“整えられた物語”に飲み込まれる?
職員室のドアは、軽い音を立てて閉まった。それだけで、教室とは別の世界に入った気がする。「どうぞ、座って」担任の声は、穏やかだった。凪は、椅子に腰を下ろす。背筋が、自然と伸びる。悠真は、少し後ろに立つ。坂本は、ドアの近くで様子を見ていた。——守られている。でも、代わりに話されるわけじゃない。その距離感が、今はありがたかった。「最近、クラスで」「いろいろあったと聞いています」担任は、凪を見る。「凪自身から、話してもらえる?」凪は、一瞬だけ目を伏せ、すぐに顔を上げた。「……はい」心臓の音が、うるさい。でも。ここで曖昧にしたら、“整えられた物語”に飲み込まれる。「告白されたことは、事実です」「でも、誰かを泣かせる つもりはありませんでした」言葉を選ぶ。責めない。煽らない。「私が返事を迷っていたことが」「噂になったのだと思います」担任は、静かにうなずく。「誰かに、説明を任せた覚えは?」「ありません」凪は、はっきり言った。「代わりに話されることも」「守られる形で広められることも」「望んでいません」悠真の視線を、背中に感じる。——大丈夫。「私は」「自分の言葉で、必要な人に話します」短い沈黙。担任は、ペンを置いた。「……わかりました」その一言で、空気が、少し緩む。「学校としては」「誰かを一方的に 責めるつもりはありません」「ただ」「これ以上、憶測が広がらないよう」「クラスには、事実だけを伝えます」“事実だけ”。凪は、その言葉を胸の中で反芻する。——それで、十分だ。職員室を出ると、夕方の光が、廊下に長く伸びていた。坂本が、小さく息を吐く。「……思ってたより」「ちゃんとしてたな」悠
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