こんにちは!前嶋拳人です。
お気に入りの陶器のカップに、ゆっくりと温かい飲み物を注ぐときのあの静かな時間が好きです。手のひらに伝わってくる土のざらりとした感触や、少しずつ立ち上る湯気を眺めていると、慌ただしい毎日のなかで置き去りになっていた自分の呼吸をふっと取り戻せるような気がします。すいつくように手に馴染む重みは、使い込むほどにその人に合わせた独特の表情を帯びていきます。
会社員として大きな組織のなかに身を置いていた頃の私の仕事は、どちらかというとこのカップを自分で選ぶというよりも、あらかじめ工場で何千個も均一に量産された頑丈なマグカップを、決められた棚の定位置にピタリと収めていくような作業に近かったように思います。どこをとっても歪みがなく、誰が手にとっても同じように使える均質な器を整えることは、それ自体が社会を支える確かな基盤を作る誇らしい仕事でした。
けれど、いつしかその整然と並んだ棚の隙間から、もっと土の匂いのする、不揃いであってもその場にいる人にぴったりと寄り添うような器を作ってみたいという気持ちが芽生えてきました。大きな組織を離れてフリーランスという道を選び、さまざまな現場に足を運ぶようになったいま、私はまるであの陶器のカップをひとつずつ手作りしていくような感覚で、目の前のシステムやプロジェクトに向き合っています。
現場ごとに、求められるサイズも、温かさの保ち方も、手にしたときの心地よさもまったく違います。お仕着せの設計図をそのまま当てはめるのではなく、そこで暮らす人や働く人たちが本当に使いやすい形はどんなものだろうと、何度も土をこね直すように対話を重ねながら形にしていく面白さに夢中になります。時にはひび割れそうになったり、形が思うように定まらなかったりする難しさもありますが、その揺らぎすらも手作りの器が持つ味わいとして大切にしたいと思うのです。
デジタルな技術という冷たく見えがちな素材であっても、そこにこめる人の手の温もりや配慮しだいで、使う人の心をそっと温める道具へと変わっていきます。機械的にただ正しい答えを返すだけでなく、手にした人がこれがあってよかったと微笑んでくれるような、そんな生きた仕組みをこれからも丁寧に焼き上げていきたいです。
今日もどこかのキッチンや仕事場で、だれかがお気に入りのカップをそっと包み込んでいることでしょう。私も自分の手のひらのなかに残る確かな土の感触を忘れずに、しなやかであたたかな一歩をこれからも重ねていきたいと思います。