二人の人間が出会ったとき、その間には、どちらか一人だけでは生まれない何かが生まれます。
一緒にいると、なぜか言葉がどんどん湧いてくる人。会った瞬間に、抗えないほど惹かれてしまう人。ぶつかることも多いのに、なぜか長く一緒にいられる人。
そうした関係の違いは、性格の相性という言葉だけでは、なかなか説明しきれません。
このシリーズの最終回となる第5回では、NHK連続テレビ小説「ブラッサム」のモデルとなった作家・宇野千代と、彼女が人生を共にした3人の男性、尾崎士郎、東郷青児、北原武夫のホロスコープを重ね合わせてみます。
前回の第4回では、千代が何度も恋をし、結婚した理由を、千代自身のチャートから読みました。今回は、相手の星との関わりから、それぞれの関係を見ていきます。
二人の星を重ねる「シナストリー」という読み方
西洋占星術には、二人のホロスコープを重ね合わせて、お互いの天体がどんな角度で結ばれているかを読む方法があります。これを「シナストリー」と呼びます。
たとえば、一方の金星(愛情)ともう一方の火星(情熱)が調和の角度で結ばれていれば、自然に惹かれ合いやすい関係です。一方の土星(責任・継続)が相手の天体と結ばれていれば、その関係には、長く続けるための重みが加わりやすくなります。
シナストリーは、相性の「良い・悪い」を判定するためのものではないと私は考えています。二人の間で、どんな力が動きやすいのかを知るための地図です。
今回は、千代と3人の男性、いずれも出生時間がわかっていないため、全員のチャートを正午で作成しています。そのため、1日のうちに大きく動く月の角度は参考程度にとどめ、ほかの天体どうしの角度を中心に読んでいきます。
尾崎士郎──言葉で響き合い、自由でぶつかる
尾崎士郎は、1898年2月5日、愛知県に生まれた作家です。のちに長編小説『人生劇場』で人気作家となります。千代とは1922年に出会い、千代は札幌の夫のもとへ戻らずに、尾崎と暮らし始めました。
二人の星を重ねて、まず目に入ったのは、千代の水星と、尾崎の太陽が結ぶ協力の角度(セクスタイル)です。千代の水星は射手座18度、尾崎の太陽は水瓶座17度。ほぼぴったりの角度です。
水星は言葉と思考を、太陽はその人の生き方の中心を表します。千代の言葉が、尾崎という人の生き方に自然に響きます。作家どうしとして、話せば話すほど言葉が生まれていく関係だったのではないでしょうか。
そして、尾崎の天王星が、千代の射手座の火星・太陽・土星にぴたりと重なっています。天王星は、突然の目覚めや変化を表す天体です。相手の天王星が自分の火星に重なると、その人と出会った瞬間に、眠っていた何かが目を覚ましたような感覚を覚えやすくなります。夫のいる札幌に戻らなかったという千代の決断は、まさにこの電撃的な出会いの表れのように見えます。
一方で、尾崎の太陽は、千代の蠍座の金星と、90度の角度(スクエア)を結んでいます。こちらも、ずれはわずか1度ほどです。
水瓶座の太陽を持つ尾崎は、何よりも自分の自由や独立を大切にする人です。蠍座の金星を持つ千代は、相手と深く一体になることを求めます。強く惹かれ合う一方で、「近づきたい人」と「自由でいたい人」として、すれ違いも生まれやすい組み合わせです。
天王星の刺激は、関係を一気に燃え上がらせる一方で、長くとどまることには向きにくい性質も持っています。言葉と刺激で結ばれた二人の関係は、やがて別居、離婚へと向かいました。
東郷青児──抗えない情熱と、物語の源
東郷青児は、1897年4月28日、鹿児島県に生まれた洋画家です。甘く夢見るような女性像で人気を集め、のちには美術団体・二科会を率いる存在になります。千代は小説の取材で東郷に会い、その日から一緒に暮らし始めたと伝えられています。
二人のシナストリーで最も目を引くのは、千代の金星と、東郷の火星が結ぶ調和の角度(トライン)です。千代の金星は蠍座18度、東郷の火星は蟹座19度。どちらも水の星座で、ずれは2度もありません。
金星と火星は、恋愛において、惹かれる力と求める力を表す一対の天体です。この二つが、感情の深さを表す水の星座どうしで調和していると、理屈では説明できないほど強く惹かれ合いやすくなります。会ったその日から暮らし始めたという話が生まれるほどの引力は、この角度から来ていたのかもしれません。
もうひとつ興味深いのが、千代の水星と、東郷の海王星が結ぶ正反対の角度(オポジション)です。ずれは1度ほどしかありません。
海王星は、夢や物語、そして現実と幻想の境目をあいまいにする天体です。千代の言葉は、東郷という人に触れることで、物語の世界へと引き込まれていきます。実際に千代は、東郷から聞いた心中未遂事件の話をもとに、小説『色ざんげ』を書き上げました。東郷は、千代にとって、恋の相手であると同時に、物語の源でもあったのです。
ただ、二人の太陽どうしは、150度という、ちぐはぐな角度(クインカンクス)で結ばれています。この角度は、お互いのリズムや価値観が噛み合いにくく、絶えず調整が必要になる関係を表します。安定や所有を大切にする牡牛座の太陽を持つ東郷と、自由を求める射手座の太陽を持つ千代。強い情熱で結ばれながらも、暮らしのリズムは最後まで噛み合いにくかったのかもしれません。二人の暮らしは、4年ほどで終わりを迎えます。
