仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件⑦

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 貴族諸侯たちは皆、大なり小なり腹に一物抱えつつも上流階級の品性を身につけ重んじている。だからこれほどまでに酷いものを見せられても、怒号を飛ばすことはなかった。

「イヤイヤイヤッ! そんなはずないの! あいつが酷いこと言ったの!!」

 髪をかきむしり地団駄を踏み最早すっかり馬脚を露したカティアが代わりに浴びたのは、冷たい軽蔑だった。よくこれでリリアン嬢を断罪しようと企めたものだ。観衆はもう一言も発さず、凍てついた空気を揺さぶるのは光の乙女様の金切り声だけである。

 リチャードが右手を横薙ぎにするようにすっと動かし、鏡に映る光景が変わった。ミハイルが若い侍従に何か話している。

「……最近のリリアンの態度は目に余る。将来王として国を動かす僕を差し置いて口出しばかり、まるで自分こそが国を動かすんだと言わんばかりだ。彼女は国母にふさわしくないし、いずれ王家と国を揺るがす。君、憂いの芽を摘むのを手伝ってくれ」

 侍従は何か言いたげにしたが結局逆らうことはなく、多額の褒美と引き換えに見てもいないことを証言すると約束してしまった。リリアンがカティアを詰り中傷し、手まで上げたと。

「ひっ……」

 ミハイルがよろける。無理もないだろう。王太子が気に入らない婚約者を積極的に陥れようとしたこと、そのために人を買収し虚偽の証言をさせたことが明るみに出たのだから。当然、人々の冷ややかな視線はミハイルにも向くこととなった。

「ふざけんなよっ! こんなのストーリーになかったじゃん! こんなクソイベント、どうやって……」

 鏡の中の景色はどんどん移り変わり、様々なものを暴いていく。ある貴族の嫡男の腕に抱かれ甘えたその日の夜、別の男に身を寄せ甘い言葉を囁くカティア。ミハイルが侍従を使いに走らせ、何も知らない市井の魔術師に品物の破壊を依頼して証拠を捏造する場面。ダヴィッジ侯爵令嬢からハンカチやアクセサリーを脅し取り、『大したものじゃないわね』と呟くカティアの不満気な顔。演劇でも観に行かないかというリリアンの誘いを忙しいと一蹴した後、遊戯室で玉突きに興じるミハイルの姿。

 人々がリリアンの反論を聞きながらおぼろげに想像していた、しかし断定出来る材料はなかった悪意が次々に引きずり出されていく。

「……私の反論は以上です。正式な決着は、また後日法廷で」

 断罪を成功させた暁には結婚しようと王宮の庭園で約束するミハイルとカティアの姿を最後に、地獄のような映像群は終わった。リリアンは王に深く一礼し、膝から崩れ落ちた王太子に向き直った。

「ミハイル殿下……残念です。殿下と初めて顔を合わせた幼い頃、とても綺麗な目をした素敵な王子様だと思い憧れました。その後なかなか分かり合えなくても、いつかはいい関係を築いて協力出来るはずと信じていました。このようなことになり、本当に残念です」

 それは決別を意味する言葉だった。貴方との結婚などこちらから願い下げだと暗に伝える言葉だった。婚約破棄についてだけは、ミハイルの望んだ通りの結果になったのだ。代わりに失ったものが大きすぎるが。

「そんな……」

「よせミハイル。見苦しい」

 助けを求めるように泣き顔を向けてきた長男の声を王はきっぱりと断ち切った。頭痛を堪えるように目を閉じたのは束の間、まっすぐ前を向き重々しく話しだす。

「皆の者にはすまぬが、今宵の宴は中止とする。この件については裁判を行い、双方の主張や証拠をあらためて慎重に精査し事実をはっきりさせよう。――ミハイルと光の乙女を、部屋に」

「はっ!」

 王の指示を受け動き出す近衛兵たち。父である王もまたミハイルを見限っていた。裁判を開き主張の機会を公平に与えるのは、国の秩序を守るためでしかない。グランバルト家側が提出した証拠に対するまともな反論は万に一つも出てこないと、そう判断したからこその拘束の命なのだ。

 二人の騎士が立ちつくすカティアの腕を掴み罪人のように連れて行こうとしたその時。

「なんでだよおぉおおぉ! ムカつく! ムカつくムカつくムカつく! あたしはヒロインなのに! 光の乙女カティア・フルーテなのにぃぃい!」

 カティアから光の力が迸り、騎士が吹き飛ばされた。
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