「夢十夜 第一夜」のお話
かの大文豪、夏目漱石の著作に、「夢十夜」という短編集があり、私はそれが大好きだ。
「夢十夜」さえあれば、トマトジュースは何本でも飲める自信がある。
その中でも「第一夜」が特に素晴らしい。
これはラブストーリーで、男と死にゆく女の物語だ。
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女は病に臥せっており、まもなく死んでしまうと言う。
「もう死にます」と女は言う。
とても美しく、血色のいい女は、とても死にそうには見えない。
だが、もう死ぬのだ。
女は言う。
「私が死んだら庭に埋めてください」
「真珠貝で穴を掘って、私を埋めたら、星の欠片を墓標にして、その前で百年、待っていてください。きっと会いに来ます」
男は黙って頷く。
やがて女は死んでしまう。
男は、女の遺体を庭に埋める。
真珠貝で穴を掘るときに、貝の裏側に月の光が反射してきらきらと光った。
星の欠片を墓標にして、男は待った。
太陽が東から昇る。
そして西へ沈んで行った。
ひとつ、と男は数えた。
そうして、数限りない太陽を、男は見送った。
だが、女は来ない。
男が騙されたのではないかと疑い出したそのとき、墓標の下から植物の蔓が伸びてきて、男の胸の前で止まった。
先端から蕾が開き、百合の花が咲いた。
天から一滴の雫が落ちてきて、花弁にあたり、花弁は潤んで香った。
男は百合の花弁に、軽くキスをした。
見上げると、明けかける夜空にひとつ、星が光っていた。
百年はもう来ていたんだな、と、男は思った。
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という話で、とにかく表現が美しいです。
男の胸の前に咲いた百合
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