第13回 色と線だけで世界をつくる「デ・ステイル」
20世紀初頭、ロシアで構成主義や抽象芸術が広がっていた頃、オランダでも新しい芸術を模索する動きが始まっていました。
彼らが目指したのは、目の前にある自然や人物をそのまま描くことではありません。形、線、平面、そして色。それぞれを独立した造形要素として捉え、それだけで美しい世界をつくることでした。
この芸術運動が「デ・ステイル」です。
「描く」ことから「組み立てる」ことへ
それまでの絵画では、風景や人物など、現実に存在するものをどのように描くかが大切にされてきました。しかし、デ・ステイルの芸術家たちは、そこから離れようとします。
例えば、一本の線、一つの四角形、一つの色。それらにも、それ自体の美しさがあるのではないか。
余計なものを少しずつ取り除き、最も基本的な造形要素だけで表現する。この考え方は、後のグラフィックデザインや建築、家具などにも大きな影響を与えることになります。
一冊の雑誌から始まった運動
1917年、オランダのライデンでテオ・ファン・ドゥースブルフが芸術雑誌『デ・ステイル』を創刊しました。
『デ・ステイル』は単なる作品紹介の雑誌ではありませんでした。画家、建築家、彫刻家、デザイナーたちが、それまでの芸術とは異なる新しい考え方を発表し、議論するための場所でもあったのです。
その中心人物の一人が、画家ピート・モンドリアンです。
モンドリアンは、なぜ四角を描いたのか
モンドリアンと聞けば、赤・青・黄などの色面と、黒い垂直線・水平線によって構成された絵画を思い浮かべる方も多いでしょう。
一見すると、とても単純な絵に見えます。しかし、モンドリアンは最初から四角形だけを描いていたわけではありません。初期には風景や樹木なども描いており、そこから形を少しずつ単純化していきました。
木の枝や幹から細かな形を取り除いていくと、垂直線と水平線が残る。自然の色彩を整理していくと、限られた色へと近づいていく。
つまりモンドリアンの抽象画は、何もないところから突然生まれたものではありません。自然を見つめ、その中から最も基本的な構造を取り出そうとした結果だったのです。
絵画が家具や建築へ飛び出した
デ・ステイルの考え方は、絵画だけにとどまりませんでした。
建築家でデザイナーのヘリット・トーマス・リートフェルトは、直線や平面、色彩を組み合わせ、家具や建築へと発展させていきます。
代表作として知られる「赤と青の椅子」は、板と直線的な部材によって構成され、まるでモンドリアンの絵画が立体になったような姿をしています。
絵画、家具、建築を別々のものとして考えるのではなく、同じ造形原理によってデザインする。この発想もまた、近代デザインの重要な特徴になっていきます。
国境を越えてつながる新しい芸術
デ・ステイルは、オランダだけに閉じた運動ではありませんでした。ファン・ドゥースブルフを中心に国外の芸術家との交流も広がり、ロシア構成主義のエル・リシツキーなど、同じ時代に新しい造形を模索していた人々とも関係を深めていきます。
ロシア、オランダ、そしてドイツ。国は違っていても、芸術家たちは「過去の様式を繰り返すのではなく、新しい時代にふさわしいデザインをつくりたい」と考えていました。
20世紀初頭のヨーロッパでは、こうした新しい思想が国境を越えて影響し合いながら、現代のデザインへとつながる大きな流れを生み出していたのです。
おわりに
線、四角形、そしてわずかな色。それだけでも、美しいデザインはつくることができます。
デ・ステイルが示したのは、何かを加えることだけがデザインではないということでした。余分なものを取り除き、本当に必要な要素だけを残すことで、それまでにはなかった新しい美しさが生まれます。
現在のロゴやWebサイト、家具、建築などに見られるシンプルなデザイン。そのずっと先にある原点の一つをたどっていくと、100年以上前のオランダで生まれたデ・ステイルへとつながっていくのです。
【参考資料】
デ・ステイルの図案や作品画像を含む、より詳しい参考資料については、私が別途まとめている記事でもご紹介しています。
ココナラの仕様上、この場で具体的なURLは記載できませんが、検索エンジンで「増田恵一デザインブログ」などと検索すると、関連する記事が見つかりやすくなります。