このシリーズの第1回では、NHK連続テレビ小説「ブラッサム」のモデルとなった作家・宇野千代の人生をたどり、彼女のホロスコープで最も目立つ、射手座への星の集中を読みました。
14歳での10日間の嫁入り、恋による教職からの出奔、札幌の夫のもとへ戻らなかった1922年の決断、画家・東郷青児との暮らし、雑誌『スタイル』の創刊と倒産、そして84歳で書いた自伝『生きて行く私』。心が動けばすぐに走り出し、それでいて最後まで書くことをやめなかった彼女の生き方は、射手座に重なる太陽・火星・土星・天王星の姿そのものでした。
第2回となる今回は、蠍座の金星、言葉の力を示す水星、人との縁、作家としての適性、そして人生の転機に動いていた星を、順番に読んでいきます。チャートは第1回と同じく、出生時間がわからないため正午で作成したものです。
蠍座の金星は、誰にも邪魔されずに愛と美を追いかける
もうひとつ、このチャートで特徴的なのが金星です。
金星は、愛情や美意識、心地よさを示す天体です。宇野千代の金星は蠍座にあります。蠍座の金星は、浅く広くではなく、一人の相手、ひとつの美しさに深く入り込む愛し方をします。好きになったら、全身で好きになります。中途半端なつながりでは満たされない愛情のかたちです。
そしてこの金星は、ほかの天体と主要な角度をほとんど結んでいません。
ほかの天体から影響を受けにくい天体は、良くも悪くも「独立して」働きます。理性や常識、損得といったブレーキがかかりにくく、その天体のテーマが純度の高いまま表に出やすくなります。
恋をしたら、世間体も順番も関係なく、そのまま飛び込みます。美しいと思った着物は、自分でデザインして、自分で着て、自分で売ります。彼女の恋愛と美意識が、どこか誰にも手綱を握らせない自由さを持っていたのは、この金星の在り方とよく重なります。
奔放さではなく、純度。私はこの金星を、そう読みたいと思っています。
言葉の奥に、人の心の深い場所がある
作家としての宇野千代を読むうえで欠かせないのが、言葉と思考を示す水星です。
射手座の水星は、双子座の海王星、双子座の冥王星の両方と、正面から向き合う角度(オポジション)を結んでいます。
海王星は、想像力や夢、目に見えないものへの感受性を示す天体です。水星と海王星が向き合うと、現実と物語の境目が揺らぎやすくなります。事実を書いているはずなのに、いつのまにか物語の手触りが宿ります。聞いた話が、自分の声のように語り直されていきます。
冥王星は、人の心の深層や、執着、生と死に関わる天体です。水星と冥王星が向き合うと、言葉が表面で止まらず、人の心の奥底まで降りていきます。
宇野千代の初期の代表作『色ざんげ』は、東郷青児から聞いた情死未遂事件の話をもとに、聞き書きのような語り口で書かれた作品です。後年の『おはん』も、男と女の情念を、静かな語りのなかに深く描き出しています。
人の話を聞き、それを自分の中でいったん物語に溶かし、人の心の暗い場所まで照らす言葉にして差し出します。このオポジションは、彼女の書き手としての力そのものだったのかもしれません。
向き合う角度は、緊張や葛藤を示すものとして語られることもあります。けれど私は、葛藤は欠点ではなく、その天体を使いこなすための課題だと考えています。宇野千代は、この緊張を一生かけて文章に変え続けた人でした。
人との縁が、彼女を何度も引き上げた
宇野千代の人生をたどっていると、節目節目で「誰か」が現れることに気づきます。雑誌『スタイル』の表紙を描いた画家の藤田嗣治、北原武夫との結婚で仲人を務めた藤田と作家の吉屋信子、淡墨桜の話を教えた批評家の小林秀雄。
チャートでは、射手座から蠍座にかけての4天体が、天秤座の木星と協力の角度(セクスタイル)で結ばれています。木星は、広がりや幸運、人からの引き立てを示す天体で、天秤座は人との関わりや社交を司る星座です。大胆に動く力が、人とのつながりの中で歓迎され、チャンスに変わりやすい配置です。
さらに、生まれたのが朝10時ごろ以降であれば、月と木星が調和の角度(トライン)を結び、4天体とあわせてミニトライアングル(小三角)という形をつくります。心の欲求と人との縁が、行動を通して現実の成果につながっていく形です。月はドラゴンヘッド(人生の進む方向を示すポイント)とも重なっており、気持ちに正直に動くことが、そのまま人生を前へ進めることにもなっていたようです。
出生時間によって成立しない可能性もある部分ですが、彼女の人生を見ていると、私にはこの形がとても自然に感じられます。
作家としての適性を、星から読んでみると
ここで、宇野千代を「書く人」として見たときの適性を、もう少し丁寧に整理してみたいと思います。
書く力は、ひとつの才能ではなく、いくつかの力の組み合わせでできていると私は考えています。思いを言葉にする力、書き続ける力、自分の文章を突き放して見直す力、そして批判や挫折に折れずにいられる心の強さ。どれか一つが飛び抜けていても、ほかが欠けていると、書くことはなかなか長続きしません。
宇野千代のチャートでは、言葉にする力を射手座の水星が担っています。先ほど見たように、この水星は海王星と冥王星の両方と向き合い、聞いた話を物語に溶かし、人の心の深い場所まで言葉を届かせる力を持っています。
書き続ける力と、自分を客観視する力を支えているのは、太陽に重なる土星です。土星は、締め切りや規律、時間をかけて磨き上げる職人的な姿勢を示します。『おはん』は、連載が断続的に続き、完結までにおよそ7年かかったとされる作品です。衝動で書き始め、土星の粘りで書き上げていきます。その両方を持っていたことが、彼女を「一発屋」ではなく、生涯書き続ける作家にしたのだと思います。
