第1 財産権における答案の基本方針
財産権は、多くの受験生が苦手としている分野の一つです。
そのため、財産権を題材とする問題が出題されると、答案全体が大きく崩れてしまうケースも少なくありません。
私がこれまで添削してきた答案についていえば、財産権について一定の水準で論述できている答案は、40~50通に1通程度という印象です。
そこで以下では、財産権が問題となった場合に大きく崩れないための「守り」の答案の書き方として、私がおすすめする方法をご紹介します。
第2 証券取引法事件(最大判平14・2・13)に依拠し、比較衡量の規範を定立する。
私のおすすめは、証券取引法事件に依拠し、比較衡量の規範を立てた上で、当てはめで勝負するという方法です。
たしかに、森林法共有林事件、証券取引法事件、国有農地等売払特別措置法事件(最大判昭53・7・12)などの判例と当該問題との異同を踏まえた上で、適切な規範を定立することができるのであれば素晴らしいと思います。
もっとも、これは相当に難度が高いです。
そこで、財産権規制について汎用性の高い判断枠組みを示している証券取引法事件に依拠し、その比較衡量の規範を用いて論じることをおすすめしています。
これは、答案を大きく崩さないための安全策であると同時に、財産権に関する判例の判断枠組みを理解していることを採点者に示すことのできる書き方でもあります。
なぜなら、近年の最高裁判例は、証券取引法事件の判断枠組みに沿って比較衡量を行っていることが多いため、証券取引法事件と同様の判断構造で答案を構成することにより、判例の理解を踏まえて論じていることを採点者に示すことができるからです。
たとえば、区分所有法70条1項の合憲性が争われた最判平21・4・23は、「・・・そうすると、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して判断すれば、区分所有法70条は、憲法29条に違反するものではない。このことは、最高裁平成12年(オ)第1965号、同年(受)第1703号同14年2月13日大法廷判決・民集56巻2号331頁の趣旨に徴して明らかである。」と判示し、証券取引法事件を引用した上で同事件の判断枠組みに沿って事案の検討をし、結論として合憲としています。
第2 規範の正確な暗記の重要性
私は上記理由から財産権に対する規制の合憲性を検討する際には、証券取引法事件に依拠して基準を定立することをおすすめしています。
その上で、同判例が示した、
「財産権に対する規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して判断すべきものである。」
という判旨部分については、答案上、正確に再現できる程度に丸暗記しておくことをおすすめします。
なぜなら、規範定立でずれてしまうと、それに続くあてはめも連動してずれてしまい、結果として答案全体の評価を下げることになりかねないからです。
したがって、すべての科目に共通するのですが、規範は正確に書けるようになっておきましょう。
そして、できれば、
「財産権は、それ自体に内在する制約がある外、その性質上社会全体の利益を図るために立法府によって加えられる規制により制約を受けるものである。財産権の種類、性質等は多種多様であり、また、財産権に対する規制を必要とする社会的理由ないし目的も、社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策に基づくものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等を図るものまで多岐にわたるため、財産権に対する規制は、種々の態様のものがあり得る。」
という、比較衡量の規範を導くための理由付けについても、できる限り正確に答案上で表現できるようになってほしいところです。
第3 森林法共有林事件(最大判昭62・4・22)について
ところで、受験生の中には、「何らの説明もなく」証券取引法事件(最大判平14・2・13)ではなく、森林法共有林事件(最大判昭62・4・22)に依拠する答案が相当数あります。
たしかに、森林法共有林事件(最大判昭62・4・22)の射程が当該問題に及ぶのであれば、そのことを丁寧に論証した上で、同判例に依拠して論じることは適切です。
もっとも、最高裁は、証券取引法事件判決以降、森林法共有林事件判決ではなく、証券取引法事件判決を先例として引用する傾向がみられるとの指摘があります(渡辺康行=宍戸常寿=松本和彦=工藤達朗著『憲法Ⅰ―基本権[第2版]』日本評論社、2023年、369頁)。
先ほど取り上げた最判平21・4・23も、その一例です。
したがって、証券取引法事件と森林法共有林事件との相違を正確に理解し、事案に応じて適切に使い分けることができる受験生は別として、そうでない場合には、証券取引法事件に依拠して論じるのが穏当でしょう。
第4 証券取引法事件が示した比較衡量の考慮要素を、あてはめに反映する
せっかく証券取引法事件の規範を正確に答案上で示すことができているにもかかわらず、同判例が示した考慮要素を十分に意識することなく、あてはめを展開している答案が少なくありません。
これでは、規範を形式的に記憶しているだけで、その内容や判断構造を十分に理解していないと評価されかねません。
証券取引法事件は、
「・・・規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等・・・」
と判示し、比較衡量を行うに当たって考慮すべき具体的な要素を示しています。
そうである以上、答案を作成する際には、これらの考慮要素を意識しながら問題文を読み、それぞれの要素に対応する事実を拾い上げ、法的に評価していくことが重要です。
それが出来ていれば、判例の判断枠組みを理解した答案という評価につながるはずです。
ぜひ、財産権の問題を検討する際には意識してみてください。