噂で人を傷つけるの、楽しい?
教室の空気が、少しだけ変だった。誰かが見ている。誰かが、話すのをやめる。凪が席についた、その一瞬だけ。——来る。理由はわからないのに、凪の胸はそう告げていた。「ねえ」背後から、女子の声。振り向く前に、教室の視線が一斉に集まるのがわかった。その中心に、自分が立たされている感覚。「三條くんに告白されたんでしょ?」静かな声だった。でも、その一言は、教室の空気を切り裂くには十分すぎた。「なんで、よりによってあの子なの?」別の女子が笑う。笑っているのに、目は笑っていない。「悠真のことも泣かせたらしいじゃん」「可哀想なのは、どっちなの?」凪の頭が、真っ白になる。違う。そんなつもりじゃない。何も、してない。言葉は、喉の奥で凍りついた。「……黙ってるってことは、図星?」誰かが、そう言った。その瞬間だった。椅子が音を立てて引かれる。悠真が立ち上がる。「それ以上、言うな」低い声だった。怒鳴っていないのに、教室が静まり返る。「凪は、何も悪くない」「本人が何も言ってないのに?」「守ってるつもり?」女子の声は、挑発的だった。悠真は、一歩前に出る。「泣いた理由も」「学校に来れなかった理由も」「全部、俺が知ってる」凪は、はっと顔を上げた。知られたくなかった。でも——守られている、と思ってしまった。「噂で人を傷つけるの、楽しい?」その一言で、空気が凍る。先生が入ってくるまで、誰も動けなかった。凪は、気づく。もう、この事件は二人だけの問題じゃない。クラス全体が、この関係を“裁こう”としている。——逃げ場は、もうない。それでも。悠真の背中が、凪の視界から消えなかった。怖い。でも。一人で立たされていない、その事実だ
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