男性世帯主の「稼ぐ力」が低下? 〜夫一人の給料で家族を養う時代の終焉と、これからの家計戦略〜
近年、FP1級としての相談現場で非常に増えているのが、「一生懸命働いて昇給もしているはずなのに、なぜか家計のやりくりが年々苦しくなっている」という男性世帯主からのご相談です。
かつての日本では、「夫が働き、妻が家事を守り、夫一人の収入で家計と教育資金、老後資金まで賄う」というモデルが当たり前でした。しかし現在、その「男性世帯主一人の稼ぐ力」に依存する家計モデルが大きな構造的限界を迎えています。
今回は、なぜ男性世帯主の稼ぐ力が相対的に低下しているのか、その背景にある現実と、これからの時代を生き抜くための新しい家計戦略について解説します。
【現場のエピソード】
「年収は上がったのに、貯金が増えません」
先日、40代半ばの会社員(B様)がご相談に来られました。大手メーカーで中間管理職を務めており、年収は750万円ほど。一般的には恵まれた収入レベルに見えます。
しかし、B様の表情は暗いものでした。
「30代前半の頃に比べて年収は150万円ほど増えました。しかし、税金や社会保険料が引き上げられ、手取り額は思ったほど増えていません。その上、近年の物価高や子どもの塾代・教育費が重くのしかかり、毎月の預金残高はほとんど増えないどころか、ボーナスでなんとか穴埋めしている状態です。『俺がしっかり稼いで家族を養わなければ』と頑張ってきましたが、もう限界を感じています……」
B様のように、「個人の努力で給料を増やしても、それ以上のスピードで支出や負担が増えていく」という疲弊感を抱えている世帯主は決して少なくありません。
お話を聞いている私も、「本当におっしゃる通りだな……」と深く頷いてしまいました。一人の昇給額では追い付かない世界になってきているのです。
特に最近は、過去3年間で消費者物価指数(総合)が前年比2%〜3%台の高い水準で上昇し続けており、累積では約7〜8%近くも物価が上がっている状況です(※参照:総務省統計局「消費者物価指数(CPI)全国結果」より)。食料品や日用品、光熱費をはじめ、生活に関わるあらゆるコストが目に見えて上昇しています。
こうした物価高のなかで、仮に定期昇給やベースアップで月給が2万円増えたとしても、税金や社会保険料が引かれるため、手取りの増加は1万6,000円程度。年間で計算しても約20万円ほどの増加にとどまります。
一方で、子育て世代に重くのしかかる教育費も値上がりが続いています。総務省の消費者物価指数(品目別)データを見ると、塾や予備校などの月謝が含まれる「補習教育」の費用は地域や時期によって前年比5%〜10%近く上昇しているケースもあり(※参照:総務省統計局「消費者物価指数 品目別価格動向」より)、学習参考書や教材費などの関連費用も軒並み値上がりしています。
月給が2万円上がるというのは、相当な大手企業でベースアップがあってようやく実現するような「非常に恵まれたケース」です。そうした最高の想定であっても家計の不足感がぬぐえないのですから、もはや「男性世帯主のみに昇給があり、妻はパート勤務」という従来のモデルでは、構造的に無理が生じる時代になっています。
さて、なぜこうした事態に陥っているのか、理由を改めて整理してみましょう。
なぜ男性世帯主の「稼ぐ力」は低下しているのか?
男性世帯主の稼ぐ力が低下しているように感じる背景には、個人の能力や努力不足ではなく、日本社会全体の構造変化があります。主な要因は以下の3つです。
1. 額面給与が増えても増えない「手取り額(可処分所得)」
給料が上がっても、社会保険料率の上昇や各種控除の縮小などにより、手取り(可処分所得)の割合は年々減少傾向にあります。「額面年収は増えたのに手取りが伸びない」という構造が、世帯主の経済的なゆとりを直接奪っています。
2. 「物価高(インフレ)」による実質賃金の押し下げ
長年続いたデフレ期が終わりインフレ期に突入したことで、生活必需品や教育費、光熱費が軒並み値上がりしています。たとえ数パーセントの昇給があったとしても、物価の上昇率に追いつかなければ、実質的な「買える力(購買力)」は低下していることになります。
3. 年功序列の終焉と「役職定年」の足音
かつてのように「長く勤めれば自動的に右肩上がりで給料が増え続ける」仕組みは過去のものとなりました。多くの企業で役職定年が50代前半〜半ばに設定されており、ある時期を境に給料が大きくダウンするリスクが現実味を帯びています。
これからの時代を生き抜く「世帯全体の稼ぐ力」を高める3つの戦略
「夫一人の力で家族全員を支える」という旧来のモデルから脱却し、家計の構造そのものをアップデートする必要があります。FP1級として提案したい具体策は以下の通りです。
1. パートナー(妻)の「稼ぐ力」の最大化(共働き化とキャリア支援)
世帯主一人にかかる重圧を分散する最も確実な方法は、パートナーの収入を増やすことです。いわゆる「年収の壁」を意識しすぎて働き方をセーブするのではなく、世帯全体の「手取り最大化」を目指して、正社員化や社会保険加入を見据えた働き方へシフトすることが効果的です。
2. 「お金にも働いてもらう」仕組みの構築(資産形成)
「自分が働いて稼ぐ力(労働収入)」だけに頼るのではなく、新NISA制度などをフル活用し、「資産が生み出す力(運用益)」を家計の第2・第3の収入源として育てることが不可欠です。長期・積立・分散投資により、インフレによる資産価値の目減りを防ぎます。
3. 固定費の血の入れ替えとリスク管理
給料を急に10万円増やすことは困難ですが、支出(固定費)を適切に見直すことは今すぐ可能です。通信費や保険、住居費などの見直しを行い、浮いた資金を投資や教育費へ回します。また、万が一世帯主が倒れた際のリスクに備え、必要十分な保障(就業不能保険や収入保障保険など)を最適化しておくことも重要です。
「一人で背負わない」ことが、家族の笑顔を守る
「自分が家族を養わなければならない」という強い責任感を持つこと自体は素晴らしいことです。しかし、時代が大きく変化した今、その責任感を一人で背負い続けることは、世帯主自身の心身の健康や家計の持続可能性を脅かすリスクになりかねません。
「男性世帯主の稼ぐ力」だけに頼る時代は終わりました。これからは、夫婦で話し合い、「世帯全体の稼ぐ力」と「守る力」をチームとして高めていく時代です。
現状の家計に違和感や不安を感じたら、まずは夫婦でお金や将来のライフプランについてオープンに話し合うことから始めてみませんか。FP1級として、ご家庭ごとの最適なチーム家計づくりをこれからも全力でサポートしてまいります。
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