あの頃の尻ぬぐい相手が、高好感度タレントになっていた話。

あの頃の尻ぬぐい相手が、高好感度タレントになっていた話。

記事
コラム
平日のショッピングモールは、
“今日はちょっとゆるく生きたい人”が集まる場所だと思う。
私もその一員で、
髪は跳ねたまま、
歩くスピードは省エネ、
エスカレーターでは完全に“置物”。

そんな私の耳に、
突然、館内放送が降ってきた。

「本日もご来店ありがとうございます──」

……ん?
この声、知ってる。
いや、知ってるどころじゃない。

昔、私が尻ぬぐいをしていたあの人の声だ。

一瞬で背筋が伸びた。
休日なのに、急に“元・仕事モード”が蘇るな。

だって彼は、
締切を守らない天才で、
資料を忘れる名人で、
台本をなくすプロフェッショナルだった。

そして私は、
その尻ぬぐい担当だった。

深夜の事務所で、
「ごめん、ほんとにごめん」
「次は絶対やるから」
「確認ミスです……」
という言い訳を聞きながら、
リスケし、
彼の代わりに謝り、
缶コーヒーを二本飲んで眠気と戦った。

そんな彼の声が、
今、某ショッピングモールで流れている。

しかも──
顔まで出ている。

エスカレーターの上の巨大モニターに、
彼の顔がドーン。

エレベーター内の小さな画面にも、
彼の顔がチョコン。

通路の天井からぶら下がってる横長モニターにも、
彼の顔がスッ。

どこを向いても、
彼、彼、彼。

え、ビジュ全面推しだった?私よりだいぶ年上だった記憶だけど(失礼)

でもね、
その顔を見ていると、
なぜか笑えてくる。

そして、
ちょっとだけ胸があたたかくなる。

だって、
大手と契約できるなんて、本当にすごい。  
たぶん今はフリーでやってるんだろう。
あの頃、資料を忘れて私に泣きついてきた人と同一人物とは思えない。

人って、ちゃんと変わるんだな。
いや、変わってくれ。
私の睡眠時間を返してほしいけど、
それはそれとして、
素直に嬉しかった。

私は靴下を三足抱えたまま、
モニターに映る“元仕事仲間の顔”に軽く会釈して、
少しだけ姿勢を整えて歩き出した。

ゆるいけど、
なんだか誇らしい休日だ。
私も負けないように頑張らなくちゃ。

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す