「祈祷って、実際は何をしているんですか」
以前、三日間の流れについては書きました。
今日は、その中で何を使い、何を唱えているのかを書きます。
見えないものを扱う仕事ですが、使っている物は、どれも地味で現実的です。
■先に申し上げておくと、道具に力はありません
水や塩や紙に、それ自体の力があるわけではありません。
道具は、祈る側の意識を一点に集めるためにあります。
散らかった机では考えがまとまらないのと、理屈は同じです。
「この道具があるから効く」と言う人がいたら、その言葉は疑ってください。
■一、水と塩と麻
祈祷の前に、場を整えます。
白い器に水を張る。粗塩を小皿に盛る。麻の紐を一本置く。
この三つは、古くから「場の余計なものを抜く」ために使われてきました。
水は流す、塩は締める、麻は結ぶ。
人の気持ちも同じで、流して、締めて、結び直す順でしか整いません。
■二、火
和蝋燭を一本だけ灯します。
複数は灯しません。意識が散るからです。
火は、陰陽五行では「火」にあたります(熱・想い)。
想いを一点に集め、形にする側へ渡す役目があります。
炎の揺れ方は、その日の空気で変わります。
私はそこも見ています。
■三、符——紙に書く理由
陰陽道では、願いや整えたい事柄を紙に書きます。
なぜ紙かというと、書くことで「輪郭が決まる」からです。
頭の中にあるうちは、願いは形を持ちません。文字にして初めて、扱える大きさになります。
和紙に、墨で書く。朱を一点だけ入れる。
書き損じは使いません。迷いがそのまま線に出るからです。
これは特別な話ではありません。
悩んでいることを紙に書き出すと整理される、という経験は、どなたにもあると思います。符はその延長にあります。
■四、人形と形代
白い紙を人の形に切ったものを使うことがあります。
ご本人の代わりに、重さを移すための紙です。
名前を書き、息を一度吹きかけ、こちらで預かります。
「人の代わりに引き受けさせる」という発想は、世界中の古い作法に共通してあります。
日本では紙でしたが、土や木の国もあります。
■五、暦と方位
いちばん使うのは、暦です。
その日が何の日か、どの方角が動きやすいか。
生年月日から、その方の生まれ持った性質を出す。
ここだけは道具ではなく、計算です。
私の鑑定の土台は、こちらにあります。
■唱えている言葉
結びに唱えるのは「急急如律令」(きゅうきゅうにょりつりょう)です。
もとは古代中国の公文書の結びの言葉で、「速やかに、定めのとおりに」という意味だったとされます。それが道教を通じて日本に入り、陰陽道で使われるようになりました。
神様や仏様の名前は呼びません。
私が扱うのは暦と五行なので、呼ぶ相手がいないのです。
手で九字を切ることもあります。
「臨兵闘者皆陣列在前」の九文字を、手刀で縦横に切る所作です。これも道教の書物に由来するとされます。
足で地を踏む反閇(へんばい)という所作もあります。
踏むことで、その場の気を鎮める。盆踊りや相撲の四股と、根は同じものです。
■やらないこと
人を害する祈祷はいたしません。
縁を断つ依頼もお受けしていません。
相手の心を変える祈祷も、できません。
整えるのは流れであって、人の意思ではありません。
そして、結果をお約束することもありません。
道具を並べても、唱えても、人の心が関わることに確実はありません。
■道具がなくても、できること
ここまで読んで「自分でもやってみたい」と思われた方へ。
特別な物は要りません。次の三つで十分です。
一、朝に水を一杯飲む
二、深呼吸を三回する
三、書き出す(迷っていることを紙に一行)
三つめが、符と同じ働きをします。
輪郭が決まると、扱えるようになります。
まずはご自身のペースで試していただくだけでも十分です。
そのうえで、自分だけでは届かない範囲があると感じた時に、頼っていただければと思います。
玄征