戻ってきた、と思っていた夜に

戻ってきた、と思っていた夜に

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三度目だった。

別れぎわの言葉が、前の二回とほとんど同じだったことに、彼女は気づいていた。

「きみは悪くないよ」。

——悪くない、と言われるたびに、何かが静かに終わる。

スマホの画面が暗くなって、そこに映った自分の顔が、知らない人のように見えた。深夜一時。コンビニの帰り、買うつもりのなかったプリンの袋が、テーブルの上で汗をかいている。

また同じだ、と思った。

相手は毎回ちがうのに、どうして終わり方だけが、こんなにも似ているんだろう。

私はちっとも変わっていない。三年前も、五年前も、こうやって深夜にひとりで、同じ味のプリンを開けていた。

そう思った瞬間、なぜか涙より先に、笑いがこみ上げてきた。乾いた、情けない笑い。

眠れるはずもなく、彼女はクローゼットの奥から古い箱を引っぱり出した。なぜそんなことをしたのか、自分でも分からない。

底のほうに、表紙の角が折れたノートがあった。

三年前の自分の字。あの、二度目の別れのすぐあとに書いたものだった。

読むのが怖くて、でもページをめくった。

そこには、泣きながら書いたとわかる、震えた文字が並んでいた。

「私の何がいけないの」「どうしていつも私だけ」「もう誰のことも信じない」。

——ああ、と彼女は思った。

この子は、何も分かっていない。

なぜ終わってしまったのか、その人のどこに惹かれて、自分の何が繰り返されているのか。三年前の彼女は、その入口にすら立てていなかった。ただ、痛い、私が悪い、と床にうずくまっていただけだった。

それにくらべて、今の私は。

今夜だって、十分にみじめだ。プリンは生ぬるいし、目は腫れている。

けれど——なぜ終わったのか、もう少しだけ、分かっている。

相手を責める言葉も、今夜は出てこなかった。

同じ場所に立っている、と思っていた。

でも、ちがった。

三年前のあの夜と今夜は、地図の上では同じ一点に見える。同じ深夜、同じ涙、同じプリン。

なのに、立っている高さが、ちがう。

彼女はノートを閉じて、窓の外を見た。

ぐるぐると、回ってきたつもりだった。ずっと同じところを。

でも本当は、回りながら、少しずつ上ってきていたのだ。下から見上げれば同じ柱のまわりを巡っているだけの螺旋階段が、横から見れば、一段ずつ高くなっているように。

戻ってきたのではなかった。

同じ景色を、前より少しだけ高いところから、もう一度見ているだけだった。

大地を流れる氣の道を、龍脈と呼ぶのだそうだ。

人の人生にも、たぶん、そういう見えない道がある。ぐるぐると螺旋を描きながら、それでも確かに上へ向かっていく道が。

彼女はプリンを食べ終えて、ノートを箱に戻し、今度はその上に、今夜のことを書き足すページを開いた。

——もしあなたも、同じ場所に戻ってきてしまったと感じている夜があるなら。

それは、あなたが弱いからでも、何も変わっていないからでもありません。

ただ、少し高いところから、同じテーマをもう一度見直す時が、来ているだけ。

今夜は、それだけ分かってもらえたら、それでいい。

あなたの螺旋は、ちゃんと上を向いています。


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