最近では、動画編集の現場でも生成AIの利用が当たり前になりつつあります。
例えば、
・AIによる字幕生成
・AIによるBGMや効果音の生成
・生成AIによる画像・映像素材の作成
・AIによるカット編集
・ナレーションのAI音声化
・生成AIを使ったエフェクトや背景の作成
などです。
では、フリーランスの動画編集者が企業から仕事を受注し、AIを使って一本の動画を完成させた場合、その動画の著作権は誰に帰属するのでしょうか。
「お金を払った発注者のもの」と考えてしまいそうですが、必ずしもそうではありません。
「発注した=著作権も取得した」ではない
著作権法上、原則として著作権は著作物を創作した著作者に発生します。
したがって、動画編集者が自ら構成を考え、映像の選択、カット、テロップ、演出、BGM、エフェクトなどに創作的な工夫を加えて動画を制作したのであれば、その創作部分について動画編集者側に著作権が発生する可能性があります。
つまり、発注者が制作代金を支払っただけで、当然にすべての著作権が発注者へ移転するわけではありません。
これは動画制作を外注するときに非常に重要なポイントです。
では「AIが作った部分」は誰のもの?
ここがAI動画編集特有の問題です。
文化庁は、AIが自律的に生成したものについては、人間の「思想又は感情を創作的に表現したもの」とはいえず、著作物に該当しない場合があるとの考え方を示しています。
一方、人間が創作意図を持ち、AIを道具として利用しながら創作的な寄与を行った場合には、AIを利用して制作したものであっても著作物となり、AI利用者が著作者となる可能性があります。
つまり、
「AIを使ったかどうか」
だけで決まるわけではありません。
「人間がどこまで創作に関与したのか」
が重要になります。
例えば「30秒の広告動画を作って」と入力して、ほぼAIが自動生成した動画と、編集者が何度も指示を出し、素材を選択し、構成を変更し、カットを調整し、AI生成映像を組み合わせて一本の作品に仕上げた場合とでは、著作権法上の評価が異なる可能性があります。
文化庁も、人の「創作意図」と「創作的寄与」の有無を、AIを利用した生成過程全体から判断するという考え方を示しています。
さらに厄介なのが「元動画」
例えば発注者が撮影済みの動画を編集者に渡して、
「この素材をYouTube用に編集してください」
と依頼したケースです。
この場合、編集者が受け取った元動画について存在する著作権と、編集によって新たに加えられた創作的部分についての権利は、分けて考える必要があります。
編集によって新たな創作性が付加されれば、二次的著作物などの問題も生じ得ます。著作権法27条は著作者に翻案権等を認め、28条は二次的著作物の利用について原著作者にも一定の権利を認めています。
つまり、
「完成した動画は誰のものですか?」
という一言だけでは整理できないのです。
元動画、写真、イラスト、BGM、AI生成素材、ナレーション、編集部分など、それぞれについて権利関係を確認する必要があります。
だからこそ契約書で決めておく
AIを利用した動画編集業務では、制作を開始する前に契約書で著作権について整理しておくことが重要です。
例えば、
・完成動画の著作権を発注者へ譲渡するのか
・編集者に著作権を残して利用許諾するのか
・AI生成素材を使用できるのか
・どのAIサービスを利用できるのか
・第三者の素材を利用する場合、誰が権利処理をするのか
・著作権法27条・28条の権利まで譲渡対象とするのか
・著作者人格権を行使しない取り決めをするのか
・編集者が制作実績として動画を公開できるのか
といった点です。
特に「著作権を譲渡する」とだけ書けば十分とは限りません。
著作権法61条2項では、著作権譲渡契約において27条・28条の権利が譲渡の目的として特掲されていない場合、これらの権利は譲渡人に留保されたものと推定するとされています。
AI時代だからこそ「誰が作ったのか」が難しくなる
従来の動画制作であれば、「カメラマンが撮影し、編集者が編集する」というように、人間の役割が比較的分かりやすいものでした。
ところが生成AIが入ってくると、
「人間が作った部分」
「AIが生成した部分」
「既存素材を加工した部分」
「発注者が提供した部分」
が一本の動画の中に混在します。
AIが便利になればなるほど、完成物の権利関係はむしろ複雑になる可能性があります。
「AIで作ったから著作権は問題ない」
という考え方は危険です。
むしろAIを業務で利用するのであれば、誰がどの素材を準備し、誰がどのように制作し、完成物を誰がどこまで利用できるのかを契約段階で明確にしておくことが重要です。
動画編集の仕事は、もはや単なる「編集作業」ではありません。
AIが制作工程に入る時代だからこそ、「成果物の権利をどう設計するのか」まで含めて契約を考える必要があります。
南本町行政書士事務所 特定行政書士 西本