第14回 曲線から幾何学へ「アール・デコ」
1925年、フランスのパリで「現代産業装飾芸術国際博覧会」が開催されました。世界各国から建築、家具、工芸品、ファッションなどが集められ、新しい時代の暮らしを華やかに紹介した大規模な博覧会です。
この博覧会は、後に「アール・デコ博覧会」とも呼ばれるようになります。そこで見られた洗練された装飾性を持つ芸術やデザインを象徴する言葉として広まったのが、「アール・デコ(Art Deco)」です。
曲線から直線へ
第5回でご紹介したアール・ヌーヴォーと、アール・デコ。この二つは名前が似ているため、混同されることがあります。
しかし、作品を並べてみると、その違いはかなり明確です。
アール・ヌーヴォーが植物のつるや花など、自然から生まれる優雅な曲線を好んだのに対し、アール・デコでは直線や円、三角形、菱形など、幾何学的な形が多く使われました。
自然の形をそのまま装飾へ取り入れるのではなく、形を単純化し、規則的に組み合わせる。アール・ヌーヴォーからアール・デコへの変化を見ると、デザインが次第に現代的な造形へ向かっていく様子がよく分かります。
さまざまな文化を取り込んだデザイン
アール・デコには、一つの明確な源流があるわけではありません。アール・ヌーヴォーの装飾性を受け継ぎながら、立体派、未来派、ロシア構成主義など、当時の新しい芸術運動からも影響を受けました。
さらに、古代エジプトやアフリカ、アジアなど、さまざまな地域や時代の造形も取り入れられていきます。
異なる文化や新しい芸術を自由に組み合わせながら、時代にふさわしい美しさへとつくり変えていく。その柔軟さも、アール・デコの魅力の一つです。
幾何学模様が生み出す華やかさ
アール・デコでは、六角形や八角形、円、楕円、三角形、菱形などの幾何学模様が好んで使われました。ジグザグ状の線や放射状に広がる形、左右対称の構成などもよく見られます。
興味深いのは、形そのものは単純なのに、決して地味には見えないことです。
規則的な形を繰り返したり、金属やガラスなどの素材と組み合わせたりすることで、都会的で華やかな印象が生まれます。アール・ヌーヴォーとはまったく違う方法で、装飾の美しさを追求したのです。
ポスターからファッション、家具、建築まで
アール・デコは、一つの分野だけにとどまるものではありませんでした。
家具ではジャック=エミール・リュールマン、建築や家具ではアイリーン・グレイ、グラフィックデザインではアドルフ・ムーロン・カッサンドル、ファッションではポール・ポワレなど、多くのデザイナーが新しい時代の表現を生み出しました。
特にカッサンドルのポスターは、乗り物や建築物などを大胆な幾何学的構成へと変換した作品で知られています。広告でありながら、一枚の絵としても強い存在感を持っています。
家具、ファッション、ジュエリー、ポスター、建築。アール・デコは生活のさまざまな場所へ広がり、1920年代から30年代を象徴するデザインとなっていきました。
今でも感じる「アール・デコらしさ」
映画館やホテルの内装、ジュエリー、香水のボトル、ポスターなどを見て、「少しレトロなのに、どこか都会的」と感じることがあります。
そこに左右対称の構成や放射状の線、幾何学模様、金属的な質感が使われていれば、アール・デコの影響が隠れているかもしれません。
100年ほど前の様式でありながら、アール・デコが現在でも新鮮に感じられるのは、装飾的でありながら形が整理されているからでしょう。華やかさと現代性が、絶妙なバランスで共存しているのです。
おわりに
アール・ヌーヴォーが自然の曲線から美しさを見つけたのに対し、アール・デコは幾何学的な形の中に、新しい時代の美しさを見つけました。
デザインの歴史は、前の時代をすべて捨てて進んでいくわけではありません。受け継ぐものがあり、反発するものがあり、さらに異なる文化や技術が加わることで、新しい表現が生まれます。
アール・デコの華やかな幾何学模様には、まさに1920年代という新しい時代を生きようとした人々の気分が映し出されているのです。
【参考資料】
アール・デコの図案や作品画像を含む、より詳しい参考資料については、私が別途まとめている記事でもご紹介しています。
ココナラの仕様上、この場で具体的なURLは記載できませんが、検索エンジンで「増田恵一デザインブログ」などと検索すると、関連する記事が見つかりやすくなります。