そして、心の強さ。倒産や離別のたびに筆を置かず、むしろそれを次の作品の材料にしていった彼女のしなやかさは、変化の天体である天王星と、深い場所から何度でも生まれ変わる蠍座の気配が、太陽のすぐそばにあることと重なります。
文体やジャンルの傾向も、チャートによく表れています。人から聞いた話を語り直す聞き書きの小説、男女の情念を描く物語、そして自分の人生をまるごと差し出す自伝的エッセイ。どれも、人の心の奥へ降りていく水星と、遠くへ広げていく射手座の星たちがあってこそ生まれたものではないでしょうか。
小説を書き、雑誌を編み、着物をデザインし、自分で着て見せます。表現の場をひとつに絞らず、次々と広げていったのも、射手座に星が集まった人らしい在り方です。彼女にとっては、文章も、雑誌も、着物も、すべてが「美しいと思ったものを人に差し出す」ための、同じ表現だったのかもしれません。
人生の転機に、空では何が起きていたのか
ここからは、宇野千代の人生の節目に、空の星がどう動いていたのかを見ていきます。生まれたときの星の位置に、その時点で空を運行している星が重なったり角度を結んだりすることを、「トランジット」と呼びます。
1921年1月、「脂粉の顔」が懸賞小説で一等に入選したとき、空の天王星は、彼女の射手座の太陽・火星・土星に対して90度の角度にありました。天王星は、突然の目覚めや変化をもたらす天体です。北海道で暮らす一人の女性が、作家として外の世界に見つかった瞬間と重なります。
1936年6月、雑誌『スタイル』を創刊したとき、拡大と発展の木星は、彼女の射手座の水星にちょうど重なっていました。言葉と情報を司る水星に木星が重なる時期は、発信や出版の活動が広がりやすいタイミングです。
1957年から1959年にかけて、『おはん』での受賞と、スタイル社の経営難・倒産が同時にやってきたとき、破壊と再生の天体である冥王星が、彼女の射手座の火星・土星と蠍座の天王星に対して90度の角度をとっていました。栄光と喪失が同じ時期に訪れ、それまでの土台が一度壊れて、作り直されていきます。冥王星らしい時期です。
1966年に株式会社宇野千代を立ち上げたころには、美と夢の天体・海王星が、彼女の蠍座の金星に重なっていました。美意識が、そのまま事業のかたちになった時期と読めます。
そして1982年、84歳で『生きて行く私』の連載を始めたとき。天王星はおよそ84年かけて空をひと回りし、生まれたときの位置に戻ってきたあと、射手座の太陽・火星・土星にふたたび重なっていました。
23歳で作家として見つかったときに90度で刺激していた天王星が、60年あまりを経て、今度は真上から同じ星たちに重なります。人生をもう一度語り直す自伝が、100万部を超えるベストセラーになったのは、この時期でした。
天と地は呼応している。私はそう考えていますが、宇野千代の人生ほど、それを鮮やかに感じさせてくれる例は多くありません。
転機は、何の前ぶれもなくやってくるように見えて、空の上ではたいてい、それにふさわしい星の動きが起きています。動く時期と、じっくり蓄える時期。それを前もって知っておくことは、未来を決めつけることではなく、自分の力をいちばん使いやすいタイミングを選ぶための手がかりになるのではないかと考えています。
振れ幅の大きさは、星を使いこなしてきた証
宇野千代の人生を「波乱万丈」と呼ぶことはできます。けれど、彼女のチャートを読んだあとでは、私には少し違うものに見えてきます。
心が動けば走り出す射手座の星たち。誰にも手綱を握らせない蠍座の金星。人の心の奥まで降りていく言葉。そして、崩れても積み直す土星。
波乱ではなく、生まれ持った星を、一つひとつ使いこなしていった軌跡。恋も、倒産も、晩年の桜も、その星たちが現実の中で磨かれていくための場面だったのではないでしょうか。
ホロスコープは、未来を決めつけるものではありません。持って生まれた力が、どんな方向へ、どんなかたちで流れやすいかを示す地図です。宇野千代は、自分の力の使い方を、生涯をかけて自分の手で見つけていった人なのだと思います。
次回は、いくつもの仕事を生きた人の才能を読みます
教師、記者、作家、編集者、着物デザイナー、そして実業家。宇野千代は、生涯で驚くほど多くの仕事を手がけた人でもあります。次回の第3回では、「自分の適性がわからない」と感じている方にも重ねて読んでいただけるように、いくつもの仕事を生きた彼女の才能を、ホロスコープから読み解きます。
あなたの星も、読むことができます
今回の記事は、出生時間がわからないまま、天体の星座と角度だけで読んでいます。それでも、ここまでのことが見えてきます。
あなたにも、「気づけばいつもやっていること」「なぜか書かずにはいられないこと」があるかもしれません。それは気まぐれではなく、生まれ持った星の現れ方なのかもしれません。
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宇野千代の転機を読んだように、あなたのこれからの星の動きを時系列で読み解きます。今後5年の大きな流れを読む5年プランと、今後1年を月ごとに読む1年プランから選べます。書き始める時期、作品を発表する時期、発信に力を入れる時期を知りたい方にも。
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