優しさのつもりが依存を生む。境界線を引けなかった私の恋愛

優しさのつもりが依存を生む。境界線を引けなかった私の恋愛

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「私、いつも我慢してるんです」


カウンセリングルームのソファに座ったユキは、最初から少し緊張した様子だった。手に持ったティッシュを何度も握りしめては広げている。

ダイキ「今日は、どんなことでお話ししたいですか?」

ユキ「あの...恋人のことで悩んでて。もう2年くらい付き合ってるんですけど、最近すごくしんどくて」

ダイキ「しんどい、ですか」

ユキ「はい。なんか...私ばっかり我慢してる気がして。でも、それって私の考えすぎなのかなとも思うんです」

言葉 に「私の考えすぎ」という表現が出てくる。ユキは自分の感情よりも、相手の立場を優先する癖があるのかもしれない。

ダイキ「我慢している、と感じるのは、どんなときですか?」

ユキ「たとえば...週末の予定とか。彼が『今週末、友達と飲みに行くから』って言うと、本当は一緒にいたくても『いいよ、行ってきて』って答えちゃうんです。で、一人で家にいて、なんか寂しくて」

ユキは視線を落とし、ティッシュをさらに強く握りしめた。

ダイキ「『いいよ』と答えてしまう。本当は、違う気持ちがあるのに」

ユキ「......はい」

期待される「いい彼女」の役割


ダイキ「ユキさんは、彼に対して『いいよ』と言うとき、どんな気持ちなんでしょう?」

ユキ「どんな気持ち...?」

少し考え込むような間があった。

ユキ「......嫌われたくない、のかな。文句ばっかり言う彼女って思われたくないというか」

ダイキ「嫌われたくない」

ユキ「はい。だって、『一緒にいたい』とか言ったら、重いって思われそうじゃないですか。束縛してるみたいで」

ダイキ「束縛...ユキさんにとって、『一緒にいたい』という気持ちを伝えることは、束縛になるんですね」

ユキ「......そう...なのかな。わからないです。でも、そう思われるのが怖くて」

ユキの声が少し震えた。彼女の中には、「いい彼女でいなければ見捨てられる」という恐れがあるように見えた。

「いい子」の起源


ダイキ「ユキさんは、いつ頃から『嫌われたくない』と思うようになったんでしょう?」

ユキ「いつから...?昔からかもしれないです。小さい頃から、親に『いい子ね』って言われるのが嬉しくて」

ダイキ「『いい子ね』と言われると嬉しかった」

ユキ「はい。母親が...ちょっと厳しい人で。わがまま言うと、すごく怒られて。だから、なるべく手のかからない子でいようって思ってました」

ユキはそう言って、少し苦笑いを浮かべた。

ユキ「友達が『あれ買って』『これ欲しい』って親にねだってるのを見て、すごいなって思ってました。私はそんなこと言えなくて」

ダイキ「言えなかった」

ユキ「......怒られるのが怖かったんです。母に嫌われたくなかった」

そこまで言って、ユキは何かに気づいたように目を見開いた。

ユキ「あ...これって、今の彼との関係と同じ...?」

ダイキ「どう思いますか?」

ユキ「......同じ、かもしれない。嫌われるのが怖くて、いい子でいようとして、自分の気持ちを我慢する。ずっと、そうやって生きてきたのかも」

「いい子」の代償


ダイキ「『いい子』でいることで、ユキさんは何を得てきたんでしょう?」

ユキ「得たもの...?」

ダイキ「はい。たとえば、お母さんに怒られなかったとか」

ユキ「ああ、そうですね。怒られることは減りました。母も『あなたは手がかからなくていい子ね』って言ってくれてたし」

ダイキ「それは、ユキさんにとって安心だった」

ユキ「はい。でも...」

ユキは言葉を詰まらせた。

ユキ「でも、本当の私を見てもらえてない気もして。『いい子』の私しか、愛されてないんじゃないかって」

その言葉が出た瞬間、ユキの目に涙が浮かんだ。

ダイキ「『いい子』じゃない自分は、愛されない...」

ユキ「......はい。だから、本音を言えないんです。本音を言ったら、嫌われちゃう」

自己犠牲と関係性のバランス


ダイキ「ユキさん、今の彼との関係で、『本音を言えない』ことで何が起きていますか?」

ユキ「何が...?」

ダイキ「たとえば、関係がどう変わってきたとか」

ユキ「......最近、彼が私のこと、どうでもいいって思ってる気がするんです」

ダイキ「どうでもいい?」

ユキ「はい。私が何言っても『うん、いいよ』しか言わないから、彼も私の気持ちを聞かなくなったというか。勝手に決めて、勝手に予定入れて」

ダイキ「ユキさんが『いいよ』と答え続けた結果、彼はユキさんの気持ちを聞かなくなった」

ユキ「......そう、かもしれないです」

ユキは深くため息をついた。

ユキ「でも、それって私が悪いんですよね。ちゃんと言わなかった私が」

ダイキ「『私が悪い』...ユキさんは、いつもそう思うんですか?」

ユキ「......はい。全部、私の責任だって」

境界線を引くということ


ダイキ「ユキさん、少し違う視点で考えてみませんか?」

ユキ「違う視点...?」

ダイキ「はい。ユキさんは、相手を大切にしようとして、自分の気持ちを我慢してきた。それは、優しさだと思います」

ユキ「......」

ダイキ「でも、もしユキさんが本音を言わなかったことで、彼がユキさんの本当の気持ちを知らないまま関係を続けているとしたら?」

