認知症とともに生きる—本人の気持ちと、職場でできる支え

認知症とともに生きる—本人の気持ちと、職場でできる支え

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「認知症になったら、何もできなくなるのだろうか」

診断を受けたとき、これからの暮らしや仕事を思って不安になる人がいます。気になっていた変化の理由がわかり、ほっとする人もいます。驚き、戸惑い、悔しさ、安心、希望。その気持ちは一つではなく、時間や状況によっても変わります。

認知症とともに生きるとは、病気の影響だけを抱えて暮らすことではありません。できることや大切にしてきた役割を持ち、自分らしい生活を続けようとすることでもあります。この記事では、本人の体験を手がかりに、その気持ちと、職場で周囲にできる支えを考えます。

※本文中の一人称の表現は、複数の公開された体験をもとに再構成したものです。特定の方の発言をそのまま引用したものではありません。

変化に気づき始めた頃—「何かが違う。でも、うまく説明できない」

認知症による変化は、物忘れだけとは限りません。慣れた仕事の段取りが難しくなる、言葉が出てこない、予定や複数の情報を整理しにくくなるなど、日々の活動の中で気づくことがあります。
前と同じようにやっているつもりなのに、うまくいかない。自分でも何が起きているのか説明できない。周りに迷惑をかけてしまうのではないかと思う。

40歳でアルツハイマー病と診断された渡邊雅徳さんは、診断を信じられない気持ちや、職場に迷惑をかけるのではないかという不安を抱えていました。一方で、変化の理由がわかってほっとした面もあったと語っています。仕事を離れた時期を経て、同じ認知症の人との交流をきっかけに、再び働く喜びを感じるようになりました。渡邊雅徳さんの体験

診断を受けることは、本人にとって、これまでの自分やこれからの暮らしを考え直す節目になることがあります。けれど、診断によってその人らしさや、これまで築いてきた力がなくなるわけではありません。

「できなくなったこと」だけで決めつけないでほしい

仕事でミスが増えたり、以前のようにできないことが出てきたりすると、本人は自信を失うことがあります。「仕事を任される人」「家族を支える人」といった役割が揺らぎ、自分が自分でなくなっていくように感じる人もいます。

一方で、本人の体験からは、仕事や人とのつながりが、暮らしの張り合いや自分の力を感じる機会になることも見えてきます。ある人は、長く続けた仕事を辞めた後、デイサービスで働き、「自分にもできることがある」と感じた経験を語っています。下坂淳志さんのインタビュー
できなくなったことだけで、私を決めつけないでほしい。困っていることを聞いて、続けたいことや、今できることも一緒に考えてほしい。

本人たちの「認知症とともに生きる希望宣言」には、できなくなったことだけでなく、できることややりたいことを大切にし、自分の人生の主人公であり続けたいという思いが示されています。認知症とともに生きる希望宣言

昨日できたことが、今日は難しいこともある

認知症の人には、日や時間帯、体調、場所によって、同じことでもできたり難しくなったりする場合があります。疲れ、睡眠不足、痛み、聞こえにくさ、慣れない環境なども、その時々の力の発揮に影響します。
昨日はできたのに、今日は手順がわからない。自分でも理由がわからないのに、「できるのに、なぜ今日はしないの」と言われると、責められたように感じる。

できる日があるからといって、困っていないとは限りません。本人自身も、うまくできない理由がわからず、悔しさや戸惑いを感じていることがあります。「わざと」「怠けている」と決めつけず、手順を一つずつ伝える、少し待つ、選択肢を絞るなど、本人が自分で続けられる方法を一緒に探します。

認知症が進んで言葉で気持ちを伝えることが難しくなっても、何も感じていないわけではありません。表情や視線、身振り、いつもと違う反応にも、その人の不安や希望が表れることがあります。本人の内面を周囲が決めつけず、反応を確かめながら関わることが大切です。

職場で管理者が変化に気づいたら

仕事での変化に気づいても、管理者が認知症かどうかを判断することはできません。疲れやストレス、体調、薬、視力や聴力など、別の理由が関係していることもあります。

年齢や印象だけで決めつけず、本人の以前の仕事ぶりと比べて、どのような変化が、どのくらい続いているかを見ます。たとえば、慣れた手順の抜けが繰り返される、予定や締め切りの取り違えが増える、作業の段取りに戸惑うといった変化です。一つのミスだけで判断するのではなく、いつ、どの仕事で、どのようなことがあったかを具体的に確認します。

本人と話すときは、人前で指摘せず、落ち着いて話せる場を選びます。「最近おかしい」「認知症ではないですか」と決めつけるのではなく、仕事で起きている事実を伝え、本人の感じている困りごとを尋ねます。
「最近、出荷伝票の確認漏れが続いています。責めたいのではなく、安心して仕事を続ける方法を一緒に考えたいです。ご自身では、やりにくくなったと感じる作業はありますか?」

本人の話を遮らず、続けたい仕事や今も得意なことにも耳を傾けます。本人が望む場合には、産業医や人事、社内の健康相談窓口などを案内します。本人の同意やプライバシーに配慮し、病名や受診状況を必要以上に共有しないことも重要です。

仕事上の工夫として、チェックリストを使う、指示を一度に一つずつ伝える、予定を見える形にする、確認工程を加えるといった方法があります。本人と相談しながら試し、効果を確かめて調整します。運転や機械操作など安全に関わる業務では、診断の有無だけで決めず、仕事上のリスクを具体的に確かめ、ダブルチェックなど必要な対策を話し合います。厚生労働省:治療と仕事の両立支援

なお、数時間から数日の急な変化は、認知症の進行と決めつけず、体調不良などの可能性も考えて医療機関や医療職につなぎます。厚生労働省資料:せん妄と認知症

本人の望む暮らしを、ともに考える

認知症とともに生きる人の毎日には、不安や難しさがあります。同時に、続けたい仕事や役割、楽しみ、人とのつながり、自分で選びたいという思いもあります。

周囲ができるのは、本人を診断名や失敗だけで捉えず、何に困っているのか、何を続けたいのかを聞くことです。職場で変化に気づいたときも、本人の希望を支援の出発点にして、できる工夫を一緒に探していきましょう。

※この記事は一般的な情報です。診断や個別の医療・労務判断を代替するものではありません。急な意識・行動の変化がある場合は、医療機関等に相談してください。
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