北原武夫──ぶつかり合いながら、25年を共に歩く
北原武夫は、1907年2月28日、神奈川県小田原市に生まれた作家です。新聞社の記者をしていたころ、取材で千代と知り合いました。1939年に二人は結婚し、雑誌『スタイル』を共に作り、会社の倒産と借金の返済を一緒に乗り越えます。結婚生活は、25年に及びました。
3人の中で最も長く続いたこの関係には、ほかの2人にはない、はっきりとした特徴がありました。
それは、千代の金星と、北原の土星が結ぶ調和の角度(トライン)です。千代の金星は蠍座18度、北原の土星は魚座17度。ずれは1度もありません。
土星は、責任と継続、そして時間をかけて形を作る力を表す天体です。相手の土星が自分の金星と調和していると、その愛情には、落ち着きと重みが加わります。燃え上がるような恋というより、時間とともに深まり、簡単には揺らがない関係を作りやすい角度です。尾崎とも東郷とも持たなかったこの角度を、千代は北原とだけ持っていました。
一方で、二人の間には、緊張の角度もたくさんあります。千代の太陽は、北原の太陽と月の両方と90度の角度(スクエア)を結び(北原の月はこの日のあいだ乙女座にあるため、この角度はほぼ成り立ちます)、千代の水星は北原の土星と、やはり90度で結ばれています。
太陽と月のスクエアは、生き方や価値観の違いから、ぶつかり合うことが多くなりやすい関係です。水星と土星のスクエアは、言葉や考えに対して、厳しい目が向けられやすい関係を表します。共に雑誌を作り、共に文章を書く二人にとって、お互いの仕事に厳しい意見を言い合う場面も、きっと少なくなかったでしょう。
それでも、北原の火星は千代の射手座の水星と太陽のそばにあり、千代の考えやアイデアに、行動の力を与えています。ぶつかり合いながらも、一緒に何かを作り続けることができたのです。緊張と、それを支える土星の重み。その両方があったからこそ、二人は25年を共に歩けたのではないでしょうか。
ただ、千代の冥王星と北原の火星は、ほぼぴったり正反対の位置にあります。冥王星は深い変容や、力の駆け引きを表す天体です。長い年月の中で積み重なった力の緊張は、やがて北原のほうからの離婚の申し出という形で、関係を大きく変えることになりました。
3人の夫が引き出した、3つの千代
3人のシナストリーを並べてみると、それぞれの男性が、千代の違う面を引き出していたことが見えてきます。
尾崎士郎は、千代の言葉と自由を目覚めさせた人でした。水星と太陽の響き合いと、天王星の刺激が、作家として、ひとりの女性として、千代を新しい世界へ飛び出させました。
東郷青児は、千代の情熱と物語を引き出した人でした。金星と火星の引力が恋を燃え上がらせ、水星と海王星の関わりが『色ざんげ』という作品を生みました。
北原武夫は、千代の「続ける力」を支えた人でした。金星と土星の調和が、ぶつかり合いながらも、雑誌づくりと25年の結婚生活を支えました。
どの関係も、千代の人生にとって欠かせないものだったように思います。別れがあったからといって、その関係が失敗だったわけではありません。それぞれの出会いが、千代の中にある星を、ひとつずつ目覚めさせていったのです。私には、そう見えます。
シリーズを読んでくださった方へ
5回にわたって、宇野千代の人生をホロスコープから読んできました。
第1回では、恋も倒産も越えて98歳まで書き続けた人生と、射手座に集まった星を。第2回では、作家としての才能と、人生の転機に動いた星を。第3回では、いくつもの仕事を生きた人の才能の見つけ方を。第4回では、何度も結婚した理由を。そして今回は、3人の夫との星の関係を読みました。
ひとりの人のチャートから、これだけ多くのことが読み取れるのは、宇野千代の人生がそれほど濃かったからでもあります。けれど本当は、誰のチャートにも、同じくらい多くのことが描かれています。
ホロスコープは、未来を決めつけるものではありません。持って生まれた力が、どんな方向へ流れやすいかを示す地図です。人との関係も、その地図の上で、お互いの力がどう響き合うかとして読むことができます。
あなたと大切な人の星も、重ねてみませんか
「あの人と一緒にいると、なぜか言葉が湧いてくる」「惹かれ合うのに、いつも同じところでぶつかる」。そんな関係があるなら、それは二人の星の重なり方に理由があるのかもしれません。
もし二人の関係を、星から丁寧に読み解いてみたいと感じていただけたなら、ぜひのぞいてみてください。
▶ 気になる相手との関係を知りたい方
二人のチャートを重ね、お互いの間に生まれやすい力の流れと、関係を育てていくためのヒントを読み解きます。
▶ まずは自分自身の星を知りたい方へ
出生時間がわからない方も、ご依頼いただけます。あなたと大切な人の間に流れているものを、一緒に読み解くことができたらうれしいです。