ユキ「......あ」

ユキは少し顔を上げた。

ダイキ「それは、彼にとっても、本当の関係を築くチャンスを奪っているかもしれません」

ユキ「......私、彼のためって思ってたけど、逆だったのかな」

ダイキ「どう思いますか?」

ユキ「彼は...多分、私が本当はどう思ってるか、知りたかったのかもしれない。でも、私が言わないから、わからなくて。で、だんだん聞かなくなって...」

ユキの声が少し震えた。

ユキ「私、自分を守るために『いい子』でいたのかもしれない。でも、それって結局、二人の関係を壊してたんですね」

本音を伝える恐怖


ダイキ「ユキさん、もし彼に本音を伝えるとしたら、どんなことが怖いですか?」

ユキ「怖いこと...?」

ユキは少し考えてから、小さな声で答えた。

ユキ「......嫌われること。『めんどくさい女だな』って思われて、別れようって言われること」

ダイキ「それが一番怖い」

ユキ「はい。だって、今まで『いい彼女』でいたのに、急に文句言い出したら、『何、急に変わったの?』って思われそうで」

ダイキ「急に変わる、ですか」

ユキ「はい...今まで『いいよ』って言ってたのに、急に『嫌だ』とか言い出したら、おかしいですよね」

ダイキ「ユキさんは、『今まで我慢してきたこと』を伝えることが、『急に変わる』ことだと思うんですね」

ユキ「......そうじゃないんですか?」

ダイキ「もう一つ、考えられることがあるかもしれません」

ユキ「?」

ダイキ「それは、『本当の自分を見せる』ということです」

ユキは黙って、ダイキの言葉を待った。

ダイキ「今まで、『いい子』の仮面をつけていた。でも、その下には、本当のユキさんがいる。その本当のユキさんを、彼に見せるということ」

ユキ「......本当の私」

愛されるために必要なこと


ダイキ「ユキさん、質問してもいいですか?」

ユキ「はい」

ダイキ「ユキさんは、『いい子』の自分を愛してもらいたいですか? それとも、本当の自分を愛してもらいたいですか?」

その質問に、ユキは言葉を失った。長い沈黙の後、小さくつぶやいた。

ユキ「......本当の自分を、愛してもらいたい」

ダイキ「では、本当の自分を見せなければ、それは叶わないかもしれませんね」

ユキ「......」

ユキの目から、涙がこぼれた。

ユキ「怖いです。本当の私を見せて、嫌われたら...それが一番怖い」

ダイキ「それは、とても怖いことですね」

ダイキはユキの言葉を、ただ受け止めた。

ダイキ「でも、ユキさん。もし彼が、『いい子』のユキさんしか愛せないのなら、それは本当にユキさんを愛しているということになるでしょうか?」

ユキ「......」

ユキはティッシュで涙を拭いながら、小さく首を振った。

ユキ「......ならない、ですよね」

小さな一歩


ダイキ「ユキさん、いきなり全部を変える必要はありません。まずは、小さなことから始めてみませんか?」

ユキ「小さなこと...?」

ダイキ「はい。たとえば、彼に『今週末、一緒にいたい』と伝えてみる。それだけでもいいんです」

ユキ「それだけ...?」

ダイキ「はい。いきなり『いつも我慢してる』と全部ぶつけるのは、ユキさんにとっても彼にとっても大変です。でも、『今週末は一緒にいたい』なら、伝えられそうですか?」

ユキは少し考えてから、小さくうなずいた。

ユキ「......できるかもしれない」

ダイキ「それを伝えたとき、彼が『いいよ』と言ってくれたら?」

ユキ「......嬉しい、です」

ダイキ「では、もし彼が『ごめん、今週は友達との約束があるんだ』と言ったら?」

ユキ「......それはそれで、しょうがないのかな。でも、私の気持ちは伝えられた」

ダイキ「そうですね。大事なのは、結果よりも、『自分の気持ちを伝える』という行動です」

ユキ「......やってみます」

自分を大切にするということ


ダイキ「ユキさん、最後に一つだけ」

ユキ「はい」

ダイキ「『自分を大切にする』ということは、わがままとは違います」

ユキ「......」

ダイキ「自分の気持ちを大切にして、相手にも伝える。それは、健全な関係を築くために必要なことです」

ユキ「健全な関係...」

ダイキ「はい。お互いが本音を言い合える関係。それが、本当の意味での愛し合う関係だと思いませんか?」

ユキは、深く息を吸って、ゆっくりと吐き出した。

ユキ「......はい。そういう関係を、作りたいです」

ダイキ「では、まずは小さな一歩から。応援しています」

ユキ「ありがとうございます」

ユキは初めて、少し明るい表情を見せた。

その後


数週間後、ユキから連絡があった。

「彼に、『今週末一緒にいたい』って伝えました。最初は、すごく緊張したけど。彼、『そっか、ごめんね。最近ちゃんと時間作れてなかったね』って言ってくれて。びっくりしました。彼、私の気持ちを知らなかっただけだったんですね」

その後も、ユキは少しずつ自分の気持ちを伝える練習を続けた。時には衝突することもあったが、それでも二人の関係は以前より深まっていった。

「『いい子』でいるのをやめたら、かえって彼との関係が良くなりました。本当の私を見せることが、こんなに大切だったなんて」

ユキは今、自分の人生を自分の手で選び取ることを学んでいる。




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