アニメ、漫画、ゲーム、映像、音楽、キャラクター、写真、デザイン、電子書籍など、日本で制作されたコンテンツを海外で販売・配信する機会が増えています。
しかし、コンテンツの海外展開では、単純に「商品を海外へ売る」という発想だけでは十分ではありません。
なぜなら、コンテンツ取引の中心にあるのは、物そのものではなく、**著作権その他の知的財産権を誰が、どの国で、どのような方法で利用できるのか**という問題だからです。
そのため、海外事業者との契約では、通常の売買契約以上に権利関係を細かく設計する必要があります。
1.そもそも何を「輸出」するのか
最初に整理したいのが、取引の対象です。
例えば、日本企業が制作したアニメを海外企業に提供するとしても、
・完成した映像データを販売する
・海外での配信権を許諾する
・テレビ放送権を許諾する
・翻訳・吹替版の制作を認める
・キャラクターの商品化を認める
・原作を利用したリメイクを認める
といった取引では、契約内容が大きく異なります。
したがって、「コンテンツを提供する」とだけ規定するのではなく、**相手方に何を認め、何を認めないのかを具体的に契約書へ落とし込むこと**が重要です。
2.著作権を譲渡するのか、利用許諾するのか
特に重要なのが、著作権そのものを譲渡するのか、それとも一定範囲で利用を許諾するだけなのかという点です。
海外展開だからといって、必ずしも著作権そのものを相手方へ譲渡する必要はありません。
例えば、
「日本企業に著作権を残したまま、米国内における5年間の配信権だけを海外企業へ許諾する」
という契約も可能です。
利用許諾方式を採用する場合には、
対象となる著作物、利用方法、利用地域、契約期間、独占・非独占、再許諾の可否
などを明確にしておく必要があります。
「海外で自由に利用できる」といった広すぎる表現は、後になって想定外の利用をされる原因となります。
3.対象地域を明確にする
海外展開では「Territory(地域)」の設定も重要です。
例えば、
・アメリカ国内のみ
・EU加盟国
・アジア地域
・全世界
では、ライセンスの価値がまったく異なります。
特にインターネット配信では注意が必要です。
契約上は「アメリカ限定」としていても、実際には世界中からアクセスできる状態になっていれば、地域制限を設けた意味が薄れてしまいます。
必要に応じて、ジオブロッキングその他の地域制限措置についても検討します。
4.翻訳・吹替・改変をどこまで認めるか
コンテンツの海外展開では、翻訳やローカライズが必要になることがあります。
しかし、翻訳を認めることと、作品内容を自由に変更することは別問題です。
そこで、
「翻訳は可能」
「吹替版の制作は可能」
「タイトル変更には事前承諾が必要」
「キャラクターデザインの変更は禁止」
「ストーリーの改変には権利者の書面承諾が必要」
など、許容される変更の範囲を契約上整理しておくことが考えられます。
海外市場向けのローカライズを認めながら、原作品のブランド価値を守る。このバランスが重要になります。
5.ロイヤリティの計算方法
コンテンツの海外ライセンスでは、対価としてロイヤリティ方式が採用されることがあります。
ここで問題になるのが、
「売上の○%」の『売上』とは何を意味するのか
という点です。
例えば100万ドルの売上が発生しても、
広告費、プラットフォーム手数料、翻訳費、決済手数料、税金などを控除してからロイヤリティを計算できる契約になっていれば、日本側が想定していた金額を受け取れない可能性があります。
そのため、
・Gross RevenueなのかNet Revenueなのか
・何を控除できるのか
・ロイヤリティ率
・最低保証額(Minimum Guarantee)
・支払時期
・使用通貨
・為替レート
・送金手数料
・源泉税等の取扱い
などを具体的に定めておくことが重要です。
6.売上報告と監査権
ロイヤリティ契約では、海外事業者から提出される売上報告を前提として支払額を計算する場合があります。
そこで問題になるのが、
「その数字が正しいことを、どう確認するのか」
