納品ファイルから溢れ出した銀色の望遠鏡

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こんにちは!前嶋拳人です。

画面上の納品ボタンをクリックしようとした瞬間、マウスを握る指先に、これまでに感じたことのない妙な重みを感じました。それは単なる疲れではなく、まるで指先だけが地球の反対側の重力に引き寄せられているような、奇妙で抗いがたい感覚でした。視線を落とすと、キーボードの隙間から細かな銀色の砂が溢れ出し、それがデスクの上で急速に結晶化して、一本の古びた望遠鏡へと姿を変えていきました。

私は導かれるように、その冷たい金属の筒を覗き込みました。レンズの向こうに見えたのは、インターネットの海を漂うデータの群れではなく、見たこともないほど広大な夜空の下で演奏を続ける、巨大なオーケストラの姿でした。彼らが奏でる旋律には楽譜がなく、一音が鳴るたびに、誰かがどこかで書き残した古いテキストが、巨大な消しゴムで消されたかのように白い光となって霧散していくのが見えました。

私たちは、自分が作り上げた成果物が、光ファイバーを通って正確に相手へ届くと信じています。けれど本当は、このネットワークという名の巨大な空洞の中で、誰の目にも触れないまま、全く別の意味を持つ物語へと書き換えられているのかもしれません。望遠鏡の倍率を上げると、画面に表示されていたはずの納品ファイルが、実は無数の光の魚たちが跳ねる水槽であったことが分かりました。

ふと耳を澄ますと、部屋のどこからか、氷が割れるような高い音色が響き始めました。オーケストラの指揮者がタクトを振るたびに、私の部屋の壁は透明なガラスへと変わり、その向こう側には三百年後の未来の廃墟が、青白い月明かりに照らされて静かに眠っていました。かつて組織の中で論理を武器に戦っていた頃の記憶が、望遠鏡の奥底へと吸い込まれ、二度と取り出せない深い暗闇へと消えていきました。

もし、この納品ボタンを押した瞬間、私の存在自体が「送信済み」となって、この世界から消去されてしまうのだとしたら。

私は、銀色の望遠鏡を強く握りしめました。掌から伝わってくるのは、絶対零度の静寂と、まだ誰も一度も名前を付けたことのない、新しい孤独の重さでした。オーケストラの調べは次第に激しさを増し、窓の外では都会のビル群が、使い古された楽器のように低い唸り声を上げながら、夜の深淵へと溶け出していきました。

時計の針はもはや円を描くのをやめ、三つの月が重なる未知の時刻を指したまま、凍りついたように静止していました。
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