「集中できない」
「集団で過ごすと疲れてしまう」
「理解はできているのに、書くことが苦手」
子どもがこうした困難を抱えたとき、私たち大人は、どこに目を向けるでしょうか。
本人の努力を促すこともあるかもしれません。しかし、その前に考えたいことがあります。
学び方や周囲の環境を変えることで、その子が力を発揮しやすくなるのではないか。
イギリスの教育支援には、この問いを考えるうえで参考になる仕組みがあります。
今回は、発達障害に対する社会的な理解と教育のあり方、そして、私たち「ホッとルーム」が日々の関わりに取り入れている考え方を紹介します。
※イギリスでは、イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドで教育制度が異なります。この記事では、主にイングランドの制度を取り上げます。
「知っている」から「理解し、環境を変える」へ
イギリスでも、発達障害に対する理解が、社会全体に十分に行き渡っているわけではありません。
例えば、イングランドを対象とした政府の自閉症戦略(2021〜2026年)では、社会の理解と受容を高め、地域生活や教育、就労などへの参加を支えることが目標に掲げられました。これは、認知が広がっても、暮らしの中の障壁が残っていることを示しています。(gov.uk)
自閉症やADHDという名前を知っていることと、目の前の人を理解することには距離があります。
同じ診断名でも、得意なこと、苦手なこと、必要な支援は一人ひとり異なります。
「発達障害だから、こういう子だ」と決めつけず、「この子は、どんな場面で困っているのだろう」と考える。その姿勢が、具体的な支援の出発点になると私たちは考えています。
診断名だけでなく、「何に困っているか」から支える
イングランドには、SEND(Special Educational Needs and Disabilities)という教育支援の枠組みがあります。日本語では「特別な教育的ニーズと障害」といった意味です。
SENDは、日本でいう発達障害と同じ範囲を指す言葉ではありません。読み書き、コミュニケーション、集中、身体面など、学ぶうえで必要となる幅広い支援を扱います。(gov.uk)
ここで参考にしたいのが、支援は診断名だけで決めるものではないという考え方です。
英国の自閉症支援団体National Autistic Societyも、学校で支援を受けるために、必ずしも診断が必要なわけではなく、子どものニーズに基づいて支えるべきだと説明しています。ただし、実際には診断がないと必要性を示しにくく、支援につながるまで苦労する家庭もあります。(autism.org.uk)
診断は、自分を理解したり、支援につながったりするための大切な手がかりです。
同時に、診断がつくまでの間にも、子どもの困りごとは存在します。その時点でできる工夫を始めることにも、大きな意味があります。
学び方を調整する仕組み
イングランドの学校では、必要に応じて、少人数での学習、教員や支援員による補助、個別の学習プログラムなどが検討されます。保護者が相談する窓口として、特別な教育的ニーズへの支援を調整するSENCOという担当者もいます。(gov.uk)
学校で通常提供される支援だけでは十分でない場合には、教育・保健・福祉のニーズと必要な支援をまとめるEHCプランという仕組みもあります。すべての子どもに作成されるものではなく、より多くの支援が必要な子どもや若者が対象です。(gov.uk)
また、支援は、一度決めて終わりではありません。
子どもの状況を把握し、支援を計画し、実施し、その効果を振り返る。こうした循環を通じて、内容を調整していきます。(autism.org.uk)
例えば、私たちが日々の関わりで考えられる工夫には、次のようなものがあります。
* 口頭の説明に、文字や図を添える
* 一度に伝えることを少なくする
* 活動の流れを先に知らせる
* 音や人の多さが負担になる場合は、落ち着ける場所を考える
* 書くことが負担なら、話すことや入力することも検討する
大切なのは、その工夫によって本人が学びやすくなったか、安心して過ごせたかを確かめることです。
イギリスにも、制度と現実の隔たりがある
ここまで読むと、「イギリスなら、必要な支援をすぐに受けられる」と感じるかもしれません。
しかし、現実はそう単純ではありません。
英国の会計検査院にあたるNational Audit Officeは、2024年の報告で、イングランドの特別な教育的ニーズへの支援について、予算が増えても子どもたちの成果改善に十分つながっていないことや、制度の持続可能性に課題があることを指摘しました。(nao.org.uk)
制度があっても、必要な支援が届かないことはある。理念が共有されても、現場で実現するには難しさがある。
だからこそ、私たちはイギリスを理想化するのではなく、そこから学べる考え方を、目の前の子どもとの関わりに生かしたいと考えています。
ホッとルームが取り入れていること
文京区本郷の不登校支援の場「ホッとルーム」では、イギリスの教育支援に見られる、一人ひとりのニーズを大切にする考え方を取り入れています。
中心にあるのは、本人の声を聴き、その子に合った過ごし方を一緒に考えることです。
本人が選ぶ余地を大切にする
ホッとルームでは、その日の過ごし方を本人が選ぶことを大切にしています。
何かに取り組みたい日もあれば、まずは落ち着いて過ごしたい日もあるでしょう。
「今日はどうしたい?」
「どのくらいならできそう?」
こうした対話を通して、自分の気持ちを確かめ、伝え、選ぶ経験を重ねていきます。
選べずに迷っているときには、大人が選択肢を整理し、一緒に考えます。
興味を、学びの入り口にする
好きなことについてなら、話せる。知りたいことがあると、自分から調べたくなる。
私たちは、そうした興味や好奇心を大切にしています。
何に心が動くのか。何をしているときに、その子らしさが見えるのか。
そこから対話や活動を広げ、自分の考えを表現する機会や、新しいことに取り組むきっかけにつなげていきます。
保護者と一緒に考え続ける
子どもの状態は、日によっても、場所によっても変わります。
教室での様子だけで判断せず、家庭での姿や保護者の思いも伺いながら、関わり方を考えます。
ホッとルームでは、保護者との定期的な面談を大切にしています。
「何をしたか」に加えて、「何が負担だったか」「どんなときに安心できたか」も共有する。その積み重ねが、本人に合った支援を見つける手がかりになります。
安心して、自分の学びを始められる場所へ
イギリスの教育支援から、私たちが学びたいこと。
それは、子どもの困難を見たときに、本人への働きかけとともに、環境や大人の関わり方も見直す姿勢です。
どんな伝え方なら分かりやすいのか。
どんな場所なら落ち着けるのか。
何からなら、やってみたいと思えるのか。
その答えを、子どもや保護者と一緒に探していく。
ホッとルームは、イギリスの教育から学んだ考え方を生かしながら、一人ひとりが安心して過ごし、自分のペースで学びを始められる場所を育てていきます。
すべては、子どもの成長と幸せのために。
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ホッとルームへのご相談
学校に行きづらい。
集団生活で疲れてしまう。
子どもに合う学び方や居場所を、一緒に考えたい。
ホッとルームでは、お子さまの状況や保護者の思いを伺いながら、これからの関わり方を考えます。保護者の方のみのご相談も可能です。