『やさしさ迷惑6/100』
第6話「確認します」と言える人14時の五分前。会議室の空気は、静かなのに落ち着かなかった。資料は一応そろった。新規案、比較表、社内説明用の要約、参考事例一枚。そろっただけだ。完璧とは、とても言えない。中村優作はノートPCの画面を見ながら、指先を一度だけ握る。隣では美月が最後のページを確認していた。真壁はいつもより口数が少ない。後ろから、桐谷が低い声で言う。「優作」「……ん?」「完璧にやるより、今日は逃げない方が大事だぞ」優作は少しだけ息を止めたあと、苦笑した。「そういう時だけ、いいこと言うな」「そういう時しか言わないからな」冗談のはずなのに、少しだけ救われた。モニターに、田辺の顔が映る。その横に、役員らしい男性が一人。画面越しでも、空気が少し固い。「本日はお時間ありがとうございます」優作が頭を下げる。田辺は短く会釈したあと、淡々と口を開いた。『こちらこそ、再提案のご準備ありがとうございます。今日は内容を見る前に、一点だけ先に確認したいと思っています』会議室の空気が張る。『昨日から今日にかけて認識のズレがありました。その点について、御社としてはどの段階でズレたと見ていらっしゃるか、先に伺えますか』責める声ではなかった。でも、逃がす声でもなかった。真壁が口を開きかける。その前に、優作が言った。「……すみません。そこは僕から話します」自分の声が、少し乾いて聞こえた。田辺がこちらを見る。美月は何も言わない。でも、横で資料を閉じる音がした。優作は一度だけ息を吸った。「今回ズレたのは、資料の作り方より前でした。最初に、“新規リリース起点の提案”なのか、“既存施策の延長整理”なのか、そこを確
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