「一覧から間違えて消してしまったのですが、戻せますか」。この連絡を受けたとき、最初に聞くのは保存先ではない。最後に戻す作業をやってみたのはいつですか、と聞く。ここで言葉が止まる会社は多い。保存先はすぐ答えられるのに、戻した日付だけが出てこない。
設定そのものは、たいてい済んでいる。作った業者が入れてくれて、毎晩どこかに保存され、管理画面にも「成功」と出ている。ただ、そこから戻して業務を再開したことは一度もない、という状態がほとんどだ。
取れていることと戻せることは、地続きに見えて別の話になる。あいだに何段も条件があって、どれかが抜けていると、いざというときに「ファイルはあるのに使えない」で止まる。しかも困っている当日に、初めてそれを知ることになります。
「取れている」と「戻せる」は別の話
取れている、は控えのファイルがどこかに出来ている状態のこと。戻せる、はその控えを使って、明日の朝から業務を再開できる状態のことだ。二つのあいだには、控えが壊れていないこと、中身が空でないこと、戻す手順が分かること、戻す権限を持つ人がいること、戻す先の入れ物を用意できること、が並んでいる。
どれか一つ抜けていれば、結果は同じで「戻せない」になる。しかも抜けているかどうかは、実際に戻してみるまで分からない。取れている側は毎日画面で確認できるのに、戻せる側は試さないと確認できない。この非対称が、いちばんの落とし穴になる。
バックアップは毎日取っています。ただ、そこから戻したことは一度もありません。
だから確かめる質問を変える。「どこに保存していますか」ではなく「最後に戻して動かしたのはいつですか」。日付で答えられれば、守れている。答えられないなら、いまは取れているだけの状態だと考えたほうがいい。
守るものは、入力したデータと添付したファイル
業務アプリが抱えているものは、大きく二つに分かれる。画面から入力した内容と、そこに貼り付けた実物のファイル。見積書のPDF、現場の写真、図面、先方から送られてきた注文書。この二つは、たいてい別の場所に置かれている。
入力した内容はデータベースに入り、添付ファイルは別の保管場所に置かれて、名前だけがデータベース側に記録されている形が多い。取り方も別々になるので、片方の設定だけ入れて終わっている、ということが起きる。
入力データだけ戻すと、一覧は元どおりに並ぶのに、明細を開いた先の写真やPDFが開けない。逆にファイルだけ同期していてデータベースを取っていないと、その画像がどの案件のものだったのかが分からなくなる。ファイル名からは戻せない。
もう一つ見ておきたいのが、二つが同じ時点のもので揃っているかという点だ。データは今朝ぶん、ファイルは先週ぶん、という組み合わせだと、戻した直後に「あるはずの添付が無い」行が並ぶ。控えは、いつ時点のものかまで含めて一組で持つ。
上の三つは設定を見れば分かる。難しいのは下の二つで、こちらは管理画面を眺めても出てこない。手順書か台帳に書いてあるかどうかで決まる。書いていないなら、いまそれを知っているのは設定した本人だけ、ということになります。
同じ場所に置いた控えは、保険にならない
本体と同じサーバー、同じディスク、同じアカウントの中に控えを置いている構成をよく見かける。毎日きちんと出来ているし、容量も足りている。設定としては間違っていない。ただ本体を失う原因の多くは、控えも一緒に巻き込む。守りたい相手と同じ船に、保険を積んでいることになる。
実際に起きるのは、機械が壊れる話ばかりではない。支払いが止まってアカウントごと使えなくなる。整理のつもりでフォルダを丸ごと消す。契約をやめたら中身も消えた。どれも、同じ場所にある控えは同時に失われる。
だから、離れた場所に一本置く。凝った仕組みは要らなくて、週に一度、手元のパソコンか社内の保管場所へ落としておくだけでも効く。人が触るぶん「今週も落とした」という事実が残るので、止まったときに気づけるという利点もある。
何日前まで戻せるかを、本数で決める
「バックアップしています」と言うとき、控えが一本しかないことがある。毎晩、同じ場所に上書きされている形だ。この作りは、その日のうちに気づく事故には強い。ところが、気づくまでに日数がかかる壊れ方にはほとんど効かない。
取り込みで同じ伝票が二重に入っていた。一括で直したときに、関係ない行まで巻き込んでいた。数か月前の行がいつのまにか抜けていた。どれも気づくのは月末の締めか、先方から指摘されたときになる。その頃には、壊れた状態のほうで何度も上書きされている。
そこで世代を本数で決める。判断の基準は「何日前まで戻れるか」の一点だ。日ごとの控えを7本、週ごとを4本残せば、一か月前まで遡れる。締めのある業務なら、締めた時点の控えを月に一本だけ別に取り分けておくと、後から数字を突き合わせられる。
半年に一度、戻す練習をする
ここまでの話は、一度戻してみればまとめて確認できる。控えが読めるか、添付まで揃っているか、手順が通じるか、権限が足りているか。書類の上で点検するより早いし、抜けが見つかったときの直し方もその場で分かる。本番を止める必要はなく、別に用意した入れ物で試せば足ります。
大事なのは5番だ。次に本当に困った人が読むのは、この1枚になる。作業した本人はその場では覚えているので書かずに済ませがちだが、半年後には自分も忘れている。所要時間まで書いておくと、事故のときに「何時間で戻せるか」を人に伝えられる。
これから発注する場合は、見積りの納品物の欄に入れてもらうといい。頼み方は「バックアップの取り方と、そこから元に戻す手順を、実際にやった記録つきで1枚ください」でいい。引き渡しの場で一度、目の前で戻してもらうのが早い。作った人が居るあいだにしか頼めない工程です。
誰がやるかを、人ではなく役割で決める
「あれは詳しい人がやってくれている」で回っている状態は、その人が休んだ月に止まる。決めるのは三つだけでいい。やる人を役割の名前で決めること、代わりの人を一人置くこと、そして取れたかどうかをどこで確かめるかを決めること。
三つ目が抜けやすい。うまくいった日も、失敗した日も、画面は静かなままだからだ。取れた記録を残して、月に一度その欄を見る。記録が残っていないものは、後から誰にも確かめられない。バックアップが守っているのは機械ではなく、確かめられる状態のほうです。
当方は元金融系のシステムエンジニアで、Excel・紙で回している業務を月額0円の買い切りWebアプリにする仕事をしている。いま使っているアプリの控えがどうなっているか分からない、という段階のご相談でも構いません。ココナラのメッセージからご相談ください。