新千夜一夜物語 第6話:血脈と霊脈

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青年は困っていた。

神事は全て済んだはずであるのになんだかんだ障害があり、絶好調とは言いがたかったからである。いずれにしても一人で考えていても答えが出ないと思い、陰陽師を訪問することにした。

『すみません。先祖霊とチャクラと天命運の神事を全て終えたのに、まだ何か残っている感じがするんです」

陰陽師に会うなり、そう青年は切り出した。

「持病の腎臓かわかりませんが、原因不明の腰痛が続いているのですが・・・』

「それは辛そうじゃな。どれ、鑑定してみよう」

目を閉じて指を小刻みに動かし、鑑定を始める陰陽師。そんな陰陽師を青年は固唾を飲んで見守った。やがて陰陽師が口を開いた。

「どうやらそなたの母方の曽祖父が地縛霊化しておるようじゃな。そしてそれがそなたの腰に影響を与えている」

『でも先祖霊の神事で、僕に憑いていたご先祖様は全員救霊されたのではなかったんですか?』

「霊脈の先祖という意味ではたしかにそうじゃ」

「霊脈の先祖でしょうか」

「そうじゃ。一口に先祖と言っても、子孫に受け継がれる先祖には、血脈と霊脈の二つがある」 

『血脈は両親から受け継いだ体だと思いますが、もうひとつの霊脈は別なのですか?』

「そうじゃ」

陰陽師が小さく頷く。

「ところで、そなたは何人兄弟かの?」

『4人兄弟です。姉が二人と兄が一人います』

「説明するのにちょうどいい人数じゃな。家族の名前を教えてくれんか?」

青年は簡単な家系図を書き、両親と兄弟の名前を伝えた。

「そなたの家族の魂の階級は“3:ビジネスマン”と“4:ブルーカラー”の二つに別れておる」

『えっ、両親なのに、魂の階級が異なるなどということがあるんですか?』

「そうじゃ。例えば、父親の魂の階級が“3:ビジネスマン”で、母親の魂の階級が“4:ブルーカラー”である場合、血液型のように3と4の魂の子供が生まれてくる可能性が極めて高い」

『そうなのですね・・・。我が家の場合、両親が3と4なのでしょうか?』

「そなたの家族は少し特殊じゃな。そなたの姉一人を除いて5人が“3:ビジネスマン”階級となる」

『両親が二人とも階級が3なのに、姉は4なのですね。不思議です』

「隔世遺伝という言葉があるように、霊脈にも隔世遺伝が存在する。つまり、そなたの祖父母か曽祖父母に階級が4の人がいたわけじゃな」

『そういうことでしたか。つまり、僕に地縛霊化して憑いている母方の曽祖父は、霊脈ではなく、血脈の方なのですね』

「そういうことじゃ」

『母方の曽祖父が血脈つまり僕の霊脈でないということは、唯一階級が4である姉の霊脈になり、本来は姉に憑くはずでは?』

「それはじゃな、“霊媒体質”の強さが関係してくるので一概には断定できん。霊媒体質は先日話した“霊感”とほぼ同義と思っていい。確かにそなたの母方の曽祖父はそなたの姉の霊脈なのじゃが、姉よりもそなたの方が“霊媒体質”が強い場合にはそなたにかかることになる」

『“霊媒体質”が強いと地縛霊が寄ってくるし、いつの間にか他者の念を拾って心身が不調になったりするのであれば、それは長所というよりも短所なんじゃないかと思えてきてしまいますが』

「そう捉えることもできるが、ものは考えようということもできる」

「そうでしょうか。たとえばどのような?」

「そうじゃな、たとえば虫の知らせのように、よくないことを事前に感じ取って回避しやすいというメリットもある」

『おっしゃる通り。一長一短とは正にこのことですね』

青年は納得顔で頷いた。

「それにじゃ。そなたに“霊媒体質”があるおかげで地縛霊化した先祖はそなたを通じてワシと縁が持て、その結果あの世に帰還できるわけじゃが、仮にそなたの母方の曽祖父が地縛霊化したとして、子孫の全員が魂の属性が7すなわち“霊媒体質”でなかったらどうなると思う?」

「さあ、どうなってしまうのでしょうか?」

「直近の家族に魂の属性3の人間がいない場合どうなってしまうか以前説明したのじゃが、覚えておるかな?」

『たしか、かかる子孫がいない場合、縁がある土地に憑いてしまうんでしたよね。ということは、この広い地球上で“カミゴト”ができる霊能力者がその土地を訪れる機会なんてほとんどないわけですから、よほど運がよくなければその先祖はほぼ永久に地縛霊のままなのですね・・・』

「まあ、そういうことになるな。魂の属性が7の人物が魂の属性が3の人物と結婚し、魂の属性が3の子孫が産まれてようやくかかることができるわけじゃが、その場合、一斉に地縛霊化した先祖たちがその子孫に集まってくることになるので、その子孫が受ける霊障は必然的にきついものとなってしまう」

『魂の属性が3の子孫が現れるのが後の世代になる分、各世代分のご先祖様が押し寄せてくるわけなのですね』

「そのとおりじゃ。そなたのような“霊媒体質”持ちの人にとっては迷惑かもしれんが、地縛霊の立場から考えれば、こうしてワシの所にきて救霊する機会を与えてくれるそなたは、正に千載一遇の恩人というとこになるわけじゃ」

『そうなのですね。自覚はありませんが、いずれにしてもご先祖様のためになっているのであれば、それはそれで嬉しいです』

「同じ両親から産まれた子なのに性格などが兄弟で全然違う、というのは血脈が同じでも霊脈がそれぞれ異なるからなのじゃよ」

『我が家では姉だけが浮いているのがこれで納得できた気がします。では、地縛霊化している母方の曽祖父の救霊をお願いできますか?』

「あいわかった。神事が終わったらすぐに連絡しよう」

青年は深々と頭を下げ、退室した。胸が熱くなり、涙が溢れそうになったのは母方の曽祖父への想いからだろうか。




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