賢さの値段が、また下がった
Uberは、一年分のAI予算を、四か月で使い切ったそうです。
それだけ、みんなが使っている。そして、それだけ、値段が下がっています。
今週もまた、AIの「賢さ」が安くなりました。今日は、その話をします。
何が起きているのか
OpenAIが、料金の大幅な引き下げを検討しています。ウォール・ストリート・ジャーナルが6月11日に報じ、CNBCなどが追いました。
理由は、はっきりしています。Anthropic(Claudeをつくる会社)との、客の奪い合いです。
きっかけは、開発者たちでした。AnthropicのClaude Codeという、コードを書くための道具。これが作り手のあいだで急に広がって、OpenAIの足元をおびやかしています。
だから、相手が下げる前に、自分から下げる。先回りの値下げです。
数字を並べます。AIに文章を読ませたり書かせたりするとき、その量を「トークン」で数えます。100万トークンあたり、入力の値段はこうです。
OpenAIのGPT-5.5は、5ドル。
AnthropicのClaude Opus 4.8も、5ドル。
そして、GoogleのGemini 3 Proは、2ドル。
Googleが、二社の半分以下の値段で殴り込んでいます。
OpenAIにも、すでに安く使う抜け道はあります。まとめて処理する「バッチ」や、混んだ時間に回す「フレックス」を選ぶと、GPT-5.5の標準料金は5ドルと30ドルから、2.5ドルと15ドルへ。ちょうど半額です。
もっと安い段もあります。GoogleのGemini 3.1 Flash-Liteは、100万トークンがわずか0.1ドル。日本円で15円ほどです。
一番高いモデルと一番安いモデルで、値段の幅は50倍。同じ「AI」という言葉の中に、これだけの開きがあります。
各社とも、用途で段を分けています。Claudeなら、最上位のOpus 4.8が5ドルと25ドル、本命のSonnet 4.6が3ドルと15ドル、軽くて速いHaiku 4.5が1ドルと5ドル。賢さと値段を天秤にかけて選ぶ時代です。
そもそも100万トークンとは、どれくらいか。日本語にして、ざっくり数十万字。文庫本にすれば、何冊ぶんにもなります。その大きな束が、いまは数十円から数百円で動きます。
高いほうの端も、見ておきます。GPT-5.5には、難しい考えごと向けの「Pro」があり、入力30ドル・出力180ドル。一番安い段とは、何百倍も開きます。
Googleは5月の開発者会議で、軽いモデルのGemini 3.5 Flashを出しました。「企業のAIコストを、年に10億ドル以上減らせる」と説明しています。すでにGeminiアプリと検索の標準になりました。
個人向けも、下がっています。GoogleはAI Plusという入り口を、月4.99ドル(およそ725円)にしました。画像も動画もつくれて、保存場所も400ギガつく。AIを、できるだけ多くの人の暮らしに滑り込ませにきています。
賢さを、安売りする。これが、いまの戦争の中身です。
## 値段を、下げない会社もある
ここまで値下げの話ばかりでしたが、全員が安売りに走っているわけではありません。
Anthropicは、いまのところAPIの単価を下げていません。Claude Opus 4.8は、入力5ドルのまま。Googleの2ドルや、最安級の0.1ドルと並べると、強気の値づけです。
賢さの質で選ばれている。そういう自負なのでしょう。安さで数を取りにいくより、質で選ばれる道を選んでいる。客のほうから来るうちは、値下げを急ぐ理由は薄いわけです。
とはいえ、構えが揺れる場面もありました。
Anthropicは6月15日から、プログラムで動かす使い方(Agent SDKなど)を、別の従量課金に分けると予告していました。ところが、始まるはずの当日に撤回。いまは元どおり、サブスクの枠の中で使えます。
値段は下がる方へ進みながら、構え方は会社ごとに違い、方針も揺れる。きれいな一本道では、ありません。
なぜ、そこまで安くするのか
裏側で、お金が燃えているからです。
AnthropicのClaudeは、売上が年換算で300億ドルを超えました。年換算とは、いまのペースがこのまま一年続いたら、という見方です。2025年末はおよそ90億ドルでしたから、半年あまりで三倍を超えた勢いです。年に100万ドル以上を使う法人のお客が、二か月たらずで倍に増え、1,000社を超えました。
需要は、すごい。でも、出ていくお金も、すごい。
Salesforceは、今年だけでAnthropicに約3億ドルを払う見込み。OpenAIとAnthropicの二社は、2026年に計算や訓練などで、合わせて650億ドル近くを使うと見られています。日本円にすれば、およそ10兆円。OpenAIの現金の燃え方は、Anthropicの14倍ほどとも言われます。
両社とも、株式の公開(IPO)を控えています。だからこそ、お客を一人でも多く、長く、囲い込みたい。値下げは、その一番わかりやすい手です。
競争の軸が、変わりました。
少し前まで、勝負は「どのモデルが一番賢いか」でした。いまは「どれだけ安く、どれだけ広く届けるか」に移っています。
電気自動車の値下げ合戦に、よく似ています。性能の自慢から、値段と量の勝負へ。
もうひとつ、Googleには強みがあります。Geminiの安さは仕組みからくる安さで、OpenAIやAnthropicが簡単には真似できない、と見られています。計算の土台を、長い時間をかけて自前で築いてきたからです。
見方も、少し変わりました。「1トークンいくら」ではなく、「同じ賢さを、いくらで買えるか」。値段あたりの知能で、測りはじめています。
安くなって、見えてきたこと
ここで、ひとつだけ。
賢さが、誰でも安く手に入る日用品になりつつあります。0.1ドルの賢さが、すぐ手の届くところにある。
便利です。ありがたい。私も毎日、その恩恵を受けています。
でも、賢さが安くなると、賢さでは差がつかなくなります。
同じくらい賢いAIを、誰もが、ほぼタダ同然で使える。そうなったとき、お客があなたを選ぶ理由は、どこに残るのか。
私は、信頼だと思っています。
AIは、速い。賢い。安い。けれど、謝れない。背負えない。
トークンは1ドルでも、信頼には値札がつきません。積むのに何年もかかって、失うのは一通のメールで足ります。
だから、最後に「送る」その一点だけは、人の手に残しておく。
速くするのは、AI。決断するのは、あなた。
今日も、ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
記事が気に入ったら、スキを。
フォローも、うれしいです。