「未来が見えない」が消えた日

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この記事はフィクションですが、カウンセラーは実在し個人カウンセリングを提供しています

クライエント設定:
28歳女性、教育系の仕事を適応障害で退職後3ヶ月。将来が見えず、漠然とした不安と絶望感に襲われている。転職活動をしようと思うが体が動かない。
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真っ暗な未来

カウンセリングルームに入ってきた彼女は、疲れた表情で椅子に腰を下ろした。
クライエント「......何から話せばいいのか」
少し沈黙があった後、彼女は小さな声で続けた。
クライエント「毎日、不安で仕方ないんです。将来のことを考えると......真っ暗で。何も見えなくて」
ダイキ「真っ暗、ですか」
クライエント「はい。退職して3ヶ月経つんですけど、次に何をすればいいのか全然分からなくて。転職サイトは毎日開くんですけど、どの求人を見ても『これじゃない』って思っちゃうんです」
彼女は手元のハンカチを握りしめた。
クライエント「友達はみんな働いてるし、SNS見ると楽しそうにしてる。私だけ取り残されてる気がして......このままだとホームレスになるんじゃないかって」
ダイキ「ホームレスに......?」
クライエント「極端だって分かってるんですけど、そう思っちゃうんです。お金もどんどん減っていくし、親にも心配かけてるし。でも、体が動かないんですよ。朝起きて『今日こそ履歴書書こう』って思うんですけど、気づいたら夕方で......」
声が震えていた。

不安の正体

ダイキ「その不安って、いつから感じてます?」
クライエント「......退職してすぐ、かな。最初の1週間くらいは『やっと休める』って思ったんですけど、すぐに『このままじゃダメだ』って焦り始めて」
ダイキ「焦りと不安は、どんなふうに感じますか? 体のどこで感じてます?」
彼女は少し考えてから、胸に手を当てた。
クライエント「......ここ、かな。胸がずっとざわざわしてる感じです。夜も眠れなくて」
ダイキ「夜、眠れないんですね」
クライエント「はい。布団に入ると、頭の中でいろんなことがぐるぐる回り始めて。『明日こそハローワーク行かなきゃ』『資格取らなきゃ』『何かスキルつけなきゃ』って。で、朝になると疲れ果ててて、結局何もできない......」
彼女は深くため息をついた。
クライエント「最悪なのは、何もしてないのに疲れてるってことなんです。一日中家にいるのに、なんでこんなに疲れるんだろうって」

警戒し続ける心

ダイキ「......今、お話を聞いていて思ったんですけど」
クライエント「はい」
ダイキ「その不安って、もしかしたら『警戒』なのかもしれませんね」
クライエント「警戒......?」
ダイキ「ええ。例えば、原始時代の人間が森の中にいたとして、猛獣の気配を感じたとします。そのとき、どうすると思います?」
クライエント「......逃げる、とか?」
ダイキ「そうですね。でも、逃げられない状況だったら?」
クライエント「......隠れる?」
ダイキ「そう。息を殺して、じっと警戒し続けるんです。体力はあまり使わないけど、ものすごく神経を使う。敵が去るまで、ずっと緊張状態」
彼女の目が少し大きくなった。
クライエント「......それって、今の私と似てるかも」
ダイキ「どのあたりが?」
クライエント「動いてないのに、ずっと緊張してる感じ。将来っていう『敵』がどこにいるか分からないから、ずっと警戒してる......?」
ダイキ「まさに、その通りだと思います」

疲れているから、不安が大きくなる

ダイキ「もう一つ、大事なことがあるんですけど」
クライエント「はい」
ダイキ「疲れてるとき、人間の感情って普段の何倍にも大きくなるんです」
クライエント「......何倍?」
ダイキ「2倍から3倍。場合によってはもっと」
彼女は驚いた表情を浮かべた。
クライエント「そんなに......?」
ダイキ「はい。だから、疲れてるときに感じる不安って、実は本来の大きさじゃないかもしれない。本当は『ちょっと心配だな』くらいのことが、『人生終わった』って感じるくらいに膨れ上がってる可能性があるんです」
クライエント「......だから、ホームレスになるとか思っちゃうんだ」
ダイキ「そうかもしれませんね。で、厄介なのは、その大きくなった不安に対処しようとして、さらにエネルギーを使ってしまうこと」
クライエント「転職活動しなきゃ、とか?」
ダイキ「そうです。『資格取らなきゃ』『スキルつけなきゃ』って」
彼女は深くうなずいた。
クライエント「確かに......。でも、何もしないわけにはいかないじゃないですか」

時間を味方にする

ダイキ「何もしないわけじゃないんです。ただ、順番が大事なんですよ」
クライエント「順番......?」
ダイキ「まず、警戒を解くこと。そして、休むこと。それから、工夫すること」
クライエント「警戒を解く......どうやって?」
ダイキ「今の状況で、本当に命の危険があるかどうか、確認してみましょうか」
彼女は少し考えた。
クライエント「......今すぐ死ぬわけじゃない、ですよね」
ダイキ「今日、明日、食べるものはありますか?」
クライエント「あります」
ダイキ「今晩、寝る場所は?」
クライエント「......実家なので、あります」
ダイキ「では、少なくとも今日、明日は、安全ですよね」
彼女の肩の力が、ほんの少し抜けたように見えた。
クライエント「......そうですね」
ダイキ「将来の不安って、実は『今ここにはない危険』なんです。でも、私たちの脳は、それをまるで『今、目の前にいる猛獣』のように感じてしまう」
クライエント「確かに......毎日、襲われてる気分でした」
ダイキ「だから、まず『今は安全だ』って、体に教えてあげることが大事なんです」

小さな実践

クライエント「でも、どうやって......?」
ダイキ「例えば、夜、布団に入ったとき。将来のことを考え始めたら、意識的に思考をそらすんです」
クライエント「思考をそらす?」
ダイキ「音楽を聴くとか、動画を見るとか。何か、感覚に集中できることをする。少なくとも3時間、将来のことを考えない時間を作る」
クライエント「3時間......」
ダイキ「最初は難しいかもしれません。でも、その間、不安という感情は少しずつ落ち着いていくんです」
彼女は真剣な表情でうなずいた。
クライエント「それと、休むこと......ですよね」
ダイキ「はい。転職活動も、資格取得も、全部エネルギーを使うことです。今、充電が必要な時期に、放電し続けたらどうなると思います?」
クライエント「......動かなくなる」
ダイキ「その通りです。だから、まず充電。エネルギーが貯まってきたら、そのとき初めて、次のことを考える」
クライエント「......どのくらい休めばいいんでしょう?」
ダイキ「人によって違いますけど、最低でも1週間、長ければ数ヶ月。焦らなくて大丈夫です。時間を味方につけるんです」

見えてきた光

クライエント「時間を......味方に」
彼女は何度か小さくうなずいた。そして、初めて穏やかな表情を見せた。
クライエント「なんか......少しだけ、楽になった気がします」
ダイキ「どのあたりが?」
クライエント「今すぐ何かしなきゃって焦る気持ちが、ちょっと減ったかも。私、疲れてたんですね」
ダイキ「そうですね。その疲れに気づけたこと、それ自体がとても大きな一歩だと思います」
クライエント「......やってみます。まず、夜に考えすぎないようにすること。それと、休むことを自分に許可する」
ダイキ「素晴らしいですね」
彼女はもう一度、深呼吸をした。
クライエント「未来がまだ真っ暗じゃないかって言われると......まだ分からないです。でも、今日は安全だって思えました」
立ち上がるとき、彼女の足取りは、来たときよりも少しだけ軽く見えた。

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