■誰でも情報を発信できるようになった一方で・・・
最近では、インターネットやソーシャルメディア(SNS)が普及したことで、差別やハラスメントといった「社会問題(社会課題)」について、人々が声を上げやすい環境になっています。
そうした環境によって、「社会問題(社会課題)」に対する認知の広がりや、議論の活性化につながっている一方で、声を上げた人の伝え方や態度の方に注目が集まり、議論が脱線することもしばしば見かけます。
こういった現象は、『トーンポリシング』と呼ばれています。
■『トーンポリシング』とは?
相手が主張した内容ではなく、「伝え方(口調や論調)」に焦点を当てて非難することで、議論を拒否したり論点をズラそうとする『トーンポリシング(Tone Policing)』。
例えば「そんな感情的に伝えるのは良くない」などと相手を指摘し、議論の「本質」から逸らそうとする行為のことです。
「トーン(口調や論調)」を「ポリスする(取り締まる)」という意味から、日本語では「話し方警察」とも呼ばれています。
◆アメリカのWebマンガをきっかけに日本でも広まることに
『トーンポリシング』という言葉は、2000年代初頭にアメリカで広まり、その後SNSによって世界中に浸透するようになりました。
日本で広まるきっかけとなったのが、アメリカのWeb漫画『「冷静に」なんてなりません!』が日本語訳され、SNSで話題になったことだったと言われています。
この『「冷静に」なんてなりません!』(原題:No, We Won't Calm Down – Tone Policing Is Just Another Way to Protect Privilege)では、主に『トーンポリシング』の構造と問題点を指摘していて、差別や抑圧を告発するマイノリティ(少数派)に対し、マジョリティ(多数派)側が「そんな感情的で乱暴な言い方では話を聞けない」「もっと冷静に話しなさい」と、発言の内容ではなく「言い方・態度」を問題視して議論を無効化するシーンが描かれています。
■主な『トーンポリシング』の特徴
”何が”語られるかではなく、語る”態度や姿勢”に焦点を当てて論点をズラす『トーンポリシング』。
意識的・無意識的のどちらであっても、発言者の主張についての議論を妨げる効果があります。
具体的には、以下の特徴があります。
●論点のすり替え:発言者が提議する問題の「本質」に向き合わず、「言い方が攻撃的」「感情的だ」と態度や口調に焦点を当てる。
●萎縮効果を促す:当事者の発言を「不適切」と見なすことで、異議の申し立てや発言自体を躊躇させる。
●力の不均衡:社会的・構造的に立場が強い側(マジョリティ)が、声を上げる弱い側(マイノリティ)の発言の機会や正当性を奪おうとする。
■『トーンポリシング』の問題点
『トーンポリシング』は、相手を不快にさせたり傷つけるだけでなく、以下のようなネガティブな影響をもたらすことになります。
●議論の機会を損なわせて問題解決を妨げる
●言論や表現の自由を損なう
●「社会問題・社会課題」を常態化させてしまう
◆議論の機会を損なわせて問題解決を妨げる
『トーンポリシング』は、論点をズラし「本筋」ではない議論が展開されるため、議論の質が低下してしまい、議論すべき問題の解決を妨げることにつながってしまいます。
◆言論や表現の自由を損なう
「伝え方(口調や論調)」に焦点を当てて非難する『トーンポリシング』によって、議論における意見の多様性を損ない、言論・表現の自由を脅かすことにもつながりかねません。
◆「社会問題・社会課題」を常態化させてしまう
『トーンポリシング』によって議論が停滞・本筋から逸れてしまうことから、社会問題や社会課題が解決へと向かうことなく「現状維持」につながってしまうリスクもあります。
■『トーンポリシング』の具体例
『トーンポリシング』の発生例としては、以下が挙げられます。
●「保育園落ちた日本死ね」
●「フェミニストの振る舞い」を取り締まろうとする
●職場での発言内容よりも「口調や言い方」に着目する
◆「保育園落ちた日本死ね」
