【サンプル小説 サイコホラー】硝子越しの金魚
彼女は硝子越しに見る金魚のようだった。ひらひらとしたその尾鰭を揺らし、優雅に泳ぐ。人の目を惹くその金魚は、一体誰のものなのだろう。
そもそも、金魚は観賞魚だ。見られるためだけに生まれた、人工的な生き物。そうであるならば、やはり、生かすも殺すも、人間の手でなければいけない。
彼女が金魚ならば、人間の僕が……。
僕の可愛い金魚。僕だけの、可愛い、美しい、金魚。硝子越しではなく、いつか、僕の手の中で死ぬまでずっと一緒にいてやろう。
こつん、こつん……と、爪で透明な硝子を叩く。
「おーい、行って来るよ」
僕はぼそっと声を掛けた。しかし相手は何も言わない。それはそうだろう。相手は金魚なのだから。
玄関先で靴を履き、鞄を持って扉を開ける。外の日差しが目に入り、少し痛みを感じた。
「今日も暑いな」などと呟いて、鍵を閉める。鍵が掛かった音がすると、僕はドアノブを握って本当に開かないか、鍵は閉まったのかと確かめる。
ガチャガチャと耳障りな音がして、ようやく鍵がしっかり掛かっていると確認し、問題ないとわかると僕は胸をほっと撫で下ろして歩き始めた。
今日は得意先をいくつか回らなければならない。時間を無駄に出来ないのだ。
そんなことを思いながら、いつものように近所のコンビニに入り、新聞を一部と弁当を一つ買った。
「ありがとうございましたー」
店員の気の抜けるような声を背に、目の前の横断歩道を渡る。チカチカと信号が点滅しているが、信号が赤に変わるまでには渡り切るだろう。そう思って歩いていると、右側から来た大きなものが僕の体を宙へと投げ、いつもの静かな朝は一変したのだった。
女性の
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