話がそれていく患者さんに直面したとき、私が心の中でやっていること

話がそれていく患者さんに直面したとき、私が心の中でやっていること

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コラム
新しく担当する患者さんを前にしたとき、私たちが知りたいのは「どの動作で、どんな痛みが、生活のどこに支障をきたしているか」という具体的な事実です。

けれど、現場ではなかなかスムーズにいかないことも多いです。「最近はなんだか力が弱くなってきた気がして……」「とりあえず、なるべく歩くようにはしているんだけどね……」。痛みの場所がはっきりしなかったり、具体的な生活の場面が出てこなかったりして、話がどんどん違う方向へそれていってしまいます。「そこが知りたいわけじゃないんだよな」と、心の中で少しだけもどかしくなってしまう瞬間があります。

早く情報を整理して評価をしたいというセラピスト側の焦りと、自分の体の変化をうまく言葉にできずにもがいている患者さんのズレ。でも、「話がそれてしまった」とただ切り捨てるのではなく、そんなときこそ私は頭の中でいくつかの工夫を試すようにしています。

痛みの部位があいまいな場合があるのは、仕方のないことです。患者さん自身も、どこがどう痛いのかハッキリと捉えきれていないことが多いからです。だからこそ、無理にピンポイントの場所を聞き出すのではなく、アプローチの角度を変えてみます。「痛みの強さは、どのくらい感じますか」「痛む範囲は、手のひらくらいですか、それとも一点ですか」「ズキズキする感じですか、重だるい感じですか」。痛みの質や範囲、強さを尋ねることで、ぼんやりしていた痛みに少しずつ輪郭を持たせていきます。

「いま、何に困っていますか」という質問は、患者さんにとっては少し広すぎて、かえって答えに窮してしまうことが多いです。だからこそ、こちらから具体的な場面へと細かく落とし込んで、選択肢をそっと手渡すように問いの解像度を変えていきます。「仕事中ですか、それとも家事のときですか」「朝起きたときですか」「椅子から立ち上がるとき、歩くとき」「膝を曲げたときですか、それとも伸ばしたときですか」。相手の反応を見ながら、いくつかの言葉を手を変え品を変え、ラジオの周波数を合わせるようにそっと投げ直してみます。患者さんの目線に合わせ、お互いの共通言語が見つかるまで言葉を調整していくのです。

こうした質問のキャッチボールをしていると、ふと気づくことがあります。私たちがこれらの質問をしているのは、もちろん「私たちが患者さんの状態を正しく理解するため」です。評価を下し、リハビリの方向性を決めるために必要なプロセスだからです。

けれど、それと同時に、この問いかけのすべてが、「患者さん自身が自分の状態を把握するためのヒント」になっています。「あ、そう言えば朝起きるときが一番痛いかもしれない」「歩くときは平気だけど、立ち上がるときにここが突っ張るんだわ」。私たちが解像度の高い言葉を差し出すことで、患者さんもまた、自分の体で何が起きているのかを初めて言葉にできるようになります。会話がそれていたのは、言葉を探すための助走だったのだと気づかされます。

すんなり綺麗な答えが返ってこなくてもいい。話がそれてしまっても、目線を合わせ、質問の具体度を変えながら、言葉を選んで試してみる。その一見遠回りに思えるコミュニケーションの積み重ねは、私たちが患者さんを理解するためだけでなく、患者さんが自分の体と再びつながるための時間でもあります。

今日も目の前の人と向き合いながら、そっと言葉の周波数を合わせていこうと思います。

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