長期インターンも、もう慣れた。
最初はがむしゃらに取り組んでいたけれど、最近はどこか退屈に感じる。
どれだけ大きな仕事を任されても、結局は雑務の延長。
説明会も、最初こそ新鮮だったけど、何度も聞くうちに話の内容もパターンも分かってきてしまった。
面白くはあるけれど、どこか薄っぺらく感じるようになった。
今日は面接に来る学生の受付担当。
書類にサインをもらい、記録をつける。ただの作業。
午前の面接が終わったあと、あの人とNATSUさんがロビーで話しているのが見えた。
「ヤバいね、あの子」
「はい。素晴らしい学生でした」
相当気に入られた学生がいたらしい。
なぜだか、気になった。
「誰ですか?」
「AYUMIさん。国際基督大学の学生です」
履歴書と面接シートを見せてもらった。
評価が異様に高い。私なんかよりも、ずっと。
(……どうして?)
「何がそんなにすごいんですか?」
思わず聞いていた。
彼女のどこが、自分より優れているのか、納得できなかった。
NATSUさんは少し目を伏せ、柔らかく答えた。
「私にはわからないよ」
(嘘だ)
彼女は、物事の本質を見抜く力を持っている。
それなのに「わからない」なんて、あるわけがない。
諦めず、角度を変えて聞いてみた。
「彼女のどこを評価されたんですか?」
ワッフルを齧りながら、コーヒーを飲んでいた彼に問う。
「目だよ」
一言だけだった。
「……目?」
すぐには意味が理解できなかった。
「じゃあ、私の目はどうなんですか?」
気づけば、口にしていた。
彼は軽く笑った。
「だから、君は優しいって言っただろ?」
——優しさ?
それが、評価に繋がるの?
彼は続けた。
「AYUMIには『愛』がある。人を癒す力があるんだ」
ますます理解できなかった。
私には、彼女の『愛』とやらが演技にしか見えなかった。
(むしろ、演技がうまいだけなんじゃないの?)
「私も、面接に入らせてください。勉強のために」
自然と、言葉が出ていた。
空気が、少し張りつめた。
彼の面接の書記は、いつもNATSUさんと決まっている。
そこに私が入るなんて。
彼はNATSUさんに視線を送る。
NATSUさんは、静かに一言。
「用意してあります」
面接シートと履歴書が、私に手渡された。
その瞬間、二人の呼吸の合ったやり取りに、嫉妬を覚えた。
どうして、こんなにも自然に連携が取れるのか。
どうして、彼は私よりもNATSUさんを信頼しているのか。
(私の方が、彼のこと、理解しているはずなのに)
面接の時間が近づいていた。
冷静を装いながらも、心の奥では焦りが募る。
ただの書記ではなく、彼のやり取りを間近で感じたい。
彼の価値観を、もっと知りたい——そう思った。
面接が始まる。
面接官として座る彼。
隣で書記を務める私。
私は彼の一挙一動を見逃さないよう、目を凝らした。
——でも、すぐに違和感を覚えた。
私のときと、明らかに違う。
学生ごとに、質問がまるで変わっている。
テンポも早くて、ついていけない。
ふと、学生が涙を流していることに気づく。
(……何が起きてるの?)
彼は「愛」について問いかけていた。
明らかに、さっきのAYUMIさんの影響だ。
今の彼の関心は、「愛」に向いている。
「愛する人が罪を犯しても、君はその人を愛し続けることができるかい?」
(……なんて質問)
私は、無理だ。
それが正しいと思っている。
でも、「愛します」と答える学生がいた。
彼は静かに微笑みながら言った。
「君は本気で言っているね。愛は与えるもの、と理解している」
そして優しく続けた。
「また話せたらいいね」
——何なの、これ。
面接が終わった。
私は、釈然としなかった。
「愛します」と答えた学生の評価が最も高く、
私が「優秀」だと感じた学生は、ギリギリで合格だった。
納得がいかなかった。
私はNATSUさんに、食い気味で尋ねた。
「評価基準が、よくわかりません」
NATSUさんは少しだけ目を細めて、言った。
「あの人が、全てだから」
(……そんな属人的な評価で、いいの?)
彼女は面接シートを覗き込み、ふと呟く。
「ちょっと、見せて」
数秒の沈黙の後、さらっと言った。
「私となら、そのギリギリ評価の子、不合格だったかも」
——え?
「あなたが不満を持ちそうだから、合格にしたのかもね」
その一言に、カッとなった。
「私が邪魔したとでも?」
NATSUさんは何も言わず、静かに微笑んだ。
胸の奥で、何かがざわついた。
——私の評価基準と、彼の評価基準は違う。
それが悔しかった。
納得できなかった。
彼の「愛」という基準が、私には理解できない。
(私は、そんなふわっとした感情論じゃなくて、もっとちゃんとした基準で判断できるのに)
心のどこかで、そう思っていた。
——私の方が、正しいはずなのに。
MARIの精神は、じわじわと乱れていった。