2016年に話題になった「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログの投稿。
国の方針として少子化対策や女性活躍の推進が掲げられているにも関わらず、実際の育児環境が整っていない現状に対して怒りの感情とともに指摘しました。
この投稿を契機に、同様の問題に悩む人々から声が上がり、待機児童問題が注目を集めることになりました。
ですが、この投稿に対し「母親なのに言葉遣いが悪い」「『死ね』という言葉は無いだろう」と、主張内容ではなく表現方法を批判・非難する反応が多く上がりました。
◆「フェミニストの振る舞い」を取り締まろうとする
「フェミニズム」の文脈においても『トーンポリシング』は生じます。
政治的・経済的・社会的な各分野におけるジェンダー(社会や文化によってつくられた性差や役割)の平等を目指す思想および社会運動を意味する「フェミニズム(Feminism)」。
特にネット上では、「女性の立場を守ったり、女性の権利を主張したりする『フェミニスト的な発言』をする女性は怒りっぽい」という言説が飛び交っています。
女性の社会的立場・権利を擁護したり主張する内容そのものではなく、「怒りっぽい」という感情的な言動・振る舞いに対して指摘し、論点をズラしている、というわけです。
◆職場での発言内容よりも「口調や言い方」に着目する
社会課題・社会問題に関する議論だけでなく、日常的な対話においても『トーンポリシング』が生じます。
例えば、企業内の問題点について若手従業員が上司に言及した際に、「そんな感情的にならないで」と論点には触れずに振る舞いに対して指摘する上司。
こんな『トーンポリシング』が生じてしまうと、特に従業員側が意見を言いづらくなり、結果として社内全体の『心理的安全性』を低下させてしまうことになります。
こういった状態が続くことで、社内の人間関係の軋轢を生んだり、離職者の増加や生産性の低下にもつながりかねません。
■なぜ『トーンポリシング』が生じてしまうのか?
意図的に行われることもあれば、無意識に引き起こされることもある『トーンポリシング』が生じる背景にある心理としては、以下の要因が挙げられます。
●リアルな体験談や感情に直面することを「敬遠」したい
●自身の主張が通らないことへの「憂さ晴らし」
●「立場の非対称性」が主張を軽視しやすくしてしまう
●「既得権益」を維持するための戦術
●相手に対する「偏見」や「見下す」意識がある
◆リアルな体験談や感情に直面することを「敬遠」したい
社会課題・社会問題についての議論をする際、差別など抑圧された人のリアルな体験談や感情を前にして居心地が悪くなり、「気持ちはわかるけど落ち着いて」と相手の主張に直面することを敬遠してしまう。
◆自身の主張が通らないことへの「憂さ晴らし」
議論の場で、相手の主張が「正論」であったり、自身の意見が通らない場合に、相手の口調や態度を批判・非難することで「憂さ晴らし」をしたり、議論の主導権を取り戻して「マウント」を取ろうとする。
◆「立場の非対称性」が主張を軽視しやすくしてしまう
そもそも、議論をする双方の間に「立場の非対称性」があることで、相手の意見・主張を軽視しやすくなってしまいます。
◆「既得権益」を維持するための戦術
『トーンポリシング』は、マジョリティ(多数派)とマイノリティ(少数派)、差別をする側とされる側など、関係性が対等で無い場合に「既得権益」を守るための戦術として用いられるケースも。
「話し合いは冷静にすべき」などと、議論の在り方を「強者」の立場にある側が決め、同様の枠組みで議論する相手にもそれを求めるのです。
逆に抑圧された側が感情とともに主張を訴えると、「感情的な主張は建設的な議論には適さない」などと否定することで、議論の主導権を相手から取り戻し、結果として議論の「本質」から避けようとするわけです。
◆相手に対する「偏見」や「見下す」意識がある
『トーンポリシング』は、意識的・無意識に関わらず、相手に対して偏見や見下していると、相手への理解や共感が足りずに生じてしまいやすくなります。
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