絞り込み条件を変更する
検索条件を絞り込む

すべてのカテゴリ

1 件中 1 - 1 件表示
カバー画像

「もうすぐママが帰ってくる…」

雨の音が、ぽつり、ぽつりと屋根を打っていた。夏の夕方。空はまだ明るく、灰色の雲が静かに動いている。小学生の陽太は、リビングでマンガを読んでいた。窓の外では洗濯物が少し濡れ始めているけれど、彼は気づかないふりをしていた。「もうすぐママが帰ってくる…」そう思いながらも、なんとなく腰が重かったのだ。 しばらくして、玄関が開いた音がした。「ただいまー」明るい声。ママが帰ってきた。陽太はドキッとした。洗濯物…そのままだ。リビングに入ってきたママは、窓の外をちらっと見て、濡れた洗濯物を見つけた。でも、怒鳴ることはなかった。ママは、ふっと微笑んで、こう言った。「ねえ、もし陽太が雨に気づいて、洗濯物を取り込んでくれてたら……」少しだけ言葉を止めて、にこっと笑った。「お母さん、きっとすごく嬉しかったな。今日はちょっと濡れちゃったけど、大丈夫。次、もし気づいたら、お願いしてもいい?」陽太は、不思議な気持ちになった。怒られると思っていたのに、怒られなかった。むしろ、「嬉しい未来」を一緒に想像させられた気がした。「……うん、わかった。次はちゃんと見るよ」照れくさそうに言った陽太に、ママは柔らかく頷いた。 その日の夕ご飯は、陽太の大好きなカレーだった。ママがひとこと。「さっきの“ありがとう”ね。言ってくれて、嬉しかったよ」陽太は少しだけ笑って、モグモグとカレーを頬張った。外では、雨が上がり、夕陽が雲の隙間から差し込んでいた。 
0
1 件中 1 - 1