「担当者が変わるので、引き継ぎ資料を作っておいてください」
貿易事務の現場で、こんな依頼を受けたことはありませんか?
担当している業務を一覧にして、手順を書いて、取引先の連絡先をまとめる。これで引き継ぎは完了。
……のはずなのに、実際に担当者が変わると、
「この場合はどうするんですか?」
「この取引先には、誰に連絡すればいいですか?」
「前はどう対応していましたか?」
と、前任者に質問が続く。
結局、
「資料はあるけれど、仕事が引き継げていない」
という状態になることがあります。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?
引き継ぎ資料は「業務の説明書」になっていない?
引き継ぎ資料を作るとき、多くの場合は、
業務内容
作業手順
使用するシステム
取引先情報
書類の保管場所
などをまとめます。
もちろん、これらは必要な情報です。
ただ、それだけでは十分ではない場合があります。
なぜなら、実際の仕事には、
「なぜ、この作業をするのか」
「この場合は、どう判断するのか」
という情報も含まれているからです。
例えば、
「フォワーダーに出荷依頼をする」
という手順が書かれていても、
「いつまでに依頼するのか」
「何を確認してから依頼するのか」
「スケジュールに間に合わない場合はどうするのか」
までは書かれていないかもしれません。
手順だけでは、実際の業務を進めることが難しいことがあります。
「何をするか」だけではなく「なぜするか」
業務を引き継ぐときに大切なのは、
何をするかだけではありません。
なぜ、それをするのかも重要です。
例えば、「この書類を出荷前に確認する」という手順があったとします。
新しい担当者が、その理由を知らなければ、
「確認することになっているから確認する」という作業になってしまいます。
しかし、
「この書類の内容が間違っていると、その後の通関や輸送に影響する」
と分かっていれば、確認する意味を理解できます。
業務の背景や目的を理解することで、担当者自身が状況を判断できるようになります。
イレギュラー対応は引き継ぎにくい
貿易実務の引き継ぎが難しい理由の一つが、イレギュラー対応です。
通常の業務は、ある程度手順書にできます。
しかし、
急な出荷依頼
船やフライトの変更
書類の不備
貨物の遅延
予定外の依頼
などが起きたとき、対応方法はケースによって変わります。
前任者は、
「この場合は、まずフォワーダーに確認する」
「この取引先には先に連絡しておく」
と判断できても、その判断の基準が資料に残っていなければ、新しい担当者は同じように対応できません。
そのため、
「通常業務はできるけれど、イレギュラーが起きると前任者に聞く」
という状態が続いてしまいます。
引き継ぎ資料を作ることが目的になっていないか
引き継ぎ資料を作ること自体が悪いわけではありません。
むしろ、業務を整理するうえでとても大切です。
ただ、「資料を作ったから引き継ぎ完了」としてしまうと、そこで終わってしまいます。
本当に大切なのは、
新しい担当者が、その資料を見て一人で業務を進められるか
ということです。
そのためには、資料を作った後に実際に使ってみる必要があります。
「この資料だけで分かるか?」
「どこで迷うか?」
「何を追加すれば一人で判断できるか?」
こうした視点で見直すことで、初めて引き継ぎ資料が実務で使えるものになります。
引き継ぎは「情報を渡すこと」ではない
引き継ぎというと、前任者から後任者へ情報を渡すことだと思われがちです。でも、本当の意味での引き継ぎは、
「前任者が持っていた業務の知識や判断を、後任者が使える状態にすること」
ではないでしょうか。
そのためには、
何をするのか
なぜするのか
いつするのか
誰と関わるのか
例外が起きたらどうするのか
まで整理する必要があります。
もちろん、すべてを一度に完璧にまとめる必要はありません。
まずは、今の業務の中で、
「ここは前任者に聞かないと分からない」
という部分を見つけることから始めてもいいと思います。
「引き継ぎ資料」から「業務の見える化」へ
引き継ぎ資料を作ることは、属人化を解消するための一つの手段です。
でも、本当に必要なのは、単に資料を作ることではありません。
「誰が担当しても、必要な情報を確認し、業務を進められる状態」
をつくることです。
そのためには、まず現在の業務がどうなっているのかを整理する必要があります。
誰が、何をしているのか。
どこで判断しているのか。
どこに情報があるのか。
どこで業務が止まりやすいのか。
こうしたことを一つずつ見えるようにしていく。
私は、属人化解消の第一歩は「引き継ぎ資料を作ること」ではなく、
「業務を見える化すること」だと考えています。
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