井戸の底から見上げた空

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こんにちは!前嶋拳人です。

人里離れた場所にひっそりと残された、古い井戸のふちに腰を下ろして中をのぞき込んだことがありますか。ひんやりとした空気が漂うその場所は、かつて多くの人々の喉を潤すための大切な水をずっと蓄え続けてきました。石積みの壁面には長い年月をかけて苔がむし、その静かなたたずまいはどこか時間の流れを止めたかのような不思議な力を持っています。井戸の底のわずかな水面に映し出される丸い空を見上げていると、物事の本質や深さについてふと色々な思いが浮かんできます。

会社員として大きな組織の中に身を置いていた頃の私の仕事は、まさにこの深い井戸をコツコツと掘り進めるような作業の連続でした。決まった深さまで頑丈な壁を作り、濁りのないきれいな水を絶やさず引き上げるために、あらかじめ用意された手順やルールを誰よりも正確になぞっていくことが求められていました。何年もかけて一つの大きな仕組みを底から支え続ける毎日は、確かな手応えがあり、自分たちの手で社会を潤しているという誇りを与えてくれました。

けれど、いつの頃からか、その深い井戸の底から外の世界へ、もっと軽やかに流れる川や海の水と出会ってみたいという気持ちが芽生えてきました。ひとつの場所に深くこもって水をくみ上げるだけでなく、さまざまな土地を巡りながら、いまそこにいる人たちが本当に必要としている潤いを自分の手で差し出したいと思ったのです。

思い切って井戸のふちから一歩踏み出し、フリーランスという新しい川の流れに身を委ねてみたとき、視界は一気に開けました。そこには決まった枠組みの中だけでは見えなかったような、多種多様な人々の営みや、それぞれの場所が抱えるユニークな課題が広がっていました。使う道具も、水の運び方も、現場ごとにまったく違っていて、その都度あたらしい工夫を凝らす面白さに夢中になりました。

いま、さまざまなプロジェクトで技術に向き合うとき、私はときどきあの古い井戸のことを思い出します。どれほど時代や仕組みが変わろうとも、誰かの渇きを癒やすために誠実で濁りのない水を届けるという本質は変わりません。深みを知っているからこそ、表面を流れる水の速さに惑わされず、じっくりと足元を見つめることができます。

今日もどこかで誰かが小さな渇きを覚えているかもしれません。大げさに世界を変えるような大波を起こすのではなく、いま目の前にある暮らしや仕事の現場に、そっと必要とされる一杯の清らかな水を差し出せるような存在であり続けたいと願いながら、きょうも穏やかにキーボードを叩いています。
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