「これなら問題なさそうだ」
と感じることもあるでしょう。
しかし、生成AIの回答が常に正確であるとは限りません。
法令の適用関係について誤った説明をしたり、取引の実態に適していない条項を提示したりする可能性もあります。
また、契約書は法律だけで作るものではありません。
実際の商流、業界慣行、当事者間の力関係、取引金額、発生し得る損害などを踏まえて内容を検討する必要があります。
そのため、
「生成AIが作ったから大丈夫」ではなく、「なぜこの条項が必要なのか説明できるか」
という視点で確認することが重要です。
では、生成AIは契約書作成に使わない方がいい?
そのようなことはありません。
生成AIは、契約書作成の補助ツールとして非常に便利です。
例えば、
「契約書を作る前に論点を整理する」
「契約書の一般的な構成を確認する」
「取引先から提示された契約書で分からない用語を調べる」
「専門家に相談する前に自社の希望条件を整理する」
といった使い方が考えられます。
重要なのは、生成AIを使うか、専門家に依頼するかという二者択一で考えないことです。
生成AIを使って自社の条件や疑問点を整理し、重要な契約については専門家に相談するという使い方もできます。
生成AI時代に専門家へ契約書作成を依頼する意味
生成AIの普及によって、契約書の「文章を作る」という作業そのもののハードルは大きく下がりました。
だからこそ、専門家に求められる役割も変わってきています。
単に一般的な条項を並べて契約書を作るだけではなく、
「取引内容をヒアリングする」
「リスクを洗い出す」
「必要な契約条件を検討する」
「依頼者の立場を踏まえてリスク配分を設計する」
「それを契約条項として具体化する」
という部分に専門家へ依頼する意味があります。
例えば、同じ業務委託契約書でも、
発注者側なのか受注者側なのか、
単発取引なのか継続取引なのか、
成果物があるのか、
高額な損害が発生する可能性があるのか、
知的財産が重要なのか、
によって適切な契約内容は変わります。
生成AIによって契約書を簡単に作れるようになったからこそ、**「契約書があるか」ではなく「その契約書が自社の取引に合っているか」**が、これまで以上に重要になると考えられます。
まとめ|生成AI時代だからこそ「御社専用」の契約書を
生成AIによって、契約書は以前よりはるかに簡単に作成できるようになりました。
これは、事業者にとって大きなメリットです。
しかし、契約書で本当に重要なのは、難しい法律用語を使って文章を作ることではありません。
自社の取引ではどのようなトラブルが起こり得るのかを考え、そのリスクをどちらがどこまで負担するのかを決め、それを契約条件として明確にすることです。
生成AIで契約書を作成した場合でも、
「この条項で本当に大丈夫だろうか」
「自社に不利な条件になっていないだろうか」
「必要な条項が抜けていないだろうか」
「自社の取引に合わせた契約書を一から作りたい」
と感じることがあるかもしれません。
当事務所では、単に契約書のひな形を作成するのではなく、事業内容や取引条件、ご希望をヒアリングしたうえで、実際の取引に合わせた契約書を作成しています。
業務委託契約、コンサルティング契約、代理店契約、OEM契約、フランチャイズ契約、システム開発契約、広告運用契約など、各種ビジネス契約書の作成に対応しています。
「生成AIで契約書を作れる時代だから、専門家は必要ない」のではなく、「簡単に契約書を作れる時代だからこそ、その内容が本当に適切なのかを考えることが重要になった」といえるでしょう。