という点です。
契約書には、
・定期的な売上報告義務
・販売数量や販売地域の報告
・帳簿・取引記録の保存義務
・権利者による監査権
・過少申告が判明した場合の費用負担
などを規定することが考えられます。
ロイヤリティ率だけを細かく決めても、その計算根拠を確認できなければ十分とはいえません。
7.再許諾を認めるか
海外企業が取得したコンテンツを、さらに現地の配信会社、テレビ局、出版社などへ提供することがあります。
この場合に問題になるのが「サブライセンス」です。
無制限に再許諾を認めてしまうと、日本側が把握していない事業者へコンテンツが広がっていく可能性があります。
そこで、
「事前承諾を必要とする」
「一定の関連会社への再許諾のみ認める」
「再許諾先にも本契約と同等の義務を負わせる」
などの方法が考えられます。
8.第三者の権利処理
コンテンツには、一つの著作権だけが存在するとは限りません。
映像作品であれば、
音楽、脚本、写真、イラスト、出演者の肖像、商標、原作など、多数の権利が関係する可能性があります。
そのため、日本側が海外利用を許諾する前に、そもそも海外利用まで許諾できる権利を取得しているのかを確認する必要があります。
「日本国内で使用する権利は取得しているが、海外利用までは許諾されていなかった」というケースも考えられます。
海外企業から権利保証を要求された場合、国内での権利処理が不十分だと、大きなリスクになります。
9.海賊版・無断利用への対応
コンテンツの海外展開では、違法コピーや海賊版への対応も無視できません。
契約書では、
・違法利用を発見した場合の通知義務
・削除申請を誰が行うか
・訴訟その他の権利行使を誰が担当するか
・費用を誰が負担するか
・損害賠償金等をどのように配分するか
などを検討することがあります。
特に独占的ライセンスを設定する場合には、侵害行為への対応主体を明確にしておくことが重要です。
10.準拠法と紛争解決
国際契約では、トラブルが発生したときに、
「どこの国の法律を適用するのか」
という問題が発生します。
そこで契約書には準拠法を定めます。
例えば、
「本契約は日本法を準拠法とする。」
という規定です。
さらに重要なのが紛争解決方法です。
日本の裁判所を専属的合意管轄裁判所とする方法のほか、国際仲裁を利用する方法などもあります。
相手方が海外企業の場合、「裁判に勝てるか」だけではなく、**判決や仲裁判断を相手国で実際に執行できるのか**まで考えて契約を設計する必要があります。
11.契約終了後のコンテンツをどうするか
意外に見落とされるのが契約終了後です。
例えばライセンス契約が終了しても、
海外企業のサーバーにデータが残っている、販売ページが残っている、SNS広告が継続している、再許諾先が利用を続けている、
ということが考えられます。
そのため、
・利用停止期限
・コンテンツデータの削除
・在庫商品の販売可能期間
・広告物の撤去
・再許諾先への利用停止措置
・契約終了後の売上報告
などについても定めておくことが重要です。
まとめ
コンテンツ輸出契約では、単純に「コンテンツを海外企業へ提供する」というだけでは十分ではありません。
重要なのは、
「誰に、どの国で、いつまで、どの方法で、どこまで利用させるのか」
を明確にすることです。
特に、
・著作権の譲渡か利用許諾か
・利用地域
・利用期間
・独占性
・翻訳、改変、ローカライズ
・サブライセンス
・ロイヤリティ
・売上報告、監査
・第三者の権利処理
・海賊版への対応
・準拠法
・裁判管轄、国際仲裁
・契約終了後の処理
などは慎重に検討する必要があります。
コンテンツビジネスでは、作品そのものに価値があります。
だからこそ海外展開では、単に「売るための契約書」ではなく、コンテンツの価値を守りながら海外市場へ展開するための契約書という視点が重要になります。
海外企業とのコンテンツ取引を予定している場合には、実際のビジネスモデル、対象国、利用方法、収益構造を整理したうえで、その取引に適した契約内容を検討することが大切です。
南本町行政書士事務所 特定行政書士 西本