「けがをするくらいなら、拘束してほしい」

「けがをするくらいなら、拘束してほしい」

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――その言葉の先で、本人の思いをどう守るか

転んで骨折するくらいなら、動けないようにしてもらった方が安心です」

家族からそう言われたとき、どう答えればよいでしょうか。

けがをしてほしくない。痛い思いをさせたくない。その気持ちは、介護職員にもあります。

一方で、本人には「自分でトイレに行きたい」「まだ自分でできる」という思いがあるかもしれません。

身体拘束をめぐる難しさは、誰かに悪意があるからとは限りません。それぞれが大切にしたいことを持っているのに、話し合いの中で本人の声が小さくなってしまう。そこに、立ち止まる必要があると思います。

「どうして呼んでくれないのか」の前に


「立つときは職員を呼んでください」

何度も伝えたのに、一人で立ち上がってしまう。その場面を「危険を理解していない」「説明を忘れてしまう」と捉えるだけでは、支援の手がかりを見落とすことがあります。

人に助けを求める行動は、学術的には「援助要請」と呼ばれます。助けが必要な状態にあることと、本人が助けを求めることは、必ずしも一致しません。

援助を受けることが、自立してきた自分のあり方と折り合わなかったり、職員への気兼ねにつながったりする場合があります。入院高齢者を対象とした研究でも、援助を受ける体験と、自分らしさや自立との関わりが検討されています。日本看護研究学会雑誌「入院生活を送る後期高齢者の『援助を受ける体験』」

「頼りたくない」のか、「頼むほどのことではない」と思っているのか。それとも、頼みたいときに頼めないのか。同じ「呼ばずに立った」という行動でも、確かめることは違います。

認知機能の低下がある場合にも、行動のすべてを認知症で説明することはできません。

急性期病院の認知障害高齢者9人を対象とした研究では、転倒につながりうる行動の背景に、排泄などの欲求や習慣、苦痛、不安、本人の意向が尊重されないことによるストレスが見いだされています。小規模な病院での研究であり、介護施設のすべての方に当てはまる結果ではありませんが、行動の背景を確かめる大切さを示しています。澤田・山田(2020)

だからこそ、「呼ぶように説明したか」に加えて、「この人は、なぜ呼ばずに動いたのか」を考えたいのです。

家族の安心が、本人の希望より強くなるとき


家族は、骨折後の痛みや入院生活を心配します。職員は、転倒を目の前で防げなかったときの責任を考えます。

その心配を軽く扱うことはできません。

ただ、家族と施設の話し合いだけで「動かない方が安心ですね」とまとまると、本人が大切にしている生活が、十分に確かめられないままになることがあります。

厚生労働省の意思決定支援ガイドラインは、認知症があっても本人の意思を尊重し、意思を表しやすい環境を整えることを基本としています。家族も本人の意思決定を支える立場であり、家族自身の不安への支援も必要です。意思決定支援ガイドライン第2版

話し合いでは、まず本人に尋ねる時間を設ける。言葉で伝えにくい場合は、表情や行動、これまでの暮らしも手がかりにする。そして記録には、「本人の希望」「家族の心配」「職員の評価」を分けて残す。

こうした進め方なら、誰の意見なのかが曖昧になることを防げます。

家族には、本人が大切にしてきたことを一緒に教えてもらう。その関わり方が、本人の声を支える力になります。

なぜ説明が施設側に偏ってしまうのか


ここからは、現場の話し合いを考えるうえでの私の考察です。

転倒や骨折は、起きた日時や結果がはっきり残ります。一方で、自由に動けないつらさや、自分でできることが減っていく過程は、同じようには見えにくいものです。

そのため、話し合いが「次の事故をどう防ぐか」に集中しやすくなるのではないでしょうか。

さらに、職員配置や業務の制約を熟知している責任者ほど、「現場では難しい」という説明が先に出ることがあります。家族を納得させようとして、施設の事情ばかりを伝えてしまうこともあると思います。

必要なのは、その制約を隠すことではありません。本人の希望に照らして、何を変えられるかまで検討することです。

「忙しいので対応できません」で終わらせず、立ち上がる時間帯、排泄のタイミング、職員の役割分担を見直す。実施できる支援を具体的に示すことが、説明への信頼につながります。

責任者は、何をどう伝えるか


たとえば、一人でトイレに行こうとして転倒する心配がある方について、家族が拘束を望んだとします。

責任者からは、次のように伝えることが考えられます。

「けがをしてほしくないというお気持ちは、私たちも同じです。ご本人は、自分でトイレに行きたいと話されています。今は立ち上がるときにふらつくため、その場面の支援が必要だと考えています。

まず、普段トイレに行かれる時間に合わせて声をかけ、立ち上がりと移動をお手伝いする方法を検討します。転倒を完全に防げるとはお約束できませんが、実際の様子を確認して、支援を見直していきます。ご自宅では、どのように過ごされていましたか」

これは説明の一例です。約束する支援は、実施できる体制を確認したうえで伝える必要があります。

そのうえで、身体拘束は原則禁止であり、家族の希望や同意だけで実施できるものではないことも説明します。緊急やむを得ない場合には、切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たすか、組織として慎重に判断する必要があります。厚生労働省「身体拘束廃止・防止の手引き」

制度の説明と、家族の不安を受け止めること。その両方が必要です。

拘束を望まない家族とも、リスクを共有する


家族が「拘束はしてほしくありません」と話した場合も、そこで話し合いを終えることはできません。

本人が望んでいる生活と、今ある危険、施設が行う支援を具体的に共有する必要があります。

「転倒の可能性があります」と伝えるだけでは、家族は何を想像すればよいか分かりません。「立ち上がる直後にふらつく」「夜間、トイレを急ぐことがある」など、実際の場面を説明します。

そして、どの支援を行い、いつ評価し、状態が変わったときにどう連絡するかまで話しておく。

リスクの共有を、「説明したので、事故が起きても了承してください」という話にしてはいけないと思います。家族に選択の責任を預けるのではなく、支援の内容を一緒に確かめ、施設として必要な対応を続けるための対話にしたいのです。

話し合いの中心に、本人の暮らしを戻す


「けがをさせたくない」という思いは、大切です。

そこに、「本人は、どんなふうに暮らしたいのか」という問いを重ねていく。

家族が拘束を望む場合も、望まない場合も、本人の希望を確かめ、危険が生じる場面を具体的に捉え、支援を試して見直す。その積み重ねが必要だと思います。

次のカンファレンスでは、対策を決める前に、一度立ち止まってみませんか。

「ご本人は、何をしたくて動いていたのでしょうか」

その問いから、考えられるケアが変わるかもしれません。

身体拘束の基本と、現場での代替策・家族との対話を学ぶ研修資料を、基礎編と実践編のPDFにまとめています。

・第1弾「身体拘束廃止・適正化 基礎研修」全22ページ
・第2弾「身体拘束をしないと、本当に事故は増えるのか?」実践研修・全26ページ

施設内研修や、チームで支援を振り返る際にご活用いただけます。

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