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「うん、それでいいよ」

今日は山へ行こう、と思った。理由はよくわからなかったけれど、心がすこしざわざわしていて、誰かに会うより、自然の中に身を置きたい、そんな気分だった。小さな登山道を、ぽつりぽつりと歩いていく。葉っぱが風にゆれて、カサカサと鳴る音が、やけに心地いい。──ねえ、私はどうしたらいいの?そんな問いが、ふと、心の奥から聞こえてきた。仕事も、人づきあいも、がんばってるつもり。だけど思うようにいかないことばかりで、「これじゃダメなのかな」って、自分を責めてばかりいた。そんなとき、一羽の鳥が目の前の枝に止まった。こちらを気にするでもなく、ただ空を見ている。ああ、この子は、今日が晴れでも、曇りでも、雨でも、きっと「それでいい」って思ってるんだろうな。わたしは、なにかを変えようとばかりしてた。相手を、環境を、自分自身を……でも、この森の木々も、風も、空も、誰も「変わって」なんて言ってこない。そっと立ち止まって、大きな木に手を添える。あたたかくも冷たくもない、ちょうどいい感触。「……ありがとう」声にならない声が、口の奥から出てきた。誰に、ってわけじゃない。でも、自然のすべてが、「うん、それでいいよ」って、見守ってくれている気がした。そういえば、前に読んだ本に、こんな言葉があった。『釈迦の教えは「感謝」だった』苦しみは、思いどおりにしたいと思うところから生まれる。受け容れることが、自分をいちばん楽にしてくれるんだって。それは、まるで自然みたいだ。思いどおりにしようとしない。ただ、いまを受け容れて、生きている。私も、少しだけそんなふうに生きられたらいいな。木々はなにも言わないけれど、風も光も、なにも返しては
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悪魔が嫌うもの、それは心の余白

昨日、机を片づけ、窓を開けただけなのに――それだけのことが、思っていた以上に大きな変化を生んだ。一晩が明けて、主人公は少し軽い気持ちで目を覚ました。もちろん、悪徳裁判官はまだ心の奥に潜んでいる。法服の影をまとい、冷たい声で囁く。「有罪! 昨日片づけたくらいで、何が変わる?一歩踏み出したように見えて、結局は何もしていないだろう」その瞬間、悪魔も姿を現し、笑みを浮かべる。「そうだ、せっかく昨日は揺らいだのに。今日また、私にエサを与えてくれるのだな」けれど――今日は違った。主人公は昨日の夜に感じた「風の心地よさ」を思い出したのだ。小さな行動が確かに自分を救ったことを、体が覚えていた。「たしかに、まだ大きなことは変えられていない。でも、昨日の小さな一歩は、今日の自分に“余白”を残してくれている」彼はまた窓を開けた。昨日と同じ風が吹き込み、けれど今日は、違う景色を映し出していた。近所の子どもたちが笑い声を上げている。朝顔がひっそりと花を開いている。心が外の世界に触れると、不思議と昨日まで気づかなかった「生きているものの気配」に気づくのだ。悪徳裁判官は、しばらく木槌を振り上げたまま黙り込んだ。悪魔もまた、舌打ちをして影に戻っていく。主人公は静かに思う。「気持ちを切り替えようと無理にがんばる必要はない。小さな行動が気持ちを変え、気持ちが視点を変える。そして、その視点の変化が、次の一歩を生む」気づけば、昨日の「机を片づけた」という小さな種は、今日「気づきの芽」として育ち始めていた。──悪徳裁判官は完全には消えないだろう。けれど、沈黙させる方法は確かにある。それは大きな勝利ではなく、日々の